【第2部】第2話
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1月25日。

相変わらず朝は寒い。ホームで寒そうに肩をすくめていたヒロを見つけた俺は、ヒロのケツに膝蹴りを入れて朝の挨拶がわりにした。振り向いたヒロはニヤリとして「おう」と答えただけだった。ほどなくしてやってきた電車に俺とヒロを含めた4人で乗り込み、発車を待っている。

ヒロが「きたきた」と呟く。ホームに目をやると、全力でトシユキがコッチに走ってくるのが見えた。発車ギリギリで乗り込んだトシユキは、扉が閉まるなり、「ヒロ!! この前、いつの間にか帰ってたやないか、お前!!」とがなった。ヒロは1つの吊り革を両手で掴み、体を揺らしながら答える。

「あ〜、もう打つ台もなかったし、お前、めっちゃ興奮しながら打ってたからな」

「そら興奮するやろ!! タケシに教えてもらったリバベル、あの後も打つ台打つ台うまくいってな〜。2万も勝ったわ。お前、もったいないことしたなぁ〜」

「そんなに勝ったんかいな? 景気のええ話やなー」

「俺は今日も行くぞ、ヒロはどないすんねん」

「んっ? トシユキと2人だけは不安やなー、タケシは?」

「俺か? 俺は行くよそりゃ。ただ、そろそろ出席日数がテンパイしてるらしいからな、こうして今日も朝から出勤や。ホンマは今すぐホールに行きたいんやけどな」

「出席日数って! タケシ、お前、卒業する気なんか?」

「なんやねんヒロ。そりゃまぁー、色んなヤツに迷惑かけたからな、中学時代は。少しくらい頑張らなアカンやろ」

そう、年が明けて3学期ともなると、いよいよ年間の出席日数のヤバさが明確になってきた。ここのところ、俺を筆頭に朝から地元の駅で同級のツレが4人も5人も揃うのは、つまり全員、同じ穴のムジナってヤツだからだろう。

「いつまで続くやら、やな」

ヒロは肩をすくめながらわざとらしくトシユキの顔を見る。トシユキも大げさにうなずいていた。


いつもと変わらず、朝からアホな会話を繰り広げていると、地元の駅から3つ先の駅に停車したところで、異常に目力のあるスーツのおっさんと上下ジャージで全身に覇気がみなぎっているようなパンチパーマ、そしてその背後にも目つきの鋭いおっさん…の計3人が、俺たち5人をジロリと睨みながらゾロゾロと乗り込んできた。

妙な緊張感が漂う中、おっさんの1人が俺たちに声をかけてきた。

「おい、お前ら壁山のツレやろ」

壁山…カベくんの苗字である。何でいきなりこんな強面のおっさんから友人の名前が出てくるんや?

「エッ!? あ〜、はい」

「お前ら、壁山に何があったのか知らんのか?」

「カベ君に?」

俺も他の奴らも何のことかサッパリ分からなかった。そういやアイツ、最近朝来てなかったな…と思い返していると、おっさんは続けて

「お前ら、3日前、四条畷(しじょうなわて)の駅で乗り込んできたヤツらと車内で一悶着あったやろ」

「あっ、俺やそれ。てかオッさんなんやねん。アイツらの保護者か?」

トシユキは少しムッとしながら言葉を放つ。すると、おっさんはドラマのワンシーンのように、スーツの裏ポケットから警察手帳を出し、「コレや。口の利き方気を付けろよ」とドスの効いた声を低く響かせた。

「警察!?」

俺は手帳を見た瞬間、背筋に嫌な汗をかいた。ろくでもない思い出が頭を駆け巡る。もちろん俺以外も警察にいい思い出がある、なんてヤツはいない。俺はわざと落ち着き払って質問した。

「警察が俺らになんの用ですか?」

「なんの用やと? お前らみたいなクソガキの喧嘩に出っ張りたないんや。ただな、被害届が出とんねん」

「あのワケわからんヤツらから!? そんな、殴り合うとかなかったよな、トシユキ?」

「いや、掴み合ったぐらいですぐ止められたからな。そんな警察が動くほどでもないで、オッちゃん」

「コラボケ、口の利き方気を付けろよ言うたやろ。次はないぞ」

今にも関節を極めて捕えてきそうなその勢いに、トシユキは生唾を飲み込んだ。空気がピリっとしたその時、パンチパーマのジャージの男が口を開く。

「お前らが揉めたんはK商業のヤツらや。アイツらがあの後、お前らの学校のヤツを目の敵にしたんやろな。標的になったのが…」

「…俺らより後の電車に乗ったカベ君か」

「そういうこっちゃ。ホームで見かけた人の情報やと、2人で壁山を引き摺り下ろしてホームでボコボコにしてたらしいぞ。それで壁山は病院送りや。そして壁山のオヤジさんが被害届を出したワケや。めんどいのぉ、お前ら。今すぐお前らもしょっぴいてもエエんやけどな。まずは相手を捕まえて事情聴取せなアカンからのー」

朝の電車でトシユキとK商業のヤツが軽く揉めただけ…俺たちはそう思っていたが、まさか私服警官が動くほどの大事件に膨れ上がっていようとは…。しかもカベ君が病院送りときた。それなりの怪我をしているハズだ。私服警官は俺らをジッと睨みつけ、溜め息と同時に言葉を投げかけてきた。

「お前らもな、そ〜んな派手な格好しとったら喧嘩上等や、言うてるようなもんやぞ?」

俺たちは全員押し黙ってお互いに顔を見合わせるくらいしかできなかったが、その顔には徐々に怒りの表情が浮かんできていた。アイツら許さんぞ、と皆がそう思った瞬間だった。


やがて電車は四条畷駅に到着した。駅のホームの端を乗車中の車両が通過した瞬間、怒声が響く。

「オイ!! アイツらやっ!! おったぞ!!」

車外に目をやると、減速中の電車に、K商業のヤンキーども5人ほどが並走していた。電車が停車し、扉が開く。

「コラァッ!! お前ら!! 降りろや!!」

ヒロ、トシユキ、そして俺…を含めたコッチ側5人も即座に臨戦態勢に入った。その時、ひたすら俺たちに圧をかけていた私服警官が、突然扉側に反転し、勢いよく車外に飛び出した。

「何をしとんじゃ貴様〜コラァッ!! 警察じゃオラーッ!!」

K商業のヤツらは目を丸くし、何が起きているか理解できていない様子だった。が、それも一瞬のことで即座に警官たちにも喰ってかかる。

「何やコラ! 警察は関係ないんじゃ! 引っ込んどれカスッ!!」

それぞれが罵声と怒声を口にしながら警察の背後にいる俺ら5人を睨みつけ、車内に押し入って来ようとしている。

しかし、警察の圧力はハンパではなかった。瞬く間にK商業の5人の腕や首根っこを締め上げ、きゅっと絞るように動きを止めて見せた。

「お前らも降りんかいっボケ!!」

K商業のヤツらを押さえつつも、スーツの私服警官が振り向き、俺らにも電車を降りるよう大声を張り上げた。仕方なく俺らも電車から降りた。

ホームで対峙したK商業のヤツらは興奮している。喧嘩の時にドバっと分泌されるアドレナリンが溢れ出していた。その中でも1人、そう、トシユキと揉めたヤツが、警察に抑えつけられているのもお構いなしに喚き続けていた。

それは興奮状態といった生易しいものではなく、どこか異常性を感じるものだった。俺はその様子を見て悪寒を覚えた。





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アツいぜ
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