パチンコ打ちと雑談
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わしはパチンコを生業としている分際だから、残念ながら仕事場はマイホールということになり、当然ながら仕事相手はパチンコ台という有り様だ。

コイツらパチンコ台は、大当たりへの期待感を煽りに煽った挙句、人を小馬鹿にしたようなハズレ演出を見せるのを得意技としている超ドS属性だ。わしの想いを汲もうという気などさらさらない(当たり前だが)。

そんな底意地の悪さとまともに向き合っていたらこっちの精神が異常をきたしてしまう。だからパチンコ台とまともに向き合って感情移入をするのはヤメた方がいいし、わしはとっくにそうしている。

パチンコ台の評価は、演出の良し悪しではなく、回転率などの数字に置き換えて対峙すべきだ。というよりも、数字で割り切って考えなければ付き合いきれない。とにかく、コイツら相手では憎悪以外何も生まれないのだ。

パチンコ台とのつきあいをもし対人関係になぞらえたとすると、殴ってやりたい衝動に駆られること必至だ。実際に台にドツキを喰らわしている人々を目撃することがあるが、哀れだな~と思う反面、わしもパチンコ台と距離をとっているからそう思うだけで、もし演出にのめり込むような状況であれば台を殴り倒してしまっても不思議ではないな…とも思う。


で、だ。唐突ではあるが、対人関係について考えてみたい。

最近、ネット環境向上の悪い影響として、他者とのコニミュケーションが苦手な若者が多くなり、社会人の「雑談力」が不足しているというニュースを見かけることがある。これは彼らだけが悪いわけではなかろう。ある意味、現代に生きる若者の宿命なのだ。

しかしわしはふた世代も前の若者なので、そこにはあまり当てはまらないと思う。普段はパチンコ台と向き合うのみでしゃべる機会が極端に少ないだけに、話が合う相手を見つけてしまえば、相手が閉口するまでしゃべり倒すのは得意技だ。調子に乗ってくると自然と関西弁が漏れ出し、出自を簡単に見破られてしまうのがイタい現実だったりするのだが…。


ある日のこと。わしは同行者と2人でバイト先での取引先に向かった。新製品の説明もそこそこに、先方の担当者の趣味がスキーであるため、その行先として北海道の全空港到着便に搭乗したことがあるという話になった。そのネタを口火にわしと担当者で新製品に全く関係ない雑談が始まった。

「スキーに行くなら利便性が一番良い空港を使えば良いのでは?」と素朴な疑問は感じたが、ひとまず聞き役に徹することにしたのだが、話が進むにつれスキーなど関係なくなってしまい、「日本の全空港に降り立つのが夢です」と自らの夢を語るに至った。

そして、スキーのオフシーズンには特に用もないのに南方の石垣空港や奄美大島の空港にトンボ返りで行き、「折り返し便に乗って帰りマイル修行に励んでいる」と楽しげだ。羽田→福岡→奄美大島→沖縄→石垣島→伊丹→羽田(うろ覚え)…といったルートを1日でフライトする、いわゆる"乗り鉄"の飛行機版のようなパックツアーで搭乗を重ねることが堪らなく楽しいらしい。遂には「今年は年間50回以上搭乗したい」と力強く語り、担当者の目がキラキラからギラギラになってくるのが分かった。


わしも飛行機に搭乗する機会が多く、飛行機ネタは得意分野であるため負けてはいられない。やるべき仕事には全く手が付かない一方、聞き役に徹した反動で話したくて仕方なくなってしまってもいた。

そこで、「飛行機移動って辛くないですか? 2時間を超えてくると、ただ座ってるだけなんでうんざりしますわ」と軽くジャブ。

すると、わしの言っている意味が分からないという顔で、「それがいいじゃないですかぁ~? あの座席に座ると楽しくないですか?」と搭乗した時の気分そのままに微笑みを浮かべてくれた。

そんな微笑み返しをもらっても困るのだが、わしにとっては考えるまでもなく、搭乗は「楽しくない」のである。わしは旅をするのは好きだが、飛行機は単なる移動手段としか思っていないし、飛行機に期待するのは安全確保と定時運行だけだ。機内アナウンスで「空の旅をお楽しみ下さい」などというお決まりのセリフがあるが…まさか本当に楽しんでいる人がいるとは(驚愕)。


ちなみに一応仕事で来ているのだが、わしがやるべき作業は、ここまでは同行者が代行してくれている。同行者は先方が自分の話をするのを初めて聞いたから、思いの丈を存分に話させてあげたいと考えているようだ。

