俺が一発台にのめりこんでいた頃、スロットはといえば1.5号機と言われる時代で、いわゆるAタイプのスロットが主流だった。「トロピカーナ」や「ファイヤーバード」、「ペガサス」というような機種が設置されていたのだが、パチスロの台数はせいぜいホールの10%程度、パチンコがホールの圧倒的勢力を占めていた。
しかし店側はどうにかしてパチスロに客を付けようと必死だったため、『モーニング』といって、ボーナスフラグが立った状態の台を仕込んでいたのだ(告知ランプなどはないので、ボーナスが成立していても外見上は分からない)。
例えばスロットが20台ある店だと、そのうち12台くらいは当たり前のように毎日モーニング台という具合なのだが、そんなサービスをしているにも関わらず、朝イチからスロットが埋まる店などなかった。それくらいスロットの人気が低かったということだ。
しかし世間的な評価などどこ吹く風、モーニング台はパチプロには大人気である。もちろん俺もそのおこぼれにあずかった1人で、朝イチは1000円分のメダルを持ってスロットコーナーをひたすらカニ歩いていた。3枚打ち込んでボーナスが入ってなければすぐさま隣の台に移動…という感じで、毎日毎日たいした労力も時間もかけずにボーナスを拾うことができたのだ。
ゴミ人間の簡単お仕事
かくも簡単に千円がほぼ確実に7500円になるところから俺の朝は始まるのだが、もちろん多少の問題もあった。どこのホールも、プロ対策として、開店から1時間はメダルを流せないようにしていたのだ。仮に数枚のメダルでボーナスを当てられようが、それを丸々打ち込んでもらえるなら問題ないということだろう。
ちなみに、台移動は禁止されているので、メダルを持って次の台次の台…という打ち方は不可能。つまり1時間はその台を打つしかないということだ。さらに打たないで放置されるのを防ぐために、大当たりした台は席に座って打っていないとコインをすべて没収するという店も少なくなかった。
ただしそれくらいではプロはへこたれない。傍から見ればアホ丸出しなのだが、まず20分くらいかけてボーナスゲームをゆっくりと消化し、その後は1枚掛けで、しかもリールが自動停止するまでひたすら待つという時間稼ぎで対抗するわけだ。そして1時間が経過すると、さっさとメダルを交換して跡形もなくどこかに消えてしまう。店からすれば、プロ連中は単なるゴミに見えていただろう。
もちろん俺も同じ穴のムジナなわけだが、メダルを流すまでの1時間、目押しができないおじちゃんおばちゃんの味方になってボーナスを揃えてやるという別の役目もあった。その当時は目押しができる店員などまずいなかったから、俺が呼ばれて揃えることが多く、他のゴミプロとは違って店からも少なからず信頼があったのだ。
しかしそんな信頼を勝ち得るために目押しを頼まれていたわけではない。目押しができない客の777を揃えてやることで、その度にご祝儀として1000円を奪っていたのだ。まぁ敢えて『奪う』と書いたが、もちろん無理矢理剥ぎ取っていったわけじゃない。
現在の状況からすればなぜそんなことになるのか謎だろうが、当時の打ち手の目押しレベルたるや、とてつもない低さだった。というよりも、目押しをしているのはプロぐらいである。
その頃のリールは透過性もないため、内側からランプをあてて視認性を高める…なんてことがないのはもちろんのこと、リールも細いし絵柄も小さいし、そもそもボーナス絵柄の視認性が極めて低いため、今のスロットよりも圧倒的に揃えずらい。そのため、ボーナスを揃えられないまま1000円分のコインを使い果たしてさらに追加投資…なんていうことが普通に行なわれていた。
もちろん今はそんなお金のやりとりなど許されるものではないが、当時は1000円を払ってでも揃えてもらった方が得だという意識を持っていた打ち手が多かったため、そういうシステムが自然と成り立っていたのだ。それくらいボーナスを揃えるのが難しかったのだから、スロットの人気がないのも納得するところだろう。
そんなことを繰り返しているうちにメダルを交換できる11時がやってくる。俺はさっさとメダルを流し、そそくさと店を出て換金所に直行し現金に交換。自分で打ったモーニングと他の人のボーナスを揃えた時のご祝儀で、開店からわずか1時間で毎日15000円くらいは稼いでいた。
一仕事済むと、今度は山手線で新宿方面へ向かう。地元から30分ほど電車に乗ると次のお目当てのホールがある駅に到着。そこは珍しく地下にスロットが大量設置されていたのだが、11時30分までコインの交換が許されないホールだった。他の店よりも時間の縛りが長いこともあってプロの数は少なく、そのおかげで11時半の時点でもモーニングの取りこぼしがあるというわけだ。
…なんて書くと簡単にモーニングが拾えると思うかもしれないが、実際はそうでもない。当時の台上にあるのはナンバーランプと言われるものだが、これには呼び出し機能しかない。ボーナス回数はもちろんのこと、回転数も含め一切の情報がない。つまりどの台が回されているのか、判別されて捨てられているのか、モーニングが当たっているかは分からないということだ。
しかしそれでも注意深く見ていけば手がかりは残されている。灰皿の吸い殻跡や投入口やストップボタン付近の指紋など、ちょっとしたヒントを頼りに、既に打たれている台を避けながら効率よくモーニングを拾う術を身に付けていった。
こうして、朝イチで確実に取れるモーニング、それと11時30分からでも狙える店に通うことで、13時頃には最低でも3万円は稼げるようになっていたというわけだ。