【第3部】第19話
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俺とヒロは、やたら腰の低い中国人に「外へついてきてくれ」と何度も促され、最初こそ強気に出てはいたが、これはもう逃げきれない、と腹を括り、スッと席から立ち上がる。

最初は隣の1人だけかと思っていたが、そこらじゅうに仲間がいて、気がつけば数人が取り囲むように俺らの周りに近づいてきていた。

当時、ニュースにはあまりなっていなかったが、攻略軍団のネタをパクったり、シマを荒らしたりした、などの理由で拉致されたり、殺人事件にまで発展するケースも本当にあっただけに、俺は頭の片隅で、殺されるな…と本気で思った。

先頭にいるのは声をかけてきたリーダー的な男、その横にもう1人、そして俺らを挟むような形で3人がいる。暴れたとしても人数的に不利なうえに、恐らく刃物を携帯していると予想し、戦うという選択肢は消された。

俺とヒロは席を立って囲まれるように歩いているとき、お互い目を合わすことなく、どう逃げるかだけを考えていた。

そのとき、ヒロが「ちょ、そこでトイレだけ行かせてくれや」と口走った。

「なに? トイレ? あー、ダメね」

「いや、頼むわ」

「俺も、俺も我慢してたんや」

「…」

「どーぞ」

リーダー的な男が仲間の1人に一緒に入れと中国語で指示したのか、1人の男が一緒にトイレへ入ってきた。

ヒロも、あーやっぱアカンか、といった顔をしているが、とりあえずトイレで小便をしながら目先の少し上にある小窓を眺めていた。

この窓からならギリ抜けられるな、そう思いながらも監視役がいるので行動にはうつせない。

ちなみに俺はこのとき、小便をしているフリで実際には出ていなかったが、ヒロはものスゴい勢いで出ていたので、逃げる算段とかではなく、ただ単にコイツはホンマに小便がしたかっただけなんじゃないのか、とさえ思った。

とりあえず駐車場へ出て、強引に車に押し込まれるまでの未来は見えているので、どうにかして駐車場へ連れて行かれるのを阻止しないとイケなかった。


カウンター前を通ったそのとき、店長とバイトがタバコを吸いながら談笑していたので、俺は足を止めていきなり大声でこう叫んだ。

「お前らええ加減にせぇよ、コラ!!」

店長や店員とは仲が良かったので、なんとかなりそうな気がして、イチかバチか勝負に出る。

「やるんやったらやったるぞ!!」

店長と店員は何事かと止めに入った。

「どないしたんや?」

「ナニモナイネ、コノヒトトモダチ」

「店長、コイツらに脅されてるから警察呼んでくれ」

「警察呼んでくれって、お前」

「ほな、ここで暴れたろやないかいっ!!」

「なんやねんお前、どないしてん」

店長は俺の演技に頭がおかしくなったのか、と最初は戸惑っていたが、なんとなく空気を察し、乗っかってくれた。

「分かった。おい、警察に電話せぇ」

カウンターの中にいる店員に店長がそういうと、中国人グループは何もなかったかのようにシマヘ戻り、残っているコインを流し始めた。

俺とヒロと店長はカウンター前から微動だにせず、その動向をただただ見守っていた。

「店長、ごめん。助かった」

「どないしたんや? アイツら最近よう来るヤツらで、毎回キッチリ4〜5万抜かれるから俺らも警戒してたんや。なんでお前が揉めてんねん」

「ちゃうねん、攻略法が…」

とヒロが正直に言いかけたが、俺は被せるように、

「ちゃうちゃう!! 攻略法をアイツらがやってるような感じやったから注意したってん」

「ホンマか? お前らも悪さしようとしてたんちゃうか?」

「するかいな、そんなもん。なっ、ヒロ」

「お、おう」

「とりあえずアイツらは出禁やな。お前らもはよ帰れ」

「へいへい」


俺とヒロは残りコインをタバコに換え、バイクを停めている駐輪所へ向かった。

が、ちょうどそのとき、白のワンボックスからこっちをずっと見ているさっきの中国人がいることに気が付き、慌てて店内へ戻る。

「ヒロ、オイ!! ヤバいぞ」

「待たれてるやんけ。バイクで逃げ切るか」

「アホか、家がバレたらどないすんねん」

「ヤバいヤバい! タケシどないする?」

「あっち側から出るぞ。とりあえず家と逆になるけど、1号線の方まで裏道使って走ろ」

俺らは逆側の出口からホールを出て、追われているかもわからないが、とりあえずダッシュした。捕まったら殺される、それを考えるといつの間にか走り出していた。


あれから20分ほど走り、1号線の近くまで来た。とりあえず帰らないとイケないが、帰りたくない気分だった。

「なぁ、タケシ。俺らバイク置きっぱなしにしてたらバレんちゃうか?」

「バレたところでなんやねん」

「いや、ナンバーから家とかバレへんかなって」

「ポリちゃうんやからそんなん無理やろ。でも、置きっぱなしはお前も不安やな」

「後輩のサイトウに電話して取りに行かすわ、バイク」

そう言ってヒロは、公衆電話から後輩に電話を掛けた。

しばらくしてヒロが戻ってきたが、浮かない顔をしている。

「どないしたん?」

「いや、なんか嫌な予感がするから勘弁してくださいって断られた…」

「お前、下手くそやなそんなん」

「とりあえずこの辺やったら、松田ん家のバイク屋が近かったやろ? アイツのとこ行ってみようぜ」

「ほとんど喋ったことないやろ、お前?」

「同じ工業に通ってんやったら、友達みたいなもんやろがい」

「むちゃくちゃやな、ホンマ」

俺らは以前、松田と話した際にバイク屋だということを教えてもらっていたので、場所は知っていた。


結局、松田は家にいて、少し部屋で談笑をし、ひょんないきさつとはいえ、俺らは松田とえらく仲が良くなった。

そのあとは近くのファミレスに移動して、てっぺん近くまで話をしていたが、さすがにヒロもバイクが不安だったのか、

「松田、ごめんやけど、タカラホールまでケツ乗せてくれへん? 俺のバイク停めたままやねん」

「なんやそれ? かまへんけど、タケシどないするん?」

「とりあえず俺はここでヒロ待っとくわ」

「ほな、一旦、俺の家寄ってバイク出すわ」

松田のお陰で事なきを得たが、後日、松田に聞いた話によると、ヒロはビビってタカラホールの駐車場をめちゃくちゃ警戒していたらしく、盗聴器付けられてへんやろな、と何度もバイクを確認していたらしい。

ここから半年ほどは恐ろしくてタカラホールには近づけなかったが、風の噂で聞いたのは、中国人グループが台に特殊ロムを仕込んでいたらしい。だから俺らがその情報をどこかで掴んで実戦しようとしていたので、中国人グループは怒っていたのかもしれない。

勘違いから命を落とす羽目になっていたかもしれない時代は香ばしすぎるな…。

補足 リノの攻略法は実際にいくつか存在した。今回、俺たちが真似をしようとしたのはボフ打法だのポロリン打法とのちに言われる伝説の攻略法だ。

クレジットにコインがある状態で、精算ボタンを押しながら全リールを普通に止める。そしてポヨンみたいな音とともに1枚払い出されれば成功。次のゲームはレバーを叩けばリールが回転するので、そのまま7を狙えばBIGがスタートする。

2〜3日で使えなくなった攻略法なだけに、俺は未経験だった。恐らくヒロは、誰かが真似事をしているのを見て、そのまた真似事で俺に教えようとしたに違いない。





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アツいぜ
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