■第6話:初日 ホール店員編
個性的なメンバーと店員デビュー

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あれは忘れもしない、平成2年12月25日。世間はクリスマスだなんだと浮かれていたが、俺はパチンコ店勤務の初日を迎えていた。

ちなみに、給料の締めが25日の会社だったので、翌月茶封筒で支給されたのは日割りの給料、たったの5500円。事務員が面倒臭そうに「はい、1日分。ここに判子押して!」と吐き捨てるように言っていたのを今でも覚えている。


それはともかく、入社初日は30分ほど早く来てくれと言われていたので、その指示を守って早めに出社。まずは事務所へ挨拶に向かう。そこで初めて店長と顔を合わせたのだが、ひょうひょうとしている感じのヤサ男で、「こんなもんなのか、パチンコ店ってのは」と拍子抜けしてしまった。

その店長からついて来るように言われ、まず通されたのが食堂。その頃のパチンコ店というのは住み込みで働いている者が多く、必ずといっていいほど社員食堂や社員寮があった。そして寮母と呼ばれるまかないさんが毎日、朝昼晩と従業員の食事の面倒を見ていた。当時22歳だった自分にとっては母親くらいの年齢だったのだが、その寮母には妙な色気があり、笑顔で挨拶されただけでも、何だかとても緊張したのを覚えている。

個性的なメンバーとほろ苦い店員デビュー

食堂の奥を見やると、従業員3人が朝食のカレーライスを食べていた。真冬だというのに一様にランニング姿なのが異様に映ったが…。やがてその中の1人が声をかけてきた。

「今日から? 座って飯食いなよ!」

見た目は40代半ばといったところだろうか。後に彼はその店の主任だと分かるのだが、とても優しい口調で話しかけてくれた。初めてのパチンコ店勤務でかなりナーバスになっていた俺だが、ヤサ男風の店長もそうだが、この主任の態度などで一気に打ち解けられそうだとホッとした。


それではと、みんなが食事をしているテーブルに近付いたのだが、いきなり固まってしまった。3人全員が立派な入れ墨を背負っていたからだ。

その頃の入れ墨は今のタトゥーの印象とはまったく違っていて、思いっきりヤクザもんの象徴である。カッコイイなんてものではなく恐怖の対象でしかない。さすがに間近で見たのはこの時が初めてだったし、それも全員だし…と俺はかなり動揺していたが、その空気を感じ取ったのか、皆がとても優しく受け入れてくれた。食事はろくに喉に通らなかったが。


そんなわけで、安全な職場なのかよく分からず混乱したまま勤務初日が幕を開けた。緊張気味に更衣室に向かい、まずは制服に着替える。

出てきた制服は、茶色のストライプのシャツに金色のネクタイ。黒いゴルフズボンにオレンジのベストだ。マジかよ…。お世辞にもセンスが良いと言えない格好だったが、まぁ仕方がない。制服に強烈な違和感を感じながらも、先輩の後ろについてホールに降りていった。

すると先ほどの主任がカウンターで既に待機していて、順番に台鍵(パチンコ台のカギ)を渡していた。列の一番最後で俺は、みんなと同じように主任に手を伸ばすと、先ほどの優しい表情から一変。

「新人が台鍵なんてとんでもねぇ話だ! トイレ掃除やって来い!」

いきなり突き飛ばされて呆気にとられてしまった。
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