■第3話:消失 店長編
釘師になる夢のため、俺は始末書を書いた

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『パッキ―カード』と聞くと懐かしいと思う人がいるかもしれないが、これを読んでいる方の中には何のことか分からない人がいるかもしれないので、まずは軽くそこに触れておこう。

いまパチンコを打とうと思ったら、各台に設置されているサンドに現金を入れれば済むが、CR機が出始めた当初はそうではなかった。まず、カウンターや入口のそば、または島端などに数台設置されている券売機でプリペイドカードを購入する必要があり、それを台の横にあるサンドに差し込んでようやく遊技できるというフローになっていた。そしてそのプリペイドカードが"パッキーカード"と呼ばれていたのだ。

カードの種類は1000円、2000円、3000円、5000円の4種類。現在パチンコ店で使われているカードは、お金をチャージすれば1万円にもなるし使い切れば価値がなくなる。そのイメージだと伝わりにくいかもしれないが、このパッキーカードは現在のようなカードとは根本的に異なり、いわば現金そのものなのだ。

だからこの取り扱いには厳重な管理が求められ、毎朝開店前に券売機にカードを補充するのは主任の重要な仕事であった。そういう状況下で事件は起こる。

パッキーカードが消え…た!?

この日は朝の業務を俺が担当していて、いつものように券売機にカードを詰めていたのだが、どうも5000円のカードが少ない。いや、少ないなんていう言葉では済まされない。ざっと200枚ほど足りないのだ。5000円分で200枚となれば100万円というとてつもない金額である。

前日の夜に締めの作業をやったのが自分だったので、この状況にすぐに違和感を覚えた。もちろん仕事上のルールとしてカードの枚数を数えて残数もメモしてあるため、その数時間前の数字と照らし合わせてみたのだが…やはり5000円のカードが200枚は足りない。何かの間違いかと思い何度か計算してみたが…どうしても数が合わない。


ちなみに、金庫の鍵を持っているのは俺と佐藤主任、そして事務長の3人だけである。もしこれが見落としや単なるミスで後からひょっこり原因が分かるということになれば話は別だが、現段階では俺が一番不利な状況に立たされていることは明白だった。何と言っても前日の締めをやったのはこの俺であり、翌日の開店作業をやったのも同じくこの俺なのだ。

しかし俺は責任をもってカードの管理をし、この日も責任を全うすべく出社したにすぎない。自分としては落ち度はなかったはずである。しかしないものはない。その事実は目の前から消えることはなかった…。


俺は夕方に出勤する予定だった佐藤主任を待ち、一緒に事務長の所に向かった。自分としてはこの上なく重い気分で事務長の部屋の扉をノックしたのだが、何か良いことでもあったのか事務長はひどく上機嫌のようで、拍子抜けするくらい明るい声が返ってきた。余計に気持ちが暗くなる。

先に事務長室に入った俺は軽く事務長に挨拶し、その後、外にいる佐藤主任に入室するように促した。

「どうしたの?」

相変わらず上機嫌な様子で事務長は聞いてきたのだが、俺はこの場違いな雰囲気の中、重い言葉をひねり出さなければならない。

「5000円のパッキーカードが…200枚なくなりました」

そう告白しながらも俺は佐藤主任の顔を鋭く見つめていた。しかし奴はこの重大事を聞いても全く動じる様子はないようだ。呑気に外を見ている。しかし事務長は先ほどの態度から一変、手に取るように動揺が丸見えである。

「カードがないって…よ、よく探したの? 勘違いじゃないの? 何かの間違いじゃないの?」

俺はとりあえず事実を淡々と伝えることにした。

「昨晩の締めをやったのは俺なんですが、開店の時に残数を確認したところ、100万円分のカードが紛失していました」

もちろん俺自身はなぜこんなことになっているのかは分からないが、もしかしたら誰かが何かを知っているかもしれない。だから俺はこう聞いた。

「金庫の鍵を持っているのは、私も含め、ここにいる3人だけです。だからもし何か気にかかることなどがあれば教えて欲しいと思いまして…」

そう言い終わるなり、事務長が「私はカードのことなんて知らないわよ!」とヒステリックに言い返してきた。こういう状況になると人の本質が露呈するもので、人生の先輩ではあるが、ああいう態度は見ていて嫌になるものだ。まぁそもそも俺は事務長を疑っているわけではないので、この態度に吐き気はしたが、その言葉に小さく頷き、同じ言葉で佐藤主任に問いかけた。

「主任は何か気にかかることはありますか?」

するとどうだ。佐藤主任は急に困ったような顔になり、泣いているかのような口調で話しだした。

「自分は盗っていませんよ。だいたい自分は…昨日は休みじゃないですか? 万が一盗ろうと思ったって無理に決まっているじゃないですか。アタマキタさんはもしかして自分のことを疑ってるんですか!?」

こいつの演技力…どこぞの主演男優賞でもあげたいくらいだよと呆れ果てたが、そもそもだ、誰が"盗った"とか"盗られた"とかいう話をしたというのだ? 俺は『気にかかることはないか?』と聞いたに過ぎない。まぁ十中八九こいつがガメたに違いないとは思っていたが、確証がない中で佐藤を詰めると思いもよらぬことが起こるかもしれないため、この段階で露骨なことをするつもりもなかった。

しかしこれ以上話をしていても埒が明かない。もしかしたらこの日の閉店後の売上で出てくるかもしれないというかすかな希望に託し、一日様子を見てもらうように事務長に頼んでホールに戻ることにした。

しかしながらそんな甘い期待はいっぺんに吹き飛ぶ。売上計算をした結果、ぴったり100万円のマイナスとなったのだ。

佐藤主任の退職願の行方

100万円という金額のカードがなくなったというのは非常に大きな問題であるし、俺に管理責任があるということは逃れようもない事実である。しかしこれは刑事事件にすべきであって、きちんと被害届を出して捜査をしてもらった方が良いだろうと思っていた。翌日、俺は覚悟を決め、事務長の部屋をノックした。
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