言葉の暴力
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言葉の暴力
※パチプロ必勝本2001年4月号に掲載されたものを加筆・修正しています
初心忘るべからず、という格言がある。4年前パチプロとなった当時、己の力がどれほど通用するのか不安で仕方がなかった。それ故、もし駄目でも後悔しないようにと、とにかく全力を尽くすことを心に誓った。実際、打てる台が見つかるまで延々と店回りを繰り返し、なおかつ月300時間の稼働を確保していた。
今と違って同業の知り合いはほとんどおらず頼れるのは自分一人だけ、それこそ必死だった。幸運にも目標金額は今のところ達成できており、多少の自信も芽生えてきた今日この頃、友人から重大な過ちを指摘され、愕然としてしまった。
それは友人の地元へ遠征していた時に起こった。そこは自然豊かな北上川流域の田舎町で、パチンコを抜きにしても私にとっては魅力的な地である。
遠征も終盤にさしかかり、仕事帰りにいつものように友人のA君と一緒に食事をしている最中、彼が思い詰めた表情になり訴えるように話を切り出した。結論を言うと、一刻も早くこの地を立ち去らねばならない状況になっていたという事だった。考えてみれば、今までは長くても1週間の滞在だったのに、今回はすでに10日にも及んでいるのだ。
そしてこの日、2人が一番恐れていたことが遂に現実となった。それは常連が狙っていた台を私が打ってしまったのだ。知らなかったとはいえ、連日出しまくっているよそ者が自分の狙っている台を取ったとなったら、取られた本人はもちろん、その取り巻き連中の心中も穏やかではないはずだ。しかも、ここはA君の大事な稼ぎ場所。事は重大である。
考えてみれば、今回の遠征は人の褌で相撲を取っていたわけで、仮に私がここにいなければ問題は発生しなかった。要するに、自分の力で打つ台を見つける努力が足りなかったからこんな問題が起きたのだ。今までこれといった大きな挫折もなく、順調だったことが逆に慢心となって今回のケースに至ったのだろう。初心の「全力を尽くす」ということの大切さを改めて認識させられた。
翌日ちょうどタイミングよく釘も締まったので帰仙したが、思い起こせば昨年の同時期も今回同様A君に誘われた際、自分は新潟で必死に店周りをして見つけた優秀台を連日打っていたので断っていた。随分怠け者になったものである。
話は変わるが、「奥ゆかしい」「謙譲の美徳」など、我が国には欧米人には理解しがたい東洋的文化が育んだ独特の言葉がある。私の好きな「武士道」にもこれらに関連した教えがたくさんある。典型的日本人の私は「武士道」及びそれに準じた倫理観が大好きだし、今まで心の奥底でそれを常に意識し、そしてその教えを何度も実行してきた。だから、最近ますます仕事上の悩みが大きくなっている。
武士道の教えを忠実に守るならば、銭の取り合いのパチンコなんぞ絶対にやってはいけないのだ。しかし悲しいかな、自分はそこまで人間ができておらず、また法を破らずして現在の収入を上回る術をまだ持ち合わせていない。今もしも自分が独身で無借金ならば、迷わず山奥での隠遁生活を選ぶであろうが…。とにかくこの稼業で聖人君子になろうなんて思ったらストレスが溜まる一方である。
偉そうなことを書いてしまったが、とりあえず背に腹は代えられないので、最低限の倫理観が守れるうちはパチプロ生活に縋らなければならない。
1月11日(木)晴れ
私が尊敬する出稼ぎプロのY君は、郷里の青森に幼い子を残して正月早々から仙台で仕事をしているというのに、ここ数年腰が重い私は、やっと今日が2001年の仕事始めである。それでも去年よりは1日早いが…。
本日の予定は、まず仙台市北部A店のイベント狙い。そしてここが使えなければ、国道4号線沿いに北上し、古川市まで全部の店を見て回ることにした。
8時、走行距離約10万キロの愛車で自宅を出発。それにしても、今冬の仙台は寒さが厳しい。今朝も、昨夜降った雪が日が射しているのにまだ溶け出さず、アップダウンの多いA店までの道程は渋滞の連続だ。
現場に着いたのは予定より15分ほど遅い8時40分。いつも通り20分頃に着いていれば行列の10番以内に入れるのだが、すでに少なくとも30人は並んでいる。数少ないサービス台を取るのは難しく思えたのでちょっと迷ったが、並ぶことに決めた。
この選択が、冒頭の出来事の足下にも及ばないほどの大事件に発展するきっかけになろうとは…。
車を駐車場に停め、急いで行列の方に向かうと、他の店へ行っていると思っていた親しい同業のS君とH君が前から10番目くらいの所に並んでいた。そしてこっちへ来たらという感じで目配せしていた。
ここで誘惑にかられた。今2人の所へ行けば間違いなくサービス台が取れる。しかもこの店においては割り込みはOKなのである。ちょっと考え難いが 、この店のほとんどの常連は毎日平気で割り込みをしているので、仮に私が知り合いのところへ割り込んだとしても、彼らが毎日打っている羽根物や権利物の専用台に手を出さない限りトラブルはない。不思議な事だが、彼らは札が付いているサービス台には見向きもしないのだ。
しかし、他の店で過去に何度も割り込みを注意してきた自分がその当事者になったのでは示しがつかない。その上顔見知りの人も何人か来ており、もし私がそんなことをやってしまったら品性を疑われてしまうだろう。なのですぐに悪い考えを払拭し、列の後方へ並んだ。
