■第2話:解雇 店長編
不当解雇。そしてなくなった100万円

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佐藤は主任というポジションでこの店に赴任してきた。役職から考えれば当然ながら立場は俺の方が上ではあるのだが、社歴でみれば佐藤は大先輩であり、また妙なことで揚げ足を取られても面倒であるため、奴には常に敬語で接することにした。

なんせ、薄氷を踏む思いでのホール運営真っただ中である。これ以上のトラブルは御免こうむりたいし、ましてや身内でのトラブルでお客に迷惑をかけるなど言語道断である。結果として、佐藤には腫れ物に触る思いでいたわけだ。


ちなみにこの佐藤、年齢は俺の二回りも上でパンチパーマのチビデブといういかにもな風体であるのだが、さらに色つきの度付き眼鏡ときたもんだ。百点満点である。

その容姿から上目使いが繰り出された時、眼鏡の隙間から覗かせたあの目玉…思い出すだけで身の毛がよだつが、あの視線が何とも嫌で仕方なかった。


そんな生理的に100%拒絶したくなる視線を絡ませつつ、奴は俺と話をする時はいつも上からの発言を旨とする。例えば休みの相談をしたとしよう。すると佐藤は、

「俺の休みは最初から決めている」

これで終わりだ。

従業員の扱い方について打ち合わせをしようにも、自分の管轄外の話であると取り合おうともしない。閉店して従業員を帰した後で俺が釘を叩いていても、もちろん無視を決め込んでとっとと先に帰ってしまう。


この姑息な男、俺と仲良くやろうなんざ微塵も考えていないわけだが、それだけならまだしも、仕事以外の部分で自分の狡猾さを発揮させることについては随分と意欲的であった。

まず手始めに、会社の権力者にすり寄っている。社長からの信頼が厚い勤続40年というベテランの女性事務長に巧みに取り入っていたのだ。そのやり口の手練れっぷりたるや、それはもう大したものだとしか言いようがない。

まず、昼時になれば、食事の準備が整ったとわざわざ報告しに行く。まかない食はセルフサービスなのだが、この男は事務長のごはんをよそうなんてことは当たり前のことで、味噌汁その他まで準備万端よろしく待ち構えて一緒に食事をする。

午後3時となれば必ずホールを抜け出し、飲み物とデザートを持ってわざわざ事務長の部屋へ馳せ参じる。分からないことがあれば、他のスタッフに聞けば分かりそうなことでも、わざわざ事務長にご教授を請い、それを口実に長時間現場を離れることもしばしば。当然ながら現場からはクレームの嵐である。

さすがにその振る舞いが目に余るので奴にはちょいちょい忠告していたのだが、まるで砂漠に水を打つかの如く、まったくお構いなしの様子である。

ホスト上がりの巧妙な根回し

痺れを切らした俺は、ある日、事務長の所へ押しかけて尋ねてみた。

「最近佐藤主任がちょこちょことホールを抜け出して、こちらに来ているみたいなんですが、彼は何をしているのですか?」

すると事務長は、

「仕事が分からない所が多いから、私に教えて欲しいと言って来てるのよ」

と答えた。その口ぶりから苛立ちを湛えているのが分かったが、すぐにそれは溢れ出してしまう。

「そもそもアタマキタさんが佐藤主任を無視するから、彼が困って私の所に泣きついて来てるのよ。立場が上だからって…やっていいことといけないことがあるでしょ!」

「…」

おいおいちょっと待ってくれよ。何がどうなればそういう認識になるんだ? さすがに俺は呆れてモノも言えなかったが、事務長の言葉はどんどんエスカレートしていった。

「佐藤主任はね、もう一度やり直そうと、自分から志願してここに来たのよ! 彼は気持ちを入れ替えてちゃんと頑張っているんだから認めてあげなさい!」

わずか数週間で事務長は完全に抱き込まれている。その腕は見上げたもんだが、だったらホストクラブでも働いた方が良いんじゃないか? そう思ってヤツの履歴書を見たら実際にホストクラブ上がりだったのには思わず笑ってしまった。

寝耳に水の解雇通告

しかしこのままじゃマズいな…。そんな懸念を抱いた矢先、最初の事件が起きた。それはいきなりの通達だった。
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