【第3部】第23話
  1. TOP
  2. 大阪ストラグル第3部
  3. 【第3部】第23話


毎日、毎日、ただその日の余った時間を潰すことしか考えず、将来のことどころか、明日のことすら考えていなかった。

俺の家は、ハッキリ言って貧乏だったので、高校なんて行く気はなく、その理由は、意味のない授業料なんて払わせたくなかったからだ。

しかし、気が付けば周りに流されるように、名前さえ書けば受かるような公立工業高校へ入学していた。

その高校は、地元の駅から最寄駅まで40分ほど電車に乗り、さらにそこから徒歩で20分も掛かるような不便な場所にあったため、当然のように足は遠のいていく。

すでに1年のときに単位が足りなかったから、そのまま辞めようと思っていたが、不良の吹き溜まりのような工業高校だと、やたらアツい先生が数人いたりする。

俺の通っていたところもそれだった。

「単位なんて足りなくても追試でなんとかしたるから、追試だけでも受けにきてくれ」と言われて、その熱意に根負けして追試を受け、2年に何とか進級した。

だが、そんなヤツが急に真面目になるワケもなく、2年に上がってもやることは毎日同じで、適当に起きてパチンコ屋に行くか、くっさんの家に遊びに行くか、適当にバイクで流すか、この3つしか選択肢はなかった。

こんな無駄な毎日を16歳の多感期に過ごしていると、どこかモヤモヤは溜まっていくばかり。ただ、パチンコ屋に行くことだけが唯一の楽しみやったけど、遊ぶにはお金が必要である。

なので、金がなくなれば日雇いで鉄筋屋の現場に出て、8000円から10000円の日当をもらい、またそのお金でパチンコ屋へ行く。これの繰り返しだった。

しかし、中学校を卒業したあと、少しだけ変化があった。それはライブをしたことだ。


俺は元々、ギターを家で触っていて、くっさんもギターはそれなりに弾くことができた。

そんな流れで1つ上の兄貴が、「バンドでライブをやるから手伝ってくれへんか?」と声を掛けてきた。兄貴がボーカル、その友人がドラム。弦楽器が誰もいないということで、くっさんがギター、俺がベースとして即席バンドを組むことになった。

BOØWYのコピーバンドとして2回ほどライブをやったが、即席バンドだけあって、いつの間にか自然消滅。

俺もそこまでギターにのめり込むこともなく、気が向いたらたまにベースを弾いていたぐらいだった。

人生の中でターニングポイントになってもおかしくはない機会だったけど、熱もそこまで帯びぬまま冷めてしまった。

そして、今日も時間をただ潰すだけの1日が始まる。


AM9:00。

起き抜けにショッポ(ショートホープ)に火をつけ、ぼーっとしながら今日は何をしようかと考える。当然、学校へ行く気などさらさらない。

脱ぎ捨ててあるジーンズのポケットに手を突っ込み、金がいくらあるか確認してみると、くしゃくしゃになった千円札が8枚ほど入っていた。金があるとなれば向かうところはパチンコ屋しかない。

この頃は2号機と3号機が混在し始めている時期で、正直なところパチスロは微妙だった。のちに3号機は裏モノだらけになり、パチンコ屋が鉄火場と化すのだが、この頃はパチンコの方をよく打っていた。

ホールに入ってブラブラ1周したが、良さげな台はアメリカンドリーム(通称アメドリ)ぐらいだったので、8000円を500円玉に替え、左手側に積み上げる。右手でハンドルを握り、左手で右側の玉貸機へ500円を投入しながらひたすら当たりを待つ。

飛び込みは悪くはない感じだから、あとは傾斜を確認して粘るかヤメるか判断しよう、と打ち始めると早速左上部から玉が飛び込む。左右に行き来する玉を見つめていると綺麗な動きでそのまま大当たりを射止める。

鼻歌まじりに右打ちを消化していると、この間の新装の時に出会った地元の1つ上の先輩でもある谷くんが声をかけてきた。

「タケシ」

「おっ、谷君やん」

「兄貴は打ちに来てへんのか?」

「来ーへんで。アイツあんまり打たんし」

「そうなんやな。おっ、当たってるやん」

「500円やで。ラッキーやわ」

「それ流したら喫茶店でも行かへん?」

「え? 別にかまへんけど」

「俺も打つ台ないし、モーニングまだ間に合うし、そこで待ってるわ」

「えっ、うん」

今思えば俺は1つ上の先輩にはタメ口だった。なんでか分からないが、注意されたこともなかったから、同い年の感覚で接していた。

俺はラッキー勝ちのままパチンコ屋の裏にある喫茶店へ入った。目の前に谷君が座っていたので、すぐに分かった。

「おばちゃん、モーニング、アイスコーヒーで」

「タケシ、よく来るんここ?」

「昔はよう来てたで。今日は久しぶりかな」

「なんか見た目、相変わらずヤンキーやけど、雰囲気変わったな自分」

「ホンマに? なんやろ?」

「中学の時はタケシの代がめちゃくちゃ悪かったからな、それもあってちゃうか」

「谷君もなんか雰囲気変わったやん。バンドマンみたいやで」

「やっとんねん」

「知ってる知ってる。ヒロが言うとったわ」

「結構、ライブやってるから、地元のヤツらとか隣町のヤツとかには知れてきてるねん」

「ふーん、オリジナルなん?」

「まだコピーやねん。オリジナルは今作ったり試行錯誤してるとこやねん」

「谷君って何してるん?」

「俺はドラム。ほっそんって覚えてる?」

「あー、細川君? なんとなく」

「アイツがボーカル」

「へぇー。ギターは?」

「村やん、村上」

「喋ったことないけど、顔知ってるわ。なんなん、プロ目指してるん?」

「一応な。タケシ、ベースやってんの?」

「俺、元々、ギターやで? 兄貴のライブでベース覚えたけど、上手くもないしな。たまに弾いてるぐらい」

「俺、ライブ観に行ったけど、上手かったやんタケシ。なんか女にキャーキャー言われてたし」

「ホンマかいな(笑)」

「やらへんか? 俺らと」

「なにを? え? バンド?」

「そうや。やろうや」

「ちょ、ちょっと待ってーや。なんなんいきなり。ちょい考えさして」

「分かった。明日、またここで待ち合わせしよや。ほっそんも連れて来るから」

「めっちゃ急展開やん。まぁ、とりあえず明日」

「タケシ、お前めっちゃ勝ったんやろ。モーニング奢ってもらうで。ほな明日」

「いや、奢れよ! まぁ、ええか。うーん…なんも考えてなかったのにどないしよかな…」