閉店後、常務の確信犯的なもの言いから深夜の一方的なバトルが始まった。
「アタマキタさん。今日は正面入口を開けて営業していましたか?」
この日、オーナーはひどく苛立っていた。それもそのはず、常務が担当している「CR花満開」が連日赤字続きで、連日みっちり朝方まで閉めの調整を続けているにも関わらず、その勢いは一向に止まる気配を見せていないのである。そしてこの日も朝方まで続けられた調整の甲斐なく、ガッツリと赤字営業にて終了してしまった。
これを受けてオーナーの苛立ちはさらに増幅し、そしてそれが常務に伝播している。本人にしてみれば今日こそは利益が上がるはずの釘調整をしているのだが、それでも赤字になってしまった…。どうやらそれが自分だけでは受け止めきれなかったたようで、その矛先が俺へと向かってきたわけだ。
常務はデータを見るなり身体を小刻みに震わせ、例の甲高い声で自動ドアがどうのと言い立てている。
これから自分の理解を超えた世界観が描かれることを確信した俺は、常務が言うことに対して絶対に笑ってはいけないと自分に言い聞かせる。そして深呼吸で気持ちを鎮めてから、正面入り口を開けて営業していたことがなぜ問題なのかと尋ねる。
すると、安っぽい芝居でも見ているかのごとく、「えっ? そんなことも分からないんですか?」という決めゼリフを頂戴した。人を見下すような高圧的な態度も漏れなくセットである。しばしの沈黙を挟み、常務はいつものように自分のひげを右手で触りながら話を始めた。
「アタマキタさん、あなたは…。花満開がここのところ止まらないでしょ? あれはね、春一番の影響なんですよ!」
自信に満ち溢れた顔でそんなことを大真面目に語るとは…反則である。こみ上げてくるものを抑えきれそうになく既に限界を突破しそうであった。しかしここは冷静に大人の対応というところで聞き返さなければならない。
「ちょっと…おっしゃっていることが自分には理解しかねるのですが…」
この返答に常務は心底驚いたようである。
「えっ? まだ分からない? つまりですね、春一番によって巻き起こる砂ぼこりが原因なんですよ!」
論理的組み立てはどうあろうとも、常務が抱える世界観の全貌はまだ明らかになっていない。ここは畳みかけの一手だろう。
「その…砂ぼこりが…何なんですか?」
そこまで答える必要があるのか? と言わんばかりに常務の顔は呆れの色に染まっていく。
「えっ!? まだ分からないのですか? 春一番が吹くことで砂ぼこりが飛んできて、ドブからジャバラを経由して基盤に影響を与えるのです!」
「…」
ヤバい! 大爆笑しそうだ! 理解不能な説明のためにいちいち『まだ分からないんですか?』って真顔で聞いてくる。ヤバいヤバい…頑張れ俺!
アウトメーターやアウトケースの逆流
いまにも爆発しそうな笑いを堪えながら、さらに俺は常務に尋ねた。
「それでは…その砂ぼこりは、アウトメーターやアウトケースをたどってくるんですかね?」
こう言い終えた後、さすがにこの質問は馬鹿にし過ぎたか? と思ったが、常務には無用の気遣いだった。
「当然です。明日から入口の扉は半開にして下さい。それから、外部にはマメに水まきをして下さい!」
これを聞いた私はすでに常務の顔を直視できない状況にあったが、最後の力を振り絞って答えた。
「(www)わかり(ww)まし(w)た。今後気を(www)つけま(www)す」
そう言ってその場は何とか凌いだ。
何故こんなにおかしいのかは、専門的な知識がないと理解できないと思うので、次の写真で説明しよう。