それはこの何気ない雑談がお互いを知り合う上で重要なことを知っているからだろう。もっと言えば、親密になったことで仕事上の思わぬメリットが生まれる可能性が広がることもある。というか、それは大いにある。だからこそ、仕事もせずに話し込むわしを咎めもしなかったのだろう。そして黙ってわしの代行をしてくれているのだ。

だからわしはそこに甘えてまだ仕事をしなかった。いや、甘えたわけでもサボったわけではない。雑談力を発揮し今後の仕事が有利に働くように一肌脱いだというのが正確なところだろう。先方もまだ話したくてウズウズしているように見受けられたし。


続けて機内持ち込み手荷物の重量の話、空席待ちでプレミアムクラスへ座席変更した話、機内食の話など、搭乗機会の少ない人にはマニアックな話ではあったが、わしがその分野に多少明るかったため、その心得がある人にとっては琴線に触れるやりとりを交わすことができた。

まぁ結果から言えばほぼ一方的にわしは話を聞かされたわけだが、同行者がわしの代行作業をやり終えたタイミングで20分以上が過ぎており、ようやくその辺りで話も打ち止めとなった。


しかし、それにしてもだ。搭乗しまくることの何が楽しいのだろう…。邪推を交えて推測してみた。

担当者は推定40歳で、弟さんと2人で城之崎温泉まで、羽田→伊丹→但馬空港の経路で行くと言っていた。弟さんも時間的に余裕がある人なのだろうが、とりあえず2人とも独身な気がする。

フライト区間が多いということは、多くの乗務員と顔を合わすことにもなる。すなわち、スッチー(現在はキャビンアテンダントと呼ぶのは知っているが、わしはふた世代も前の若者なのでこう言ってしまう)と知り合う機会が増えるということだ。国内線は国際線に比べ若いスッチーが多い。飛行機に乗ることが趣味で独身となれば…ビンゴ、この辺りが本線のような気がする(あくまでわしの邪推だ)。

というのも…わしも一時期、偶然を装い同じ座席ばかり事前指定して搭乗し続けたことがあったのだ。それすなわち、「いつも同じ所に座っていますね」という言葉を期待したわけが、ロマンスが生まれることはついぞなかった。

ただ、ロマンスが実際に生まれるかどうかはともかくとして、わしごときの搭乗回数では同じ乗務員と巡り合う可能性が極めて低かった。これもパチンコ同様に試行回数を増やすことが重要で、時間とカネの許す限り試行回数を増やし続けているのが、この担当者なのだろう(あくまでわしの邪推だ)。


余談ながら、ある時、出発寸前に食べたヨーグルトでハラを下したことがあった。約4時間のフライトで8回近くトイレに行くハメになり、ベテランスッチーに整腸剤をもらったほどだ。このスッチーはとても優しく、わざわざビジネスクラスから出てきてくれて、エコノミークラスの末席に脱水症状気味で鎮座しているわしにとても丁寧に対応してくれたのだ。

しかしこれは親切心だけではなかったようだ。実はこのベテランスッチーはチーフパーサーで、わしが顔面蒼白で何回もトイレに駆け込むから、検疫所への通報義務が発生する感染者としてマークしていたらしかった。

結局何を聞かれてもシラを切り通し、検疫所行きは免れた。容器内の汁の量が異様に多いとは思ったが、食欲に負けて食べてしまったのだ。結果的には賞味期限切れ(印字が外国語でよく分からなかった)ということだとは思うが、恥ずかしくて口が裂けても他人様には言えなかったのだ。わしとスッチーのエピソードなど、所詮、この程度のことだ。


とにかく、担当者が何を期待して飛行機に乗りまくっているのかは不明だ。しかし今回の雑談によって、お互いの距離が少し縮まったのは確かだし、このこと自体は良かったと思う。

パチンコ台が相手なら、このような相互理解は絶対にありえないわけだから、わしにとっても新鮮だったし、そしてやはり、最近の若者が雑談力を失っているというのは残念だと改めて思った次第だ。わしのようにほとんどの時間をパチンコと向き合っていると、雑談できる相手がいることの素晴らしさがわかるのだが…。


これをきっかけに担当者が思わぬ仕事を発注してくれるようなことがあれば、同行者もわしの代行作業を黙ってやった価値が出るというもの。

だが、一向に仕事が増えそうな気配はないから、結局これはただのムダ話だったのかもしれない。