【第1部】第17話
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金子の怒声に対して、少し顔をしかめながら金髪が声をあげた。

「金子、うるさいねんお前は。コイツ、大川のツレやって」

ズンズンと音が聞こえるように俺に近づきながら、なおも金子は威嚇してくる。

「オイコラ! あのボケどこじゃ!」

いよいよ俺の目の前に金子が立った。デカい。そして身体全体が分厚い。

金髪が金子と俺の間にすっと割ってはいった。

「待てって。居場所知らんらしいわ。用なしやコイツ」

「ほな、大川への手土産にコイツも入院させよか」

その時、汗だくになったヒロが追いついた。

「タケシ…置いていくなや、お前! で、コイツら何?」

のん気に聞いてくれる。コイツこそが金子やっちゅうねん。

金子がヒロに対して凄む。

「お前こそ誰じゃ、チビ!」

「なんやこのゴリラ?」

「あっ? 殺すぞチビ猿が!」

金髪が呆れたように金子の肩に手を置いた。すると即座に金子は臨戦態勢を解いたようだ。やはり金髪は金子の「お守り」なのか…。

「待て待て。シバいても意味ない。なぁーお前ら、今日の夜までに大川をあのプレハブまで連れてこいや。ほったら許したるわ。断るならこの猛獣を解き放つぞ。ハハハハハ」

今までのやりとりで、俺はコイツらの関係性がよくわかった。金子は腕っぷしがあるが、ただのアホや。で、この金髪は頭がキレる。コイツが金子をうまいこと利用しとるだけや。見た感じ強そうにも見えへんし、金子は仕方ないとしても、コイツと刺し違えるか。

そう思ったその時、金髪はタバコを燻らしながら、こう言った。

「お前、俺の提案を受ける気なさそうやの。やるか? 金子はその猿と。俺はお前でエエわ。ビーバップみたいにタイマンやろか? ハハハハハ」

俺は咄嗟に金髪の首根っこを掴み、頭突きをいれようとした。金髪は掌底か拳で俺の鼻っ柱に一発いれてきた。俺は鼻の奥が熱くなったのがわかった。と同時に感覚がなくなり、鼻血がしたたり落ちた。

「お前、慌てんなや。相手になったるからよ。ただ言うといたるわ。俺はそこのゴリラより強いぞ。ハハハハハ」

「牧やん、ゴリラは勘弁やで」

金子が金髪に言い返す。牧やん…初めて名前が明らかになった金髪は、金子の言葉に笑顔だけ返しながら、俺の顔を覗き込んできた。

「おい、どないする? 鼻血えらいことなってんぞ? お家に帰るか? ハハハハハ」

俺が咄嗟に仕掛けたことにより、ヒロと金子は少し距離をおき、俺らの喧嘩を見守っていた。

「いったれタケシ!」

ヒロの言葉を合図に、俺は半歩下がり、右ひざを腹部に折りたたみ、そのまま膝から下を金髪に向かって真っ直ぐに伸ばした。俗に言う前蹴りだ。金髪は左手で俺の前蹴りを下にさばいた。俺は拳法をやっていたので、金髪の手の動きから、「空手か何か心得ている」ことがすぐにわかった。と、間髪入れずにローキックが飛んできた。左足を軽く折りたたみブロックしたが、かなりの威力だ。

「あれれー? なんかやってるねお前ー。俺は極真やけど、なんやお前は?」

「黙れカス!」

右回し蹴りを左のあばら付近へ蹴り込むんだ瞬間、金髪のハイキックが俺の左側頭部へヒットした。そのまま意識が飛びかけ、膝から崩れ落ちる。

「タケシ! おい!」

ヒロの声が遠くの方で聞こえる。このまま目を閉じれば楽になれそうだ。

「タケシ!!」

意識を取り戻すも、下半身に力が入らない。

「フラフラやんけコイツ、ハハハハハ」

「金髪コラァッ!」

ヒロが飛びかかろうとすると、金子がそのままヒロの首を太い腕で締め上げた。スリーパーホールドの形だ。その状態から足をひっかけ首ごとひねりアスファルトに叩きつける。そのまま馬乗りになりヒロの顔面を殴りつけた。

両手で必死にガードするヒロだったが、顔は血まみれになっていく。俺はぼんやりとする意識のなかでヒロと金子を見つめるしかなかった。


気を失っていたのか、眼が覚めると歩道に横たわる、俺とヒロの周りには人だかりができていた。

その野次馬のなかにいた一人のオジさんが俺に何かを言っている。

「君! おいっ! 大丈夫かっ!」

「うっ…」

「おいっ、目を覚ましたぞ! 君、もうすぐ救急車が来るからな! ジッとしてなさい」

意識が戻りつつある俺の脳は、自分の心配よりもヒロが気になって仕方がなかった。仰向けのまま目をこじ開けると、綺麗な夕焼けが見えた。横たわった状態から頭だけを動かし、ヒロの方に目をやる。すると、ヒロは上半身を壁にもたれかけた状態で、心配そうに見守る数人の通行人たちに血を拭かれていた。俺は安心してそのまま目を閉じてしまいそうになった。

「ほら、きたぞ救急車!」

ピーポーピーポーピーポー。

助かった。という感情はなかった。この怪我を見れば喧嘩というのは一目瞭然なだけに、警察から聴取を受けるのが面倒くさい、という事しか頭にはなかった。しかし、逃げようにもそんな体力は一ミリも残っていない。周囲の人達と救護隊員のなすがままