■第3話:磁石 パチプロ編
超お宝台を拾ったまでは良かったのだが…

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毎日勝ち続けるためには、釘の開け閉めの状態を完全に把握した上で開けられた台を的確に打たなければならない。毎日釘の開け閉めがあるというわけでもないので、1〜2軒程度の状況把握では打てない日も出てきてしまう。そのため必ず数軒を歩いてチェックし、毎日商売ができるような保険をかける必要があった。

当時はネットどころか携帯電話すらない時代、情報は全て自分の足で掴む必要がある。しかもホールだって今のように駅前にあるわけでもないし立地的に集中しているわけでもない。4〜5軒ほどの掛け持ちであっても、今考えるほど気楽はものではなくかなり手間のかかる作業だ。実際、その当時にそこまでしている人間は少なかった。

スーパーコンビの超お宝台

そんなある日のこと。別の用事でたまたま行った駅の近くにホールがあったので、何の気なしに覗いてみることにした。そこは250台程度の小さな店だったが、屋号(店名)が嫌いでほとんど行くことはなかったのだが…運命の歯車とはこういった些細なきっかけで動くものなのかもしれない。

ふらっと一発台の島へ足を進めると、そこにあったのは当時一世を風靡していた三共のスーパーコンビ。まぁそれ自体はなんてことはないのだが、その中の1台だけ明らかに釘が開いていたのだ。


スーパーコンビのようないわゆる三穴クルーンの一発台は、クルーンに飛び込んだ後の振り分けに勝たなければならないため、釘が開いていれば即、勝ちに繋がるという単純なものではない。どんなにクルーンに玉が飛び込んでも、振り分けで負ければ大当たりには繋がらないからだ。

役モノのクセまで把握し尽くしているような通い慣れた店とは違い、初見のホールは色々と警戒が必要である。もしかしたら台の傾斜を起こしているかもしれないと思い、現金サンドの立て付けから傾斜を予測してみたが、これは問題がなさそうだった。

ちなみに、当時の三穴クルーンは大抵は手前の穴に入ると大当たりなのだが、そういう場合には機械の傾斜を起こした方が有利だと思われているが、それは勘違いで実は寝かせたほうが入りやすい。

次に確認したのは入賞口の釘。表面上は開いているように見えも、騙し釘といって、根元を閉めつけて湾曲させて、手前だけ広く見せ、あたかも釘が開いているように感じさせる手法もある。釘師のクセもあるので入念に全体を見てみたが、やはりオーソドックスなスタイルである。そんな中、1台だけ『これは罠か?』と疑いたくなるくらいに飛び込み(入賞口の釘)が開いていた。


疑心暗鬼になりつつも、席についてサンドに100円玉(当時は100円での遊技が基本)を投入。するといきなりだ。ハンドルを合わせに行った1発目の玉がクルーンに飛び込んでいった。

ちなみに、滅多にないことだが、連続で飛び込んだ玉が2つ続けて大当たりの穴に入るとパンクといって大当たりが無効となる。そのためクルーンに玉が飛び込んだ瞬間にハンドルから手を離すのが習性となっているのだが、その動きは周囲からも分かるようで、手を離すとすかさず隣の客からクルーンをガン見されたものだ。この日もそうだった。

当時のホールは今よりも殺伐としており、隣の台の成り行きを見守る…なんていうほのぼのとしたものではない。自分以外の台でチャンスが来ただけで敵視されるのが当たり前、ましてや座って1発目だ、隣の奴も心中穏やかではなかっただろう。まぁそんなに甘いものではないので大抵はハズれて終わるものなのだが…。

しかしこの日は違っていて、その1玉で大当たりを引き寄せてしまった。もちろん金を使って打っているわけだから、当然、目的は出すこと、勝つことだ。しかしこの時はあまりに当たりが早すぎて、何となくバツが悪い感じはあった。

招かれざる男との遭遇

大当たりの消化は難なく進み、15分程度で4000個の打ち止めだ。大当たり終了後は玉をすべて交換するのがルールだったが、連続して打つ場合はその台をキープする分の上皿分の玉は残しても良いという暗黙の了解があった。その慣例に従い、多少の玉を残し、それ以外の出玉を交換。

席に戻るとたばこに火をつけて気持ちを落ち着かせた。あまりに事が上手く運び過ぎていることに嫌な予感がしたのだろう。しかしそんな虫の知らせのようなオカルトと目の前にある正真正銘のお宝台を天秤にかければ、この場から去る選択肢はないだろう。


打ち始めるとまたすぐにクルーンに玉が飛び込んだ。今度は隣の客に気付かれないよう、ハンドルを持ったままストッパーを手で押さえる。この台が簡単にクルーンに玉が飛び込むと気付かれたら、こいつにこの台を狙われてしまうという心配をしていたのだ。1回当たっただけなのに何というあさましかと思うが、それほどに感触の良い台であった。

まぁそんな思考が駆け巡りながらもクルーンの中の玉を目で追いかける。すると…難なく2回目の大当たりがスタート。この時はすでに気持ちを落ち着かせていたので、周りの客がざわざわする中、シカトして大当たりを消化していた。


その時だ。耳障りな声で男が話しかけてきた。

「おう。こんなところでシンネコか?」

シンネコとは『内緒で』というような俗語だ。

後ろを振り返ると…嫌な奴に見つかってしまった。視界に入ったのは通称"焼肉屋"というパチプロだった。チビでデブっとした体格に酒焼けした顔。当時の年齢で50代前半といったところか。

こいつはかつて焼肉屋を経営していたらしく、そのまんま焼肉屋と呼ばれていた。金には人一倍汚く、無賃乗車の常習犯。ドヤ街に1500円で素泊まりしているこてこての半端者。パチンコの打ち筋も酷く、普段はチューリップ台(一般電役)か羽根物の開放台狙い。玉を拾ってまでも出そうというタイプだ。

そんな、かなりクセのある奴なのだが、最近は羽振りが良いという話も耳に入ってきていた。見れば腕には極太の18金ブレスレット。着ている物も高そうな感じでいつもとは様子が違っている。どうやら噂は本当らしい…。
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