【第1部】第18話
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病院で治療といっても止血をして氷嚢で冷やし、痛み止めと化膿止めの薬をもらって帰らされた。不幸中の幸いか、警察に通報されることはなかった。

家に帰る前に、病院の屋上へ上がり煙草に火をつけた。口元に痛みを感じつつ、とっくに夜になっていることに今頃になって気づく。

しばらく煙草を吸っていると、顔面をガーゼやら包帯やらで包まれたヒロがやって来た。無言のまま、ヒロにも煙草を差し出す。

「………」

「……」

「ヒロ、お前さっきから黙ってるけど、どないすんねん」

「どないすんねんってお前、今から乗り込んで仕返しや」

「アホ言え。金子にヤラれて目ぇ覚めたやろ。あと、あの金髪もかなり強いぞ。無策に乗り込んでも返り討ちにあうだけや」

「…まぁー、そやの。腹の虫はおさまらんけど、確かにアイツらの強さは別格やった。殺されると初めて思ったからな」

流石のヒロも金子の強さは身にしみていたようだ。そんな状態で「仕返し」などと強がりを言えるのがコイツのアホなところでもあり、頼もしいところでもある。

「さて、あの金髪…どっちも金髪か。しゅっとした男前の方、牧やんとか呼ばれてたな。アイツが、大川連れてこい…とか言うてたけど」

その言葉を聞いて、ヒロが顔を歪めた。憎々しげに吐き捨てる。

「お前らの言う、その大川ってやつ、元凶は全部そいつやろ? 俺が今すぐシバきたいわ」

「アイツと関わったことによって、柿やんも俺もボコボコにされてるからな。シバきたい気持ちがあるのは俺も一緒や」

「あんな、俺一つ気になるんやけど、あの牧やんって呼ばれてたやつ、アイツ…何で俺らのこと知ってたんやろな」

「確かにそやな。俺と信号待ちで対峙してきたとき、明らかにアイツから挑発してきたもんな」

「てっきり俺はお前らが会ったことあると思うてたぞ」

「いや、ないな」

「そうか。ほな、このままイモひくか」

「ヒロ、お前一ミリも思うてないくせにしょうもない案出すなや」

「いやー、どないしたろかのアイツら」

どないしたろ…か。確かに金子をボコボコにしに行って見事に返り討ちにあった。再度仕掛けるにしても…と考えたところで、ふと気づく。

「おいヒロ、お前、バイクは?」

「あーっ! 俺のFXあそこに置いたままやんけ!」

「この時間なら、くっさんの定時制も終わってるやろ。お前、電話してバイクであの場所まで連れてってもらえよ」

「そやな。電話してくるわ。あっ、タケシ10円ちょうだい」

「小銭ぐらい持っとけよお前は。いつも金ないのホンマ」

「やかましいねん!」

俺たちは屋上から院内に戻った。ヒロは病院の待合室にある公衆電話へ小走りで向かう。俺は待合スペースのようなところにあった硬いソファーに腰をかけ、これからどうするかを一人考えた。

「ウッ…、案の定、熱持っとるな顔面。こりゃ明日、アンパンマンになりよるな」

病院から借りている氷嚢で顔をとにかく冷やした。ヒロも顔面を撫でるように氷嚢を押し当て、電話をしている。

「タケシ、今からくっさんが迎えに来てくれるから、ちょっとバイク取りにいってくるわ」

「そうか。ほな俺は1回家帰るわ」

ほどなくして、くっさんが病院に到着した。俺たちの有様を見て一通りリアクションした後、くっさんはヒロをバイクに乗せて病院を後にした。

俺は家まで歩きながらひたすら考えた。どうやってアイツらに仕返しをするか、牧というヤツはなぜ俺のことを知っていて挑発してきたのか。

「大川を連れてこい」と言われたが、マナミちゃんが無事なら俺らにはもう関係ない。が、そもそも柿やんの弔い合戦のつもりで始めた喧嘩だ。それがまだ終わっていない。俺とヒロもこのまま引き下がるわけにもいかない。事の発端はヒロの言う通りすべて大川だが、もうここまでくると大川の事なんてどうでもいい。今はボコボコにしてくれたアイツらへの復讐心だけが燃え上がっていた。

熱を持った顔面と、グルグルとまとまらない考え、それらが苛立ちを加速させるような感覚だった。

しばらく歩きながらふと、家に帰るのはやめて和美さんのアパートに足を向けた。


和美さんの住んでいるアパートが見えた。電気が消えているように見えるが、とりあえず鉄骨が丸出しの階段をゆっくり登り、和美さんの部屋の前にやってきた。ドアノブに手をかけた瞬間、和美さんに「金子とは関わったらアカン!」と怒られたことを思い出し、ドアノブに手をかけるのをためらった。踵を返し、帰ろうとした瞬間、ドアがガチャリと開く。

「タケシくん? どないしたんその顔! はよ入りーや、なにしてんのそんなとこで」

「あっ、うん」

俺は和美さんの顔を見ることができなかった。部屋に入るなり、和美さんは俺の目の前にちょこんと座った。

「また喧嘩してきたん?」

「まぁー、そんな感じ…」

二人の間にはなぜか重い空気が流れ、俺は目を逸らしたままだった。

「金子ちゃうやろね?」

「……ちゃうで。知らんヤツら」

「嘘や! 金子やろ! 言うたやろ、関わるなって! 何してんの!」

「………」

「タケシくん…仕返しする気なんやろ」

「…うん、まぁー、ごめん」

俺は立ち上がり、和美さんの家を出ようとした。

「待ちーや! 座って! あんな、アイツらの怖さ知ってるやろ、身に染みたやろ、もうほっとき」

「できひん。俺はアイツらに…」

「アホか! そんな顔腫らしてなにイキってんの!」

「うるさい! 女のアンタにはわからん」

「わかるわ! 言うこと聞いてタケシくん」

「和美さん、なんでそんなアイツらのこと避けさすん? 何なん?」

「じ、地元が同じやし…金子の兄ちゃんとは同級生やから、それだけや」

「和美さん、金子の兄貴と何かあったんか」

「ない! 関係ない! ふぅ……ご飯でも作ろか」

「………」

そういって和美さんは台所へ逃げるように向かった。





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アツいぜ
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