【第1部】第23話
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倒れたヒロに俺は駆け寄った。苦悶の表情でうずくまるヒロの前には金子が無表情で立ちすくんでいた。

「金子、おまえ…牧に利用されてるだけなんちゃうか…?」

「黙れコラァ!!」と牧が吠える。俺は牧を無視して金子を見上げた。凶暴そのもの、と言われる金子に俺の声が届くかどうかは賭けだった。だが声をかけずにはいられなかった。

「金子、牧はお前の名前を騙って金集めてたんやぞ。お前は承知の上なんか?」

「当たり前や」

「そんなんでええんか! ダッサい奴やなコラ! 金子!!」

「うるさいんじゃコラ!!」

金子は俺の胸ぐらを掴んだ。その動きだけで金子の腕力が尋常じゃないことが伝わってきた。しかし金子はそれ以上何もしなかった。

牧の「お前の兄貴がやったみたいに殺ってまえ」という言葉が、金子に異変を起こしていることは間違いなかった。牧も異変を見て取ったのか、殺気をにじませた叫び声で金子をなじった。

「おい、金子!! 早よ殺ってまえ!! 何してんねん!!」

「アホらし」

そう言って金子は俺から手を離した。

「このチビ連れて帰れやボケが…」

金子はヒロを顎で指しながら俺にそう言った。その言葉に対して、牧は先ほどまでとはうって変わって落ち着き払った、しかしより深い怒りを感じさせる反応を見せた。

「金子コラ…何勝手なこと言っとんねん…コイツらは俺らをナメきってるんやぞ?」

そう言いながら、スタスタと駐車場の端に歩いていく。そしておもむろに転がっていた角材を手にとり、そのままコチラに向かってきた。

「ほんま…ハァ…どいつもこいつも…」

角材を地面にガリガリとこすりながら、牧は俺の近くに来ると、ゆっくりと角材を頭上に構えた。

「俺の言う通りにしとったらええんじゃ!!」

怒りを爆発させながら牧は俺に角材を振りかぶった。身構えるのが一瞬遅れた。マズい。上手く防御ができず脳天に角材が直撃する恐怖が身体を支配した。歯を食いしばり目を閉じる。

ゴッ!!

鈍い音が響いた。しかし痛みはない。俺はそっと目を開けた。金子が右手で角材を受け止めていた。

「何をしとんじゃゴリラ!!」

牧が叫ぶ。

「牧やん、やりすぎや」

「何をビビっとんじゃ!! お前も人殺しの弟やったら気合いみせんかいっ!!」

金子は牧の胸ぐらを掴んだ。

「兄貴のこと、それ以上言ったら殺すぞ、牧」

牧は驚きと怒りが交じり合ったような顔をしていた。この俺に対して金子がこんな態度をとるのが信じられない…そんな表情だった。牧は角材を投げ捨て、金子の胸ぐらを掴む。

「やんのかゴリラ!! おぉっ!?」

睨みあう二人。ふと見下ろすと、ヒロも鼻血を押さえながら牧と金子の状況を見守っていた。睨みあう二人は声を発さなかった。膠着状態を先に解いたのは金子だった。金子は、「はっ、アホらしい。離せやコラ」と言いながら、牧の胸ぐらを押し離した。

よろけるように牧は引き剥がされた。血の混じった唾を吐き捨て、金子、そして俺とヒロを一瞥した後、「ヤメじゃヤメじゃ!! しょうもない!! けったくそ悪い……お前ら覚えとけよ」。

そう言って牧は振り返りもせずに駐車場から去っていき、残された俺たちはただ牧の後ろ姿をぼんやりと見ていた。ヒロは両足を放り出すように座りながらTシャツで鼻血をぬぐっていた。どうやら、血は止まったようだ。だが、汗と土ぼこり、そして血でヒロのTシャツはドロドロだった。

「ヒロ、いけるか?」

俺は声をかけた。

「ああ」

金子は地面の一点を見つめるように微動だにせず立っていた。俺にはその姿がなんだかとても悲しく見えた。

「金子…」

俺は思わず声をかけた。すると、金子はこちらを振り向きもせずに「お前ら、もう二度と八幡には近づくな。次会ったら殺すぞ」と、呟くように言った。そして、乗ってきたバイクにまたがり、駐車場をあとにした。




「いたたたっ!!」

「ちょっと我慢しぃーなー!! 男やろ!!」

「和美さん!! 目の上、切れてるねん俺。口の中かてまだ傷だらけなんやで。もっと優しく絆創膏を貼れんもんかね…」

「全然、顔出さへん思うたら喧嘩三昧って!」

駐車場でのケンカから3日が経っていた。

あの日、地元に戻りヒロと別れた後、俺は気がつくと和美さんのアパートの近くに来ていた。何となく一段落したという気持ちがあったのか、無性に和美さんに会いたくなっていた。

だが、すんなりと部屋に入れてもらうのも気まずく、アパートの前でタバコを数本吸っていたところを、部屋から出てきた和美さんに発見され確保された。俺もそうやって見つけてもらうことを心の中で望んでいた気がする。

「ご、ごめん…」

「ホンマに…はい、できたよ。だいぶ傷も塞がってきてたわ」

「目の周りは皮薄いからな、すぐ切れんねんな、いつも」

「普通の人は切れへんのそんなとこ!!」

「そ、そうやね…すいません…」

「……で、学校は行かんでええの? タケシくん、全然行ってへんやろ? もうすぐ夏休みになるで」

「うーん、もうヤメよかな思うてて…」

「アカン!! とりあえずまだ10時やし行っておいで」

「オカンみたいなこと言うなぁ……和美さん。まぁー、そやな……ほな着替えて行ってくるわ」

玄関から出ようとすると、和美さんから声をかけられた。

「今日、ウチ夜の仕事ないしご飯行こな。ちゃんと帰ってくるんやで」

「わかったー。ほな行ってきまーす」

和美さん、ほんまにオカンみたいになってきたな……。





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アツいぜ
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