同業者同士のトラブル
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※パチプロ必勝本2002年2月号に掲載されたものを加筆・修正しています


先般、仙台の中小企業に長年勤めている同級生が、

「今年ボーナス出ねんだ。んでもリストラだけは絶対にしねって社長言ってっからありがでーど思ったらいいのがや」

と嘆いていた。今まで20年以上滅私奉公してきた彼の年収は私とほぼ同額だが(ただし去年までの話)、中間管理職としての仕事量や苦労は私とは比べようもないほど大変だ。それでも大手の一部上場企業でさえ非情な首切りを平然と行うこのご時世では、会社に残れるだけで幸せと思うのは当然かもしれない。

以前は私に仕事の愚痴をこぼす度に、

「そんな会社さっさど辞めだらいっちゃ」

と言っていたが、最近は

「首切りしねー有り難でー会社なんだがら、しがみついででも辞めんなよ」

と彼を励ましている。ちなみに宮城県、特に仙台の完全失業率はハイレベルで、今年10月の全国平均5.4%を去年の時点でとっくに上回っているのだ。


話は変わるが、私の弟は仕事の関係で長年外国で暮らしている。特に発展途上国に住んでいる期間が長く、現地の人々の生活状況を聞かされる度に、私は日本に住んでいて幸せだと思う。

ついこの前も、東欧の某国へ母が弟のために送った荷物が半分以上届かなかった。彼に言わせるとこんな事は日常茶飯事で、下手をすると封書すら届かない事もあるとか。裏を返せばそれだけ現地の人々の生活が困窮している訳である。それでも中東のように内戦がない分だけでも、ずっと居心地は良いそうだ。

私は外国にも何人か知人がいるが、今度タイへ帰る知人も「日本は羨ましい」と言っていた。何でも彼女の郷里では、日本なら義務教育を受ける年齢の子供たちの3分の2以上が学校へ行きたくても行けないそうだ。理由は働いて金を稼がなければいけないという事なのだが、もっと可哀想に思ったのは、その日の稼ぎが少ないと親に怒られる、という話だった。要するに、その日の食べ物を確保するために毎日必死であり、とても学校へ行く余裕などないのだ。


ちょっと脇道に逸れてしまったが、先日若い同業のY君と久しぶりで話をした。ところがその時の彼には、パチプロ生活に嫌気がさしてきた様子がありありと窺えた。Y君はパチスロもやるしっかりした優秀なプロで、月に50万くらいコンスタントに稼いでおり、稼働時間は月平均200時間のはるか手前、しかも彼は両親と同居である。よって仕事以外に充てられる時間は私に比べてずっと多く、最近はサッカーや山登りにかなり凝っている。

なのにどうして不満なのか。以前「パチプロなんて世の中のためにほとんど役に立たないし、体にも悪いから長くやる仕事じゃないぞ」と彼に言った事があり、また彼もそう思っているらしい。現在私はこの言動に対して後悔している。何故ならば最近考え方が変わったからだ。

私はこれまで、彼と同じようにパチプロという職業に対して相当な偏見を持っていた。しかし前述のタイの女性に

「阿川さんの子供は全員学校に行っている。今までその日の食べ物に困った事がありますか? 泥棒をやってお金を稼いでいる訳でもないのに何故悩むのですか。働いている以上、苦労するのは当たり前じゃないですか。家族をちゃんと養っているのだから、もっと自分の仕事に誇りを持ちなさい。私の国の人達に比べたらとても恵まれています。」

と説教された。その時私はガンと頭を一発殴られた思いがした。いくら理想とかけ離れた仕事とはいえ、この不況の中で日々の生活費を稼がせてもらっているのは紛れもない事実である。将来の不安はあるけれど、それはどんな仕事も同じであり、もし食えなくなったらまた新しく生きる術を考えれば良いのだ。

この日以来、私は自分の仕事を卑下する考えは捨てた(ただし、今まで通り一部の人にしか職業を明かす事はないだろう)。早くY君も心が晴れやかになってほしいものである。

最後に、また苦情がくるかもしれないが、もしY君のような立場なら「ボランティア活動」なんて魅力的だと思うのだが…。



11月14日(水)晴れ
8時45分、今朝も自宅から徒歩で仙台市中心部の某店にやってきた。最近はほとんど車での出勤なので、ここ数日は妙に新鮮な気分である。

今日も風はほとんどなく、とっくに太陽は顔を出しているのだが、店の入口が日影になっているのでかなり寒い。例によって同業のH君しか並んでおらず、目当ての台の確保はすんなりいった。

この店は今日で4日連続なのだが、実は一昨日、同業とトラブルがあった。原因は台取り。目当ての台の釘を見ていたら、あとから走ってきた同業の若い子が横からタバコを置いたのだ。イベントをやっているような混み合った状況であれば、さっさと物を置いてから台のチェックにかかるのだが、入店の際にH君以外誰もいなかったので、まさか前述のようなことが起ころうとは予想しなかったのだ。

仕事上台の取り合いは度々あるが、原則として相手が同業でない場合はマナーの事を丁寧に注意してから引く事にしている。しかし同業者となれば話が違う。明らかに向こうに非があると思ったら、どんなことになろうと腹を括って徹底的にやり合う。その時彼の方も一向に引く気はなく、私はつい大声を上げてしまったので、すかさず店員が見にやってきた。しかし、2人の激しいやりとりにビビったのか近づいて来ようとはしない。さすがにH君が仲裁に入ったが、その時点でやっと少し冷静さを取り戻す事ができた。

