ボランティア精神が必要なのだ
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ボランティア精神が必要なのだ
※パチプロ必勝本2000年8月号に掲載されたものを加筆・修正しています
3月中旬から5月末まで、ある1軒のホール(2.38円交換)で非常に恵まれた状況で仕事をすることができた。おかげで良い方の記録を連発。ほとんど毎日13時間以上の稼働で体がブッ壊れそうになったが、苦労の甲斐あって収支は66日の稼働で260万を超えた。
特に5月は自己新記録の118万を達成。1日で15万以上の大勝ちこそなかったが、10万以上のホームランは6回。特筆すべきは4万以上の大敗が一度もなかったということだ。これはひとえに同業の友人から玉を借りられたのが大きな理由である(このホールは持ち玉共有可)。
毎年、この時期は不思議と恵まれた状況にあるのだが、今年は年頭を除き少し順調すぎる。なにせ毎年喰らっている2千回オーバーの大ハマリがまだ一度もないのだ(去年は通算5回、そのうちの3回は5月の1週間に集中した)。物事には万事波があるので、いずれ下降線を辿るのは承知の上だが、ともかく嬉しい誤算だった。しかし12月のゴールまでまだまだ先は長い。勝って兜の緒を締めよ! という心境である。それにしてもG店様、本当にありがとうございました。
5月14日(日)曇り
今日は天気が悪いので嬉しい。理由は簡単! 元々野外活動が大好きな私にとって、晴天時の屋内作業は苦痛だから。
ただ、これから行こうとしている最近の定番G店で、憂鬱に思うことが2つある。その1つが、玉を借りにくる常連の知人が多くなってきたことだ。
この仕事を専業にしてから、同じ店に2ケ月以上も通うなんてことは今回が初めてのケース。そして予想通り、常連達の私を見る目が日に日に厳しくなってくる。
以前、他の店でジグマ状態になった時、常連達とのコミュニケーションを取らなかったがために、止め打ち等の些細なことでチクられ、危うく出入り禁止になりそうなことがあった。
それ以来、長く通う可能性のあるホールでは常連への気配りにかなり神経を使っている。
そんな苦い経験からこの店でもかなり注意深く行動してきた。例えば朝の並びでの挨拶は、もちろんこちらから笑顔で声をかける。そして、時々常連の好きな飲み物やたばこをプレゼントする。オカルト話等も愛想良く聞いてあげる。自分がどれくらい勝っているかなんてことは絶対に言わない。
他にも様々なことに気を使っているのだが、その結果として、常連に玉を貸す機会までもが増えてしまったのだ。
常に優秀台を打っている同業同士での玉の貸し借りなら、互いのメリットが大きいので大歓迎だが、スーパーリーチがかかると鍵穴を真顔で押さえるような人達にも玉を貸さなくてはいけないのだ。
だいたいそんな人たちは、好きな台であれば投資額など全く意に介さないで平気で打っている。もし私の親しい人であれば、どんな台か確認してからしか貸さないだろう。しかし夕方になり、ドル箱を山積みにしている状態では貸さない訳にもいかないのだ。
特に一番頻繁に借りにくる50代後半のおばさんは、この店の大のお得意さん(かなり負けが込んでいる)で、心優しい店員さんが本気で勝たせてあげたいと思っている人なのだ。
彼女はいつも、勤め帰りの5時過ぎになると決まって私の所に話し掛けにくる。ストレートに玉を貸してくれ、と言ってくれればいいものを、いつもタダで借りている負い目からか、なかなか言い出しにくいらしく、私には興味のない話を延々と喋りまくる。
先日、あまりに煩わしかったので、とうとう彼女に言ってしまった。「玉欲しがったらさっさど持ってげ! 時間もったいねーべ」と。
昔から女性の扱いは下手クソなのだが、ここでまたやってしまった。しょぼくれて帰ろうとする彼女に私は必死で謝り、機嫌直しの蕎麦を奢って何とか店内に留まってもらった。もちろん玉を貸したのは言うまでもないが…。
もし、この店のお得意さんである彼女に嫌われたら、百害あって一利なし。店長から睨まれでもしたらエラいことだ。ちなみに彼女は私のことを、いつも玉を貸してくれる優しい人だと店員さんに言ってくれているらしい。
さて、今日は日曜日。朝から人が大勢いるということは、いつも以上に玉を借りにくる人が多いということか? どうせなら、自分が夕方までハマってしまえばこんな心配も必要ないのだが…。
なぜこんなに心配するのかというと、つい一週間ほど前、とうとう貸し倒れが発生したからに他ならない。やはりパチンコ店内で金品を貸す場合、それらは戻ってこないものと覚悟した方が良い。そう割り切れば後々精神的にも楽である。でなければ最初から貸さないことだ。
私の場合、この店においての玉の貸し倒れはある程度覚悟の上である。たかが5~6千円をケチったがために常連に恨まれ、打てなくなることを考えれば安いものだ。要はエビで鯛を釣ったと思えば良い。
さて『本日の大問題』はもう1つの悩みの方である。
実は今日で4日目になるのだが、同業のT氏(私より年配のパチプロ)から面倒を見てほしいと頼まれた中国人の女性、周さんが、連日の確率負けをものともせず、今朝も気合いを入れて8時30分過ぎにこの店へ到着していたのだ。
私を見つけるや、「おはようございます。今日もよろしくお願いします」とさっそく声をかけてきた。今日も隣の席で22時半過ぎまで面倒を見なければ、と思うと気が重い。願わくば2人の台のどちらかの釘が締まっておりますように…。
