■第10話:疑惑 班長編
独学のための釘チェックが運命を動かす

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俺に強烈な印象を植え付けてくれた常連客、ナカムラのことを覚えているだろうか? こいつはめっぽう態度が悪く、本来ならとっくに出入り禁止となっているはずの男だ。しかし、店内で問題を起こすたびにマネージャーに苦情が殺到するものの、大事なお客様だから大目に見てやれということでいつもうやむやになってしまっていた。

店にとって迷惑な客なのだからとっとと追い出した方が良いに決まっている。俺や他の従業員だけでなく、お客ですらそう思っていたに違いない。それくらいに態度が悪かったため、なぜそんな不良客を大事にしているのか当初はワケが分からなかった。


だが、ある時、俺はハッとした。

「もしかするとマネージャーはナカムラとツルんで私腹を肥やしているのではないか?」

そう考えると、色々と辻褄が合うじゃないか。

こんなことを言うと、ほとんどの人が鼻で笑うだろう。感情的な軋轢が俺の目を曇らせていると思うに違いない。しかし俺が元々パチンコ生活者で色々な人間を見てきたということもあり、こういうことについての勘は鋭い方だと自負している。それにあのマネージャーのことだ、何が出てきてもおかしくはないではないか。問題はその疑惑をどう確信に結びつけるかだが…。

独学のための釘チェックが運命を動かす

ところで、俺は早番で出勤すると、まず最初に店の釘を見て回り、その日に出る台を予想するのを習慣としていた。もちろん勉強の意味もあったが、自分の釘読みには自信があったから、答え合わせをするのが楽しかったのだ。

しかしその一方でやりきれない気持ちにもなっていた。当時ナカムラは藤商事のメガトロンという機械を毎日のように打っていたのだが、たいてい俺が出勤時に目を付けた台、つまり良調整の台にピンポイントで座ってくるからだ。

あの男は台を選ぶ際にメガトロン全台の釘をしっかり吟味しているため、しっかりと釘の開け閉めが分かっているということは容易に想像がついた。俺は苦虫を噛みしめる思いで奴の後姿を睨むしか術がなかった。


そんなある日の朝、開店直前、メガトロンに機械トラブルが発生。最後の準備として台掃除をしていると、メガトロンのコーナーで台が閉まらないという報告を受けた。俺が調べてみると、立て付けが悪いのか、確かに上手く閉まらない。

古い機械だとこういうトラブルも起こってしまう。もちろんそんな時のためのマニュアルもあり、このホールでは隣の台と交換してみることで原因を探ることになっていた。

ひとまず、立て付けから直すと大ごとになってしまうので、閉まらなくなっていた台を取り外して隣と入れ替えてみる。するとどちらの台もちゃんと開閉できるようになったので、何かがズレたのか上手くハマっていなかっただけだろうと安心した。ただ、これをまた戻すとなると、すでに開店を10分後に控えていたため時間がない。仕方がないので、この日はそのまま営業することになった(今ではこのやり方は問題があるのだが、当時はこれが普通だった)。

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ほどなくして開店を迎える。入口を見るとナカムラが先頭を陣取っていて、すかさずメガトロンのコーナーに入ってきた。そしていつものように一通り釘を吟味し、細心の注意を払い、優良釘の台に腰を下ろす。

…そう思っていたが、この日のナカムラはなぜか、俺にとって釘が一番閉まっているように見える台を選んでいる。その様子に違和感を覚えはしたものの、たまにはそういうこともあるのかな、くらいにしか思わなかった。
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