■第4話:再会 パチプロ編
ホールに響くゴト師の絶叫

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焼肉屋の哀れな後姿を眺めていると、あろうことか、今度は店員2人が俺を羽交い絞めにしてきた。

「立て! この野郎!!」

突然のこと過ぎて何が何だかさっぱり分からなかったが、大よそ焼肉屋の一味だと思われたのだろう。運良く(悪く?)、たったの100円で一発台を2回も大当たりさせているだけに、こちらもバツの悪さはこの上ない。

店長だかヤクザだか分からんような野郎に事務所でひたすらドヤされ続けたが、知らないものは知らない。奴が焼肉屋と呼ばれているということと、ドヤ街住まいだということ以外はこちらも話しようがないのだ。どうやら店側は前から焼肉屋がゴト師ではないかという疑いを持っていたようで、奴が入店した時からずっとマークしていたということが分かった。

しかし俺はとんだとばっちりだ。出した玉を返せとも言われたが、返す必要もないし、返せばゴト師と認めるようなものだ。俺は食い下がって絶対にレシートを渡さなかった。


結局、お互いが釈然としないまま俺は事務所から解放されたが、どうやら焼肉屋はうまく逃げのびたようだ。

俺はとにかく悔しかった。焼肉屋に腹を立てていたことももちろんだが、あんなに釘が開いてる台を打ちきれずに帰ってきてしまったことが悔しかった。…結局俺もクズの思考である。

ゴト師に囲まれる焼肉屋

それからしばらく焼肉屋の顔を見る機会もなかった。俺はすっかりそのことを忘れ、あいも変わらず一発台を打ち続けていたのだが、半年ほど経過したある日、またしても焼肉屋とバッタリと遭遇することになる。

その日は地元ホールで狙い目の一発台があり、珍しく朝からパチンコを打っていた。結果的に飛びぬけて良い台ではなかったこともあり、赤黒を行ったり来たりとうだつの上がらない感じになっていた。そこで気分転換を兼ね、食事休憩札を台にぶら下げ、なじみの蕎麦屋でいつもの餅入りカレーうどんを食った。


ほどなくしてホールに戻り、自分の台がある島に入った瞬間…明らかに顔つきのおかしい連中が4人ほどで台を取り囲んでいるのが目に入る。一瞬でゴト師と判断した。

面倒なことには関わりたくない…という咄嗟の判断で島から出て行こうとすると、先ほどのゴト師の仲間が別にいたようで、そいつが通路に立ちはだかって行く手を邪魔してきた。チンピラオーラ全開で威嚇してくれやがった。こいつは俺が店にチンコロするのではないかと疑い、この場に引き止めようとしているのだろう。

しかし俺がそれを意に介さずそいつの脇を通り過ぎようとしたため、そのチンピラ風情は掌を返すように下手にでてきた。

「お兄さん堪忍な。すぐ行くから堪忍な」

奴は通り過ぎる俺の手に何かを捻じ込んできた。俺はしわくちゃになったそれが1万円札だということだけを確認し、すぐさまポケットにしまい込んだ。まぁいわゆる口止め料ということなのだろう…。こんなものを受け取るべきではないのだが、これを撥ねつければ敵対しているとみなされ問題がこじれるだろうと判断し、その場を離れることを優先した。


ひとまずそのまま通り過ぎてやつを見返し、アイコンタクトをしてドリンクの販売機でコーヒーを買う。そして何事もなかったかのようにコーヒーをすすりながら自分の台に戻ると、先ほどの4人はもう店にはいなくなっていた。

「仕事が早ぇなぁ…」と思いつつ、その台を打っている奴に目をやると、思わず二度見してしまった。そこにいたのはなんと、あの焼肉屋だったのだ。そう、やつはゴト師グループの一員で、打ち子役だったのだ。先ほどはゴト師グループの仕込み屋4人が台を隠すように打っていたので焼肉屋の存在には気付かなかったのだが、まさかやつが打ち子だったとは…。すぐに奴とは目が合ったが、こちらを見て微笑んできやがった。

俺には焼肉屋の不敵な笑みが許しがたいものだった。こいつはまた俺を取り込もうとするんじゃないか。そう思うとイラッとしたが、平静を装って行動に出ることにした。すでにやつのドル箱は約1/3程度まで溜まっている。打ち止めまであと2600個程度…となれば、残された時間は15分程度しかない。


席についてまず上皿に残っていた玉を消化すると、5000円札を両替するために席を立つ。ちなみにこの時はすべて右打ちで消化。もちろん全てが無駄玉となったが、大当たりでもしたら席を離れられなくなるため仕方のない出費だ。

その後トイレに入り、先ほどの蕎麦屋のレシートの裏に、焼肉屋が打っている台番号と『磁石ゴト』という言葉だけを、トイレにあったボールペンで書き込み、それを右手に握りしめ足早にトイレを後にした。そして何もなかったかのように自分の席に戻る。

ホールに響く絶叫

3分ほどたった頃だろうか。数人の店員が焼肉屋の台を取り囲んだ。そう思う間もなく、店員を威嚇する焼肉屋の叫び声だけが島の中に響き渡った。
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