釘の読み方
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10年来の友人である「アキオ」は、80年代からの約30年近い稼働実績を誇り、羽根物全般を得意とする元パチプロだ。そう、彼は先ごろ現役生活を引退したのだ。

彼は昭和の香りが色濃く残る、床張りでボロ屋の建物が印象的なホールでジグマプロとして活躍していたのだが、氏曰く「ほぼ負ける心配がなかった昭和から平成に移りゆく時代がパチプロとしてのピークだった」とのこと。

その時代は、羽根物の営業形態は3000発や5000発など店側が決めた出玉に達すると交換しなければならない『定量制』が主流。当時は100円玉で25発を借りることも可能だったのだが、アキオは100円で打ち止めまで達することも多々あったそうだ。


ちなみに当時の新台入替は年に3回程度のペースで、台の設置期間は今と比較にならないほど長かった。これは非常に有利だ。

アキオは、ジグマだということもあるが腕も一流であったため、役物のクセが良く勝ちやすい優秀台をすみやかに識別していく。そうして御眼鏡にかなった優秀台はずっと設置されていくわけだから、打ち止めにしまくって勝ち続けるということができるのだ。

しかしほとんどの店では、ある台を打ち止めにすると、同一人物は同じ日にその台を打てないというルールが適用されていた。そのため1番手を片付けると次に二番手の台に向かうことになる。

1台を打ち止めにするのに早ければ1時間以内、大苦戦しても3時間程度で打ち止めまで持っていけるから、開店から夕方まで3~4台程度を目安に渡り歩くのが当時の日課。これが往年のアキオの勝ちスタイルだった。


もちろん役モノだけでなく釘も重要だ。アキオの絶頂期には、釘を叩くこと(調整)を専門にする「釘師」という職人がいたのだが、彼らはアキオからすると役モノのクセがイマイチで普段なら打たない(足らない)台でも、絶妙な叩きでサービスするなんてこともあったそうだ。

つまり一番手二番手…と勝ちが見込める台に加え、サービス台までいただけるという夢のような立ち回りが出来ていたわけだ。まあそれは、アキオ曰く「釘師の気まぐれ」らしいが、ジグマで毎日同じ台の釘を見ていたために、そんなサービス台も楽に見抜けたらしいから気まぐれ程度でも十分だろう。


また釘師さんのローテーションの関係で、毎日釘を叩く状況でなかったのも幸いした。数日間プラス調整のままで据え置き状態の時などは、アキオにとって最も楽に稼ぎが期待できた。

例えば、羽根物にはカス穴(入賞口)が多いが、この入り口がわずかでもプラス調整されていれば打ち止めのチャンスが広がる。カス穴の払い出しが多いことで勝手に玉が増えていくわけだ。

こんなエピソードをアキオはわしに簡単に話すのだが、かなり精度の高い釘読みなのは間違いないし、このロートルは恐ろしく腕が立つのだ。結局、釘師の調整ミスにつけ込んだ…というだけの話ではあるのだが。


現在の釘調整は釘師が行なっているわけではない。ホールの店長などが閉店後に当日の出玉データを見ながら板ゲージを使って釘を叩いている。

板ゲージとは、釘と釘の幅を正確に測る道具のこと。例えば、ヘソの幅を12ミリにしようとすれば、12ミリ幅の板ゲージをヘソの2本の釘の内側にあてて叩くとヘソがピッタリ12ミリ幅になるという寸法だ。ちなみに、ヘソ幅における1ミリの違いは、とんでもなくデカい差なので、釘師でもないホールの店長などは、板ゲージを使って細心の注意を払って調整をしていることだろう。

一方、ヘソなどという極めて重要な部分は別として、職人気質の釘師は板ゲージなんてものを使わずに勘を頼りに調整していた部分もあるだろう。そこに隙が生まれることもあり、そしてアキオはその隙を見逃さずに稼ぎに繋げていた。釘のプロゆえに生まれた隙。今の調整システムではそうはいかないのではないだろうか。


余談ながら、この釘の叩き方で釘師の利き腕がバレる場合がある。例えば、イベントなどでヘソが全台開いているとする。右利きの人が全台一斉に適当に叩いたなら、向かって左側の釘だけが左側に叩かれた状態でヘソが開くことになる。考えてみれば当たり前の話で、元に戻す時は叩きづらいだろうなと思う。

また、かつて釘を限界レベルに閉めても出てしまう、クセが良すぎる役物を搭載した羽根物があった。困り果てた釘師は、役物内の玉が通るルートを目の細かいサンドペーパーで磨き、「役物のクセ自体を変えてしまう」という奥の手を使ったらしい。これは元店員から聞いた話だが、現在ならバレたら即営業停止になる行為だ。


ともかく、昭和から平成に移りゆく時代、わしはまだ小学生だった。アキオからそんな時代の自慢話(本文ではカット)をされて辟易としているが、かけがえのない人生の先輩でもあり、パチプロの先輩として釘読みの大切さを教えてくれるメンターだ。そんなアキオは、現在は細々と投資家として余生を送っている。


追記
九月場所の三役力士は、新大関・豪栄道、新関脇・豪風、新小結・常幸龍&千代大龍と新顔だらけになった。この中でもコツコツ型で地味な努力が好印象の新関脇に期待している。関脇復帰の妙義龍にも、本来の実力を発揮してもらいたい。

わしが将来の横綱候補に挙げる「照ノ富士春雄」が東前頭筆頭まで番付を上げてきた。上位と春雄絡みの取組は全て好取組必至で楽しみだ。日馬富士とは同部屋なので対戦はないが、白鵬や稀勢の里との対戦は見逃せない。痛し痒しだが、稀勢の里にはキッチリ大関の貫禄を示して春雄の挑戦を退けてほしい。

春雄は後半戦に星を盛り返す展開が多いので、四勝七敗から終盤に下位力士に4連勝で勝ち越しと好意的に予想しておこう。