このままだとH君や店側に迷惑がかかるのでトラブルの相手を外へ連れ出し、阿修羅のごとく怒鳴りつけ(ちょっとやり過ぎたと反省している)、先程とった行動を厳しく注意した。10分ほどのやりとりのあと、彼は自分の非を認めて私に謝ったのでその台を譲る決心をしたが、案の定彼は私の申し出を断り他店へ行ってしまった(その後彼とは笑顔で挨拶を交わす仲になったが)。

分かっていただけると思うが、トラブルの末に取った台で打つのは大変気が滅入るものである。私の方も何人かに見られたせいもあり、恥ずかしさがこみ上げてきた。よって1日中打ち続ける気になれず、結局この日は退散してしまった。


ところで今日確保したのはトラブルを起こした台ではなく(例の台はすでに釘がマイナスに叩かれ使えなくなっていた)、同じシマにある某権利物である。細部をチェックしたら2番目に重要な釘がマイナス調整されている。よく考えてみれば、このシマは昨日まで3日も良好な状態が保たれていたのだ。今どき4日も釘が据え置かれるなんていう甘い話があるはずがない。

こんな場合、超一流のS君ならば、さっさと他店に足を向けるのであろうが、昨日期待値6万オーバーだった台に私は未練タラタラ。あわよくば回るかも、と淡い期待を持ちながら打ち出しを開始した。

9時20分、打ち出して15分以上経ったが、今のところ勝負ラインを切っていない。さすがに昨日よりはずっと回転率は落ちているが、これはひょっとしたらと思っていた矢先、信頼度1%以下のノーマルリーチがスパッと確変図柄で当たっていた。この店は本日10時までの当たりに対して、1回毎に後日役に立つボーナスポイントが貰える(ポイントで甘釘台が打てる)。これが3連チャンまで伸び、気分良く終了して、また打ち始めていたら、9時45分頃、今朝一緒に店に入った同業のH君が青ざめた表情で私に話し掛けてきた。

「すみません、今同業とトラブルを起こしてしまったんで、仲裁に入ってもらえませんか」

話し方こそ落ち着いているが、表情は明らかにひどく動揺している。彼とはプライベートな付き合いはないが、一応仕事仲間ではある。人よりかなり義侠心の強い(と思っている)私はこれを放っておけず、とりあえずトラブルが起こったシマへ行ってみた。

そこはホールのほぼ中央で、彼ともめた同業と思しき青年が待っていた。場所が場所だけに恐らく店員や他の客は彼らのやりとりを見ていたに違いない。とりあえずここは目立ちすぎるので、興奮している2人をなだめながら表に連れ出して話を聞いてみたが、予想とは違う驚くべき事実が分かった。


普段から大人しく、暴力とはおよそ無縁と思っていたH君の方が先に手を出したというのだ。詳しく事情を聞いて見ると、H君が打っている台をその青年が「今日も出ているな」と思いながらちょっと立ち止まって見ていたら、H君が振り向きざま立ち上がって、いきなりその青年の胸ぐらを掴み「人の台をいちいち見るな」と言ったらしい。

これには伏線があり、以前からH君は自分が打っている時に何回か「ちょっと見」されたとか、「通路でワザとぶつかってきた」とか、件の青年を気に入らないマーク屋として被害妄想的な思いを抱いていたというのだ。そして今朝遂にキレてしまい、店のど真ん中で派手な殴り合いをやらかしたらしい。

本当は知り合いのH君の肩を持ってやりたいのだが、どう考えても理由も聞かずにいきなり先に手を出したH君が悪い。それに相手の青年は見た目の派手さとは対照的に、話は筋が通っており、いたってまともな人間に見えた。2人とも100%わだかまりが消えたとは言えなかったが、先に手を出したH君に謝らせ、握手をさせてその場をなんとか収めた。

それにしてもなぜH君は掴み掛かる前に「見ないでくれ」と言えなかったのだろう。私もパチプロが多い仙台においては、度々面識もない同業者とおぼしき人達に、後ろからちょっと見されることは多々ある。確かに愉快な事ではないけれど、それに対して怒った事は一度もない(さすがに長時間ウォッチングされたら丁寧に注意しているが)。だいたいそんな事をいちいち気にしていたら、仕事が仕事だけに殺伐たる雰囲気を増長させて心が荒廃するだけである。


さて一件落着後、店内に戻り打ち始めたら、なんとお座り一発、1回転目で鉄板以外では一番信頼度が高いスーパーリーチが出現し、またまた確変で当たった。だが時計を見ると10時5分、残念ながらサービスタイムは終了していた。そしてこんな時に限ってまた3連チャンもしてしまった。さっきの出来事がなければ3回分の貴重なポイントが貰えたのに、と考えていたら、さっきの青年が店を出る前に私に仲裁の件で礼を言いにやってきた。彼は話せば話すほど好感の持てる男だったが、今日の出来事でかなり恥ずかしい思いをしたらしく、もう当分この店には来られないと言って帰っていった。

ここで私はムラムラと怒りが込み上げてきた。今日の事件の張本人のH君は何食わぬ顔で打っている。もし彼が私に声を掛けて来なかったら、貴重なポイントを獲得できていたかもしれない。コーヒーの1杯とまでは言わないが、せめて礼の一言だけでも言ってほしかった。だがしかたない。見返りを気にするんだったら最初から介入しなければ良かったのだから。


その後、また冷静さを取り戻して仕事を続けたが、やはり最初に判断したとおり、回転率が勝負ラインに達しておらず、昼過ぎにその台を放棄してしまった。

本日の成績、投資3万6500円、回収3万7250円、プラス750円(1回交換。機種名、換金率は事情があり非公開)。くたびれ損の半日だったが、その後気分転換を図るため、知り合いの蕎麦屋で久しぶりに昼から酒を飲んでリフレッシュした。これは明らかにパチプロの特権である(笑)。