【第3部】第6話
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放課後……と言っても俺は昼休みに学校に来ているので1コマしか授業を受けていない。昼休みに予定していた昼寝を俺に邪魔された坂井は、授業終わりの鐘が鳴っても机に突っ伏して寝たままだった。おもむろに坂井の頭をチョップして起こす。

「さっ、坂井、行こうや。昨日のホール」

坂井はグッと身体を伸ばし、「よっしゃ」と言って立ち上がった。


教室を出て駅へと向かう。すると後方からカッキンが追い付いてきた。

「タケシくん! ちょっとエエかな」

「なんやカッキン。まぁ構わへんけど」

昼休みに目撃したカッキンの様子を思い出した俺は、自分でも思いがけず素っ気ない態度になっていた。

足を止めずにそのまま歩く。カッキンも一緒になって歩き始めたが、何かを言い淀んでいるような雰囲気だった。カッキンからの言葉を待ったが、何も出てこない。痺れを切らした俺は昨日も口にした疑問を再びぶつけてみた。

「カッキン、お前、グレるというか、なんでそんなんなったんや?」

少しぶっきら棒な口調になったな……と思ったが、まぁ無理もないかと思い直した。コイツの方が話があると寄って来たにもかかわらず、会話の糸口を俺に任せるのが悪い。その気まずさをカッキンも感じていたのだろう、観念した様子で話し始めた。

「野球で……頼りにしていた推薦が取り消されてもうて、そこからどうでもよくなっただけやねん」

「なんで取り消されてん?」

「昨日、タケシ君らとおったときに地元でチャリ2ケツしてるヤツらが絡んできたやろ。アイツらも中学時代の野球部やねん。アイツらが悪さしてもうて俺ら連帯責任でややこしい事になって…」

「あーっ? 何やねん、そんな話ホンマにあるんやな」

そう言いながら、ちらっと坂井の方に視線を向けると坂井は「なるほどな」という顔つきで軽く頷いていた。カッキンはおどけるような表情で続けた。

「別に俺かてヤンキーになりたいとかちゃうけど、なんか舐められんのも腹立つし、どうせやることもないから、それやったら悪いことしたろかなって」

自分はスッキリしてますよ、そんな感じをわざと演出するような話し方だった。だが、そこには痛々しい強がりだけがあった。

「ダサい。究極にダサいぞお前。なんやそれ、夢破れてやる事ないからヤンキーなるって、クソダサいやんけ」

半ば反射的に俺がそう言うと、カッキンの顔はさっと曇り、口を尖らせて反発してきた。

「タケシ君かて同じやろ」

「俺は元々夢もなんもないだけや。やる事は確かにないけど、喧嘩なんて巻き込まれる限りせんしな。ヤンキーでもないぞ、俺は」

そこに坂井が突然カットインしてきた。

「おいタケシ。それはないわ。キミはヤンキーや」

「やかましいねん坂井!!」

坂井が茶々を入れたことで急激に場の雰囲気が和むのがわかった。カッキンの口調もやや軽くなる。

「結局、ヤンキーやんタケシくんかて」

「そや。タケシはヤンキーや」

「ヤンキーヤンキーってうるさいねん。なんやねんヤンキーって。お前の中のヤンキーってなんや?」

俺はカッキンに詰め寄った。

「バイクパクって暴走族して、喧嘩して」

「それはヤンキーやな、うん」

納得する俺。即座に坂井が突っ込んでくる。

「丸め込まれてどないすんねん、お前」

「いや坂井、暴走族はヤンキーやろ」

「じゃあタケシも昔ちょっとやってたから、ヤンキーやな」

「茶々いれんなや!!」

俺はカッキンの方を向きなおして肩に手を置いた。

「なぁーカッキン。俺は別にヤンキーのつもりもないし、毎日、好きなことしときたいだけや。好きなことするのに金がなかったらバイトもするしな」

「バイトなんかすんの? 金盗んだりしたらエエやんか」

「お前のヤンキー像、怖いわ…。坂井、こんなんが勘違いして犯罪犯すんやろな」

坂井は神妙な顔を作り頷きながらカッキンに語りかける。

「せやろな。てかカッキンやったか、キミ。悪いことしたいとか舐められたくないとか、ホンマにダサいぞ。確かに野球一筋できて、目の前が真っ暗になったんやろうな、他に夢中になる事を探さないと悔しくて堪らんって感じなんは分かるけど、逃げてるだけにしか見えへんわ俺には」

「………」

カッキンは黙って聞いていた。

「お前、なんかカシコやな」

「黙ってタケシ」

「…うん」

最初に茶々を入れてきたのはお前やん……何で俺が怒られてんの? と思ったが素直に引き下がっておく。

「ヤンキーみたいな格好したけりゃすりゃエエ、俺らもしたいからしてるだけやし意味なんか一ミリもない。ただ、人を傷つける犯罪行為をするのがヤンキーやと思ってるんやったら俺はお前をシバく。今ココで」

「………」

坂井は真面目なトーンだった。カッキンも坂井の顔を真剣に見つめていた。揺り戻ししたくなった俺は、「くーっ、坂井。俺の代弁お疲れ様。ここからは俺のターンや」と、坂井の背中をバンバン叩きながら言った。

「なんやねんお前!!」

坂井を無視して俺もカッキンを諭すモードになる。

「カッキン、お前はヤンキーとか言うてるけどバカにしてるやろ、何も一生懸命にやったことない負け組が……って」

カッキンは黙って聞いている。

「さっきの昼休みな、教室に戻ったお前のこと、ちょっと見ててん。お前の隣の席に体のデカいヤンキーおったやろ? ソイツとのやり取り、少し見てて思うたわ。お前は野球を一生懸命やってきたプライドがまだ捨てきれてへんねん。坂井も言った通り、逃げてるだけやぞ」

話しているうちに自分でも口調がキツくなっていくのがわかった。カッキンの表情も段々と固くなり、すぅっと一息吸ったかと思うと、そのまま立ち止まった。

「分かってる。分かってるよそんなん俺かて!!」

そして、カッキンは坂井に対して一礼し、さらに俺へこう言った。

「タケシ君にそこまで言われる思わんかったわ、もうエエよ、ごめんな呼び止めて」

カッキンは再び坂井に一礼し、駅とは別の方向へと走り去って行った。俺と坂井は少し呆気にとられて、カッキンの走る姿を無言で見ていた。

そして、顔を見合わせて「行ってもうたな」「そうやな」というやりとりを表情だけで交わした。そのまま無言で歩き、駅の改札近くにまで到着した時、俺は我慢できずに叫んだ。

「なんで坂井には一礼して俺には逆ギレやねん!! アイツ、マジでシバいたろか!!」

その言葉で、歩いている間ずっと我慢していた坂井が盛大に噴き出した。

「ブハハハ!! アイツ、お前に甘えたいだけやねん。ホンマのお兄ちゃんみたいに思うてんちゃうか。まだガキやな」

「ムカつくわホンマ」

「いつまでムカついてんねん!! お前も大概ガキやな!!」

まぁいい。カッキンのことは放っておいて、俺たちは今からパチスロや。そんな風に気分を入れ替えると、もう頭の中はセンチュリー21のことだけになっていた。





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アツいぜ
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