■第13話:謀略 班長編
ナカムラが朝イチ押さえた台は…

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出勤前の待機場所である食堂には徐々に社員が集まってくる。缶コーヒーを飲みながらみんなを待つ時間は、これまでの人生で最も長く感じたかもしれない。

従業員が大方集まり、最後に主任が眠たそうな顔でやって来た。そしていつものように開店準備の作業に入っていく。表面上は何も変わらない、いつもの日常である。しかし自分の感情は昂ぶっている。冷静に振る舞おうという気持ちと、今日でケリを付けてやるという気持ちが激しく交差していた。


おのおのの開店準備作業が終わると、ぼちぼちカウンター前に集まり束の間の休憩。開店10分前のいつもの店内の光景である。俺も平静を装いつつカウンターで談笑を交わしていたのだが、ふと入口を見やると、案の定ナカムラが先頭に陣取っている。

相変わらず見ているだけでムシズが走る野郎だ。苦々しく見ていると、向こうもこちらに気が付いたのか、ドア越しにこちらを見つめながら、指をさしている。おおよそ人を小馬鹿にして笑っているのだろう。

ナカムラは相手にダメージを与えることだけには長けている。面倒なことに関わりたくないのは誰しも同じだが、しかしこういう輩を前にひとたび怯んでしまえば、力関係を永遠に変えることはできない。相手に良いようにされるばかりだ。そうイキっていた俺はナカムラを見やりながらドア越しに笑って返した。

開戦を告げる軍艦マーチ

いつものように勇ましい軍艦マーチが流れ、お客が一斉に店内になだれこむ。俺はナカムラが飛び込んでくるであろう「メガトロン」のコーナーから少し離れ、様子を窺うことにした。

予想通りナカムラはいつものようにメガトロンコーナーに突入し、端から順番に、そして丁寧に釘を見ていく。ここまでは予定通り、大丈夫。奴は網にかかるはずだ。

「123番台に座れ…。123番台に座れ…。123番台に座れ…!!!」

念じるように俺は、島の影から息を殺して動向を見守っていた。自分の読みに自信はあった、そして絶対的な確信もあった。しかし…最後までどうなるかは分からない。


そしてついにその時がやってくる。ナカムラは釘の吟味を終え、右手に持っていたタバコとライターを、ゆっくりとある台の下皿に置いた。

「何番台を押さえたんだ?」

動悸が激しくなるのが自分でも分かる。はやる気持ちを抑えながら、ゆっくりと、島端からナカムラの選んだ台へと歩みを進めた、まっすぐに。この歩み、その一歩一歩が自分の運命、そしてマネージャーとナカムラのこれからの運命に繋がっている。

目に飛び込んできた台番号は…