8時50分、いつも通り入場が始まった。私は比較的競争率が低い現金機のシマに狙いを定めたが、やはり30番以降では、誰にでもはっきり分かるように表示してあるサービス台は取れるはずがなかった。
しかし幸運にも、すぐ近くで「CRサンダーバード」のサービス台から車のキーを取り上げた人を発見。ライターを置いてその台を取ることができた。
でも喜んだのも束の間、今日の釘調整は何ともショボい。よく見ると他の台よりヘソが若干広いだけで、予想回転率は千円あたり27回くらいしかないと思われる。しばし迷ったが、それでも換金率が約2.85円なので確変中の玉増えを期待し、妥協して打つことにした。
しかし、ここでS君とH君がサービス台を複数台押さえているはずだと気付いた(当時は多くの店においてオープニング前の複数台キープはOKだった)。なので私はすぐ彼らの所へ向かった。その時2人はパロディウスのシマで押さえたサービス台を吟味中だった。
彼らが見ているパロディウスは、以前も同じようなショボい釘調整で千円あたり28回くらいしかなかったのを覚えていたのでその旨を話したが、2人ともかなりご執心のようだった。結局パロディウスを打つことに決めたので、H君がもう1台押さえていた「CR縁起マン」が余ってしまった。そして、当然の如く私は縁起マンのサービス台をゲットした訳である。
ただし、この店でこの台は一度も打ったことがない。平均的な出来なら千円あたり27~28回と踏んだが、この機種はクセの良し悪しの幅が結構大きいので、もし出来が良ければ見た目より4~5回転アップの可能性がある。
とにかく打ってみなきゃ分からんぞ、と思っていたら、ふと重大なことに気が付いた。なんとこの縁起マン、盤面の端に小さく書いてある文字をまじまじと見たら、出玉の悪い「J」ではないか。たとえ千円あたり30回まわったとしても、確変中の玉減りがキツいこの機種はリスクが大きい。
H君には悪いが捨てることに決め、たまたま近くにいた知り合いに台を譲り、結局最初のサンダーバードへ戻ってしまった。
9時ちょうど、あまり期待せずに打ち始めたサンダーバードが思いのほか出来が良く、ヘソに気持ち良く玉が飛び込んでくれる。前回の残りカード千円を使った時点で早くも終日打てそうな感触を掴んだ。
少し嬉しい気分でカードを買いに立った時H君に会ったので、遅ればせながら譲ってもらった縁起マンを捨てたことを報告した。すると、ちょっとガッカリした表情になった彼から思いもよらない言葉が返ってきた。
「俺、掛け持ち一切気にしないから」と。
どうも私が彼から縁起マンを取らなかったら、パロディウスの保険の意味でライターを置きっぱなしにし、掛け持ち遊技をやりたかったらしい。そして私が話しかけた時は回らないパロディウスを見切った後だったのだ。それで私が知り合いに台を譲ったことが不愉快だったらしく、また悪いことにその台は千円で当たってしまい出まくっていた(結局回らない台ではあったが)。
ここでH君の名誉のために言っておくと、彼はこれまで一切掛け持ち遊技をしたことがない。しかし、この日パチプロになって初めて掛け持ちをやる気になっていたらしい。
去年、公私ともに一番長く付き合ったのはH君である。それだけに、前述の一言はかなりショックだった。他の同業が言ったのなら聞き流せたが、可愛さ余って憎さ百倍。その考えがどうしても許せなかった。そしてこの日以来、H君に対する憎悪と不信が募っていき、彼の些細な悪評を聞こうものならそれが何倍にも膨らんでしまい、台の掛け持ちはもちろん、他のマナー違反も絶対にやらかしていると思い込んでしまったのだ。
1月28日(日)雪
あれから約半月経ち、今日H君に久しぶりに電話をした。どうか考え方が変わっていますようにと願いながら確認したが、以前と同様、掛け持ち遊技に関して罪悪感はないという答えが返ってきた(実際は この話とは裏腹に台の掛け持ちなど一度もしていなかったのだが…)。
この時点で私は怒り心頭に達し「バカヤロー」と大声で怒鳴りつけてしまった。その後は聞くに耐えない罵詈雑言の連続。もし彼と直接会っていたら暴力を振るっていたかもしれないほど私は興奮していた。
それから3日後、仕事帰りの23時過ぎに仲の良いベテランプロのY君から話があると言われ、待ち合わせのレストランへ行ってみると、なんとH君が憔悴し切った表情でうなだれているではないか。この3日間、私もかなり精神的なダメージを受けていたが、H君のそれは自分より深刻に見受けられた。聞けば、彼はあの日以来仕事どころかほとんど眠れなかったらしく、あろう事か廃業したいと言い出した。
ここで自分のやらかしたことの重大さに気付いた。人一倍多感なH君の心をズタズタにしてしまったのだ。もし今回のことが原因で彼が仕事を辞めてしまったら私も辞めざるをえない。冷静に考えたら、2人とも今辞めることは絶対に損だし、心の傷をずっと引きずることになるだろう。
私は彼に対し、必死で謝り許しを請うた。そしてその後何とかH君は立ち直ってくれた。
それにしても今回の出来事は一生忘れられない苦い思い出となることは確かだ。これで私はまたパチプロを続けられるわけだが、H君には当分頭が上がらないだろう。
※CRサンダーバード[藤商事]…大当たり確率1/315.5、確変突入率50%、1回ループのデジパチ。
※CR縁起マンJ[平和]…大当たり確率1/316.6、確変突入率50%、1回ループのデジパチ。出玉約1900個(「K」は同確率で出玉約2100個)。
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