親切なおっさん(藍川たお)
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親切なおっさん(藍川たお)
※今回のコラムは藍川たおのホラー小説風となっております
「ヤバい! 鍵がない!」
俺は焦った。ポケット、カバンの中、机の上、どこを探しても見つからない。なくさないように、昔、友達から海外土産でもらったド派手なピンクのウサギのキーホルダーでガチガチに縛っておいたのに。
でも、今日は絶対に遅刻できない。なぜなら、近所のホールが珍しく、あからさまに強そうな感じを出しているからだ。以前も似たような日があり、普段はそこまで並ばない店なのに、その日は長蛇の列ができていて、結果もスゴかった。
そんな日に抽選を逃すワケにはいかない。良番さえ引けたら、今日は勝ったも同然。昨日はコテンパンにヤラれているから、今日取り戻さなきゃ破産してしまう。
結局、鍵はどこを探しても見つからず、諦めて鍵をかけずに家を出ることにした。
抽選場所に走っていくと、スロ友達のおっさんが缶コーヒーを片手に並んでいた。
彼とは1か月ほど前に知り合った。3か月前にこの町に引っ越してきた俺が、たまたまこの店に入り、たまたま同じ機種に並びで座り、向こうから話しかけられて意気投合。
俺が天井までハマっていると、「元気出せよ(笑)」とコーヒーをくれるし、「俺、誰かと楽しく打つのが好きなんだよ」が口癖の、前歯が少し欠けた優しくて気さくなおっさんだった。ボディタッチが多いってのが少し嫌だが(笑)。
俺が店に行く日は必ず彼もいる。きっと毎日のようにいるのだろう。いつものように他愛もない会話を交わす。
俺「今日、朝からドタバタだったんすよー! 打つ前から走って疲れましたわ。今日は、1日中打つつもりだったのに」
おっさん(以下、お)「そりゃドンマイ(笑)。休みの日、朝からずっとホールにいて、彼女とか家族に心配されないの?」
俺「1人暮らしなんで。てか、彼女がいたらさすがに1日中はいられないっすよ(笑)! あと俺、いろいろあって親も親戚もいないから、だーれも心配する人がいないんす! 生涯孤独、悲しいっすわ~(笑)」
自虐交じりに答えると、おっさんは真剣な表情でつぶやいた。
お「そっか…。誰もいないんだね…」
ヤバい、変な空気にしてしまった。
よくやってしまうのだが、自虐癖があるのが俺の悪いところだ。俺は慌てて明るく振る舞い、抽選を受けて店に入った。
運良く狙い台に座れ、朝イチ天国からそのまま出玉を伸ばしていった。
夢中になっていたら、あっという間に昼の12時。トイレに行くついでにおっさんに自慢してやろうと店内を隅々まで探したが、見当たらない。きっと抽選が悪くて、ちょっと打って帰ったのだろう。
トイレから戻ったあとは、途中、苦しい場面がありながらも、結果は約8000枚。万枚までは届かなかったが、最近勝てていなかったから最高の気分だった。
そして、気分よく家に帰ると、部屋の電気がついていた。
「朝、慌てていたから消すのを忘れていたんだろう」
電気代のことを考えながら玄関に足を踏み入れると、足元でチャリッと音がした。音のほうを見ると、床に鍵が落ちている。
「なんだ、鍵あったのかよ!」
焦ると人は周りが見えなくなるらしい。灯台下暗しとはまさにこのことだ。だが、鍵に縛っていたウサギのキーホルダーはなくなっていた。
「ガチガチに縛ってあったハズなのに」と、不思議に思いながら、とりあえず見つかって安心。
そして、部屋に入ろうとしたとき、電話が鳴った。見ると大学時代の友達からで、「近くで飲んでいて終電を逃したから泊めてほしい」という。
久しぶりに大勝ちして気分の良かった俺は快く承諾し、友達を家に招き入れ、その夜は朝まで2人で飲み明かした。
飲んでいる最中、何回か「ゴンッ」と鈍い音がしたが、騒ぎすぎて隣人に壁ドンでもされているのだろうか。あとでクレームが来ないかヒヤヒヤしながらも、いつの間にか2人とも寝落ちしてしまい、起きて昼過ぎに一緒にパチ屋へ行った。
パチ屋に行くと、いつものおっさんはいない。というか、その日を境に、おっさんを店で見かけなくなった。
1週間後。2駅先のパチ屋で、俺はおっさんを見かけた。懐かしさから声をかけようとしたが、彼の行動を見て足を止めた。
彼は、隣で打っている若い男に、笑顔で缶コーヒーを差し出している最中で、
「俺、誰かと楽しく打つのが好きなんだよ。あ、そういえばこのへんで1人暮らししてんだっけ? 彼女とか心配しないの?」
聞き覚えのある会話をしていた。
そして、おっさんが電子タバコを取り出そうとポケットに手を突っ込んだ瞬間、俺は固まった。
ズボンから垂れ下がっていたモノ。それは、俺が1週間前に紛失したハズのド派手なピンクのウサギのキーホルダーが付いた鍵だった。
目に入った瞬間、良くない考えが脳内を巡る。
…おっさんが鍵を盗んだ?
いや、鍵は家に落ちていた。でも、おっさんが持っているのは、正真正銘、俺の鍵。
しかし、今思うとキーホルダーはしっかり縛っていたから、勝手にハズれるワケがない。じゃあ、今、俺の手元にあるこの鍵はなんなんだ…?
怖くなった俺は、震える足で家に帰り、逃げるように遠くへ引っ越すことを決めた。
それから1か月後。
引っ越し先の部屋でニュース番組を観ていた俺は、流れた映像に背筋が凍った。あの2駅先のホールと、おっさんの写真が映し出されたのだ。
住居不法侵入と窃盗、そして隣町の若い男に対する殺人未遂の容疑で逮捕されたという。
画面の向こうで、アナウンサーが取り調べ内容を読み上げていた。
『容疑者は被害者から鍵を盗み、合鍵を作成して室内に侵入・潜伏していた模様です。また、容疑者の自宅からは多数の鍵が押収されており、調べに対して「戦利品だ」などと供述しているとのことです。容疑者は「人を殺すことに興味があった。誰でもよかった。死んでも誰にも気づかれないような奴ならいいかなと思ってやった」と供述しており…』
震える手でテレビを消した。
あの日、俺が2駅先のパチ屋で自分の鍵を持ったおっさんを見かけていなかったら?
…いや、それより前だ。
あの日、家に帰ったときに部屋の電気がついていたのは? もし、あの夜、友達を家に呼んでいなかったら? 飲んでいるときに聞こえた、あの音は? もし、あの日、負けていたら…。
暗闇で、俺の帰りを待っていたおっさんに殺されていたのは、きっと…。
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