小僧
ある日のこと。わしは打てる台に恵まれず、これからどうすべきか迷っていた。
確かに迷ってはいたのだが、この時は本能的にAKB48のシマに向かっていた。どうせ打てる台などないと分かっていても、"ゆきりん"好きの血が騒ぎ、その衝動を止めることができなかったのだ。この時、パチプロとしてのわしは姿を消しており、単なるゆきりんファンのおっさんと化していた。
この時点のAKB48は、1Rあたりの大当たり出玉が本来122玉前後獲得できるところ100玉の獲得すら危ぶまれるような釘調整で、ホールの「打てるだけでもありがたいと思え!」という捨てセリフが聞こえきそうな極酷調整を晒していた。
「やはり、か…」
想像通りだった。打つまでもない。とてもじゃないが、まともな精神状態だったら座ることすら憚れるだろう。
つまり、わしはこの時まともではなかったのだろう。ボッタクリ調整は百も承知だったが、帰るにはちと早過ぎたため、「AKBなら、安く持ち玉になればなんとか勝負になるのではないか?」と、とっとと帰って家でふて寝でもすれば良いものを、ゆきりん愛おしさに腰を下ろしてしまったのだ。言うまでもないが、ゆきりん推しで勝負を開始した。
"勝負"なんて書いてはみたものの、出玉を考えれば当たりまくる以外に勝つ見込みはない。当然、わしもこんな台で勝てるなどとは毛頭思っていない。まぁ簡単に言えば、時間が潰れればそれで良かったのだ。わしにだってそんな日もあるのだ。
回転率は23回前後(3円交換)。出玉を考慮すれば即帰りが正しい判断なのは明白なため、ゆきりんには何の罪もないのだが、時間の経過と共にイライラが募っていく。
そしてフラストレーションがそろそろ限界に達しそうな折、隣に座った小僧がビシバシと景気良くボタンを叩きモバイルの設定を始めた。そのボタンの叩き方、この小僧の持つ雰囲気、そしてウザすぎる面構え全てにムカついてきた。イライラとムカつきの悪のハーモニーが脳内でおぞましい不協和音を奏でだす。
オマケにこの小僧、タバコの煙を口に含むばかりで、かなりのハイペースで吹かしまくるのだ。そしてその煙すべてが空調の関係でわしの顔面を容赦なく襲ってくるのだが、小僧がそれを気遣う気配は微塵も感じられない。しかも何たることか、小僧は着席からわずか数回転でRUSHを獲得するのだった。
これでだけでは終わらなかった。小僧のくわえタバコからの煙がピンポイントでわしの顔面を襲い続ける中、突然、「良し!」と言わんばかりに足を組み、気合いを入れ直したようだ。
すると小僧は吸いかけのタバコをわしの右横の灰皿に置き、「おいおいハンドルが壊れるぞ!」と言いたくなるほどの勢いで捻り打ちを始めた。またウザさこの上ないことに、オーバー入賞を確認する度に自己陶酔するようにニヤつきながら頷いているではないか! ガチャガチャ回すハンドルの雑音、小僧の仕草、頷く度にニヤつき荒くなる鼻息、小僧が吹かし続ける煙、すべてに辟易した。
そもそも捻り打ちなどは周囲にバレずに行なってこそだ(変則打ちは禁止事項で張り紙がされてある)。事実、わしやタケシとは考え方の根本が決定的に違う敵対者もおり、捻り打ちをホールに言い付けて排除しようとする一派もいるのだ。小僧が出禁になろうがどうでもいいのだが、この時点でわしが置かれた状況は耐え難い苦痛となっていった。
小僧の大当たりとタバコの煙が延々と続き、いわば小僧RUSHがわしを襲い続けたある瞬間、何かが弾けた。気付けばわしは小僧の左わき腹を小突きながら、「お前なぁ、タバコ吸わないなら消せよ!」と因縁をつけていた。
すると、わしが鬼の形相になっていたのかは不明だが、殊勝にも「あっすみません」とタバコを消すではないか。内心、「反論されたらどないしょ?」と考えたわしはチキンなことを告白しておく。
まあ、わしはRUSHが続くのには何の異論もなく、煙の問題さえ片付けばそれで良かった。小僧は煙草を休止したためひとまず平安が訪れたが、バレバレの捻り打ちはひたすら続けていた。禁煙しても充分にウザさを感じさせる小僧は本質的にウザい奴なのだろう。
余談ながら、わしがパチンコ屋で人に文句を言ったことは初めてだった。無用のトラブルを避ける意味もあるし、相手がどんな人間なのか全く予想できないからだ。もし、ほんまもんの怖い人だったら…と思うと恐ろしすぎる。
タバコの煙に関しては、今どきのご時世だから嫌がっている雰囲気を察すれば喫煙者の方が対処する場合が多いと思う。しかし、この小僧だけはそんな素振りはまるでなく堪忍袋の緒が切れた。それだけ小僧がヒドかったわけだが、そもそもわしもイラついていたから、小僧がとばっちりを喰らったのかもしれない…。
しばらくの時間が経過した後、突然肩を叩かれた。ビビって振り返ると、隣席から離席していた小僧が立っていた。「さっきはすみませんでした」と、わざわざ買ってきたと思われる缶コーヒーをわしに渡そうとする。
「いいよ、いらないよ」「いえ、お詫びの印です」との問答を繰り返した後、「いや、君に物をもらう義理はないから、今回は辞退するよ」とわしが言ったのをキッカケに小僧も諦めたようだ。この時、上半身をのけぞらしながら缶コーヒーを拒否するわしの姿が、周囲の耳目の的になっていたのは赤面行為だった。要するに小僧は何気にしつこかったのだ。
小僧も着席し、隣り合ってしばらく打った。小僧の台は、ぱるる推しのモバイル設定から特殊画面に移行していたので色々聞いてみた。ところが小僧は無意識の内にやたら相手の体に触れるクセがあるようでなんとも落ち着かない。
わしもこんな小僧に触られて気持ち悪さは最高潮に達するが、小僧もわしのようなおっさんに触れてどう思っているのか。もし相手が年頃の女の子なら間違いなく即通報されるレベルだ。まあ、悪気はなさそうなのでスキンシップもコミニュケーションの一部だと我慢したが、超絶イヤな触れ方だった。
数日後、小僧を見かけたので「今日はどうですか」と挨拶がてら話しかけてみた。すると「あ、おはようございます。(中略)ボクは中山(仮名)です。お兄さんの名前教えてください」という。実は初回コラムでも書いたように、パチプロとして名乗るのはどうしても気が引けるのだが、相手が名乗っている以上、礼儀を欠くわけにもいかず名乗ってしまった。まあ、頭の薄いわしをおっさん扱いしなかった所が気に入った。
それから時たま声をかけあい、ちょっとしたプライベートも打ち明ける仲になると、彼はわしの一回り下の辰年生まれだと判明した。実はわしも若い頃、辰年生まれの年長者に辰年生まれということでえらく可愛がられた経験があったため、中山くんに勝手に親近感が湧いてきた。不思議なものである。
会話を重ね、立ち回り方を観察した結果、中山くんのことをそれなりに把握できてきた。まさに「瓢箪から駒」の関係で話をする間柄になったが、中山くんも2月の換金率変更の余波だと思うがマイホールで見かけなくなってしまった。良い話し相手ができて喜んでいただけに、少しだけ残念だ。
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