しかし、連日打っている牛若外伝のシマは無情にも昨日となんら変化のない釘だった。だが期待値3万以上の台を目の前にして打たない訳にはいかない。よし! 今日も彼女にとことん付き合ってやろうじゃないかと腹をくくることにした。
6日前、ガールハント(私の年代ではナンパなどと言うよりはこちらの方が適切)の好きなT氏が1週間に渡り観察していた女性が、彼の思惑通りに負債累積が10万円を突破した。そこでナイトよろしくT氏の登場と相成ったわけだ。
ここまでは彼の思惑通りだったが、彼女は予想以上に気丈でうるさかったらしく、イマイチ食えなかったらしい。とりあえず2日間隣に座らせ打たせていたのだが、とうとう手に負えなくなり私に押し付けてきたという次第だ。その女性こそがつまり、周さんなのだ。
普通なら断って当然なのだが、「彼女が毎日負けて可哀想になったので声をかけた」というT氏の優しさ(この時点では彼のガールハント癖には気付かなかった。ちなみに彼は男性客がいくら負けていようと声をかけているのは見たことがない)と、連日閉店間際まで粘っていた彼女に敬意を表し、引き受けてしまったのだ。
9時ちょうど、2人とも隣同士で打ち始める。彼女の台は千円ベース約29回。しかし前述した諸条件に加え、確変中の玉増えが平均200個強、閉店時確変保障あり等の条件を考慮すると、初当たり10回分デジタルを回せられれば、日当3万円は確保できるのだ。また、彼女にはそれができる精神力と技術が兼ね備わっている。
確率論や止め打ち等、大切なことは彼女にだいたい理解させた。そのために3日間で3時間以上も費やした。特に日本語が堪能でない彼女との筆談は周囲の注目の的となり、非常に疲れるものだった。
ただ不運なことに彼女の台は昨日まで初当たり確率が450分の1以下で、確変突入率も理論値より2割以上悪い。そして3日間とも、初回初当たりに1200回転以上費やしているのだ。哀しいことに今日もその兆候が見えている。
11時3分、投資2万2千円の689回転目、私の台に初めてのウグイスが登場。図柄は3。どうせガセだと思っていたら、いつまで経ってもスーパーリーチに移行しない(このパターンは鉄板)。当然のごとく確変ゲット。またまた今日も私の方が彼女より早く持ち玉になった。ひょっとして今日も彼女は初回千回転ハマリを喰らうのでは? という思いで不安になる。
12時過ぎ、私の予感は的中。4日連続で周さんの台は朝イチ千回転オーバーのハマリを記録した。そうそうないことなので笑いながら彼女に説明したが、もはや彼女に心のゆとりはなく、ついに「この台おかしい、もうやめたい」と言い出した。
しかしここでヤメられてはこれまでの苦労が水の泡。持ち玉も私の方にまだまだ余裕があるので彼女をなだめすかし、とにかく今日1日だけ頑張ってみろと言い聞かせた。
12時53分、彼女の台に待望の大当たりが確変でやってきた。回転数は1211。昨日より500回転以上も早いし、珍しく3連チャンしたので今日こそ大勝ちできると彼女を励ましたのだが…。
それから約3時間後、回転数が950を超えたとき、ついに私の危惧する事態が訪れた。私の貸した玉がまだ1箱手元にあるにもかかわらず「この台やっぱりおかしい。私、心が痛い。もうやめます」と叫び、ギブアップしてしまったのだ。
思えば周さんは4日間、私の教えを忠実に守って毎日昼食抜きで13時間以上も頑張ってきたのだ。それにしても彼女はツイてなかった。もうこれで十分。素人の彼女にこれ以上頑張れなんて言うことは可哀想でとてもできない。
「ご苦労様、周さん、よく頑張りました。今日はゆっくり休んで下さい」と言って彼女に別れを告げた。
しかしその10分後、トイレに行ったとき、驚いたことに他の台を打っている彼女を発見。しかもそれは回収台に近い台である。今までの苦労を知っているだけに、この光景に私は激怒。彼女を表へ連れ出して愚行を厳しく叱った。
ここで不測の事態が発生。なんと気丈な彼女が人目も憚らず、大声で泣き出してしまったのだ。私は必死に彼女に謝り、何とか許してもらったが、その後思わぬことに彼女が、「私、また阿川さんの隣で頑張ります」と言ってきたのだ。
これでやっと落ち着いたと思いきや、なんと今度は私の隣の台でまた泣き出してしまった。これにはほとほと参った。ただでさえ筆談で有名な奇妙なカップルとして好奇の目で見られているのに、今度は何事かという感じで大勢の視線が集中した。中には笑いながら見ている人もいる。
ここに至って私はついに冷静さを失い、「見せもんでねんだ! いぢいぢこっち見んな! このー!」と大声で怒鳴ってしまった。
以降、穴があったら入りたいような心境で22時30分まで頑張ったが、打つこと以外で非常に疲れた1日だった。成績の方は私が相変わらず好調で、初当たり2557分の11、確変図柄15回のプラス8万4500円、千円ベース約31回。周さんの方は初当たり3298分の7、確変8回でプラス1500円、ベース29回強。後日、根性のある周さんは見事勝ちに転じたのは言うまでもない。
最近ついに牛若のシマが使えなくなり、件の店にはあまり行かなくなった。よって彼女とはあまり会わなくなったので、少しホッとしている今日この頃である。
そして以前にも増して、女性客に話しかけられると身構えるようになってしまった。
【初出:パチプロ必勝本2000年8月号】
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