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- 大阪ストラグル第3部
【第3部】第22話
時は平成2年。
バブルが崩壊し、ニュースでは景気不景気、株やらお金の話ばかりが連日飛び交っていた。
もう1つ、大きな出来事として記憶に残っているのは、国際花と緑の博覧会(通称、花博)が4月より開催。俺が通っていた工業高校の近くだったこともあり、何度か足を運んだ記憶がある。
そんな中、俺は相変わらず毎日、パチンコとパチスロのことしか頭にはなかった。
「タケシ、やっぱり一発台の新装となるとまぁまぁ並んでるな」
「ホンマやな。とりあえずバイク停めてくるわ」
ヒロは、俺が運転するXJからひょいと飛び降りて並びに参加し、俺は少し先にある駐輪場にバイクを停めた後に合流した。
ふと見ると、先頭の方に知った顔のオッさんがいたので声をかける。
「オッちゃん。今日どんな台、入るん?」
「おー、遅かったな。今日、人多いし取れんちゃうか、にいちゃん」
「何台入るんやろうかな」
「どうやろかいな。なんや一発台ってのは聞いたけど、それ以外、分からんわ」
「取れんかったら適当に釘パッカー台見つけるから、とりあえず並んどくわ」
並んでいる顔ぶれを見ながらヒロの待つ後方へ歩いて戻る。知った顔がほとんどだが、中には見たこともないような顔もいた。
このコスモスという店の新装初日は、釘がアホみたいに開いていると有名なので、こうして人が集まるのも納得できる。
開店まで2時間。
「タケシ、さっき真ん中らへんに谷君おったで」
「谷ってあの1つ上の? アイツ、パチンコなんかやるんやな」
「知ってるん?」
「知らん。喋ったこともない。なんかバンドやってるってのは知ってるぐらい」
「そうなんやな」
「暇やし声掛けてくるわ。ヒロ、待っててや」
「おー、分かった」
「谷君」
「あっ、自分1つ下の…」
「タケシ」
「そうそう。直人の弟やろ」
「そうやで」
俺には1つ上の兄貴がいる。だけど、中学の頃は1つ上のヤツらと仲が悪くて、俺らのグループはあんまり好かれてはいなかった。
「谷君ってパチンコとかやるんや」
「たまにな。新装めっちゃ勝てるってバンド仲間のヤツに聞いてな。コイツ」
「どうも」
「どうも」
谷君はバンド仲間と2人で打ちに来ていた。俺もベースをやっていたので、音楽の話で盛り上がり、気がつけば開店時間になっていた。
この谷君との出会いが、この後に繋がっていくことになろうとは、まだ知る由もなかった。
「お前、めっちゃ喋るやん。知らん言うてたのに」
「いや、なんかバンドの話とかしててな。今度、対バンやろうかってなって」
「俺もなんか楽器できたらなー」
「やったらエエやん」
「楽器買う金ないわ」
「ほな、今日勝ったら買えよ。ついて行ったるし」
「勝てば、な」
開店。
押し合うように店内へ雪崩れ込み、目当ての新台のシマヘ猛ダッシュで向かうも、俺とヒロまでは届かなかった。あえなく取り損ねてしまったのだ。
「最悪や」
「マジか」
すると突如、店員がマイクでアナウンスを始める。
「当店の新台は大当り後、カウンターにて再抽選となります。つまるところ、1回交換となっているので、どなた様にもチャンスはあります」
店員がこうマイクを入れた瞬間、新台を取り損ねて退店しようとしていた連中の足が止まる。
それと同時に、台を確保した連中は聞いていない。なんやそのルールは!! と騒ぎ始めるが、従うしかないのでブツブツと文句を垂れながらも皆、玉を弾き出す。
「一発台の1回交換、毎度カウンターで抽選って、オメガと同じルールやんけ」
「ホンマやな。それならタケシ、俺らも待ってようや」
「そやな」
当時、一発台の新装初日は本当に甘釘調整だったので、カウンター前で抽選するホールがいくつかあった。みんなに打ってもらおうというサービスだ。
早々に1人目が大当りを出して、その1台が抽選対象となった。もちろん当てた本人も抽選を受ける権利はあるので、玉を流したら列に並ぶ。
抽選方式はよく神社のおみくじで見る、木の箱から棒が1本出てくるアレだ。
俺とヒロは先頭に並んでいたので挑戦するも、俺はハズレ、ヒロが赤棒を引き当て見事、新台の『ジャスティ』をGETする。
「やったタケシ!! お先やで」
「くぅー、今日、打てるんかな俺…」
そして、続々と大当りが出始め、抽選もひっきりなしにハイペースで行われていく。
小1時間ほど経った頃、ようやく俺も当たりを引いた。
新台の前に鎮座すると、そこにはよく見る3穴クルーンが動いている。赤枠で縁取られている穴に入れば大当りというのは一目瞭然だ。雰囲気は少し前に新台で入ったターゲットに似ている。
そんなことを考えながらとにかくクルーン上部のINを目指して玉を弾く。強すぎると通り過ぎ、弱すぎると届かない。
なかなか狙い甲斐のあるぶっ込み構成だな、と眺めていると、最初の500円で吸い込まれるように、そしてスローモーションのように銀玉がスーッと飛び込んでいく。
「入った」
まずは1穴クルーンを眺めながら、いつ3穴のある下部に玉が落ちるのか、この落ちるタイミング次第で天国と地獄の明暗が分かれるので、固唾を飲みながらただただ見守る。
そして突如として玉が下部へストンと落ちる。そのときに大当りの穴が手前にあれば、ほぼ当たりが確定するが、台の傾き次第ではハズれることも稀にある。とにかく作りは単純だが、奥が深い1台なのだ。
「入れ!!」
と、同時に玉は赤い縁の大当りの穴へスッと吸い込まれ、見事、大当りをGETした。
換金すると、だいだい当時で約13000円ほどになったので、一発台の新装はかなり効率がよかった。
その後も抽選を何度も受けるが、2回しか台にありつけなかった。それでも20000円ほど勝ったので文句はないが、相方のヒロはというと…。
「ヒロ、お前、1回当たっただけであとは抽選ハズレすぎやろ」
「腹立つわー、結局、1回しか打てへんかったわ」
「いくら勝ったんや? 楽器買うんやろ」
「9000円使って当たったから、3500円の勝ちや」
「ハーモニカでもほな買いに行くか」
「買うか!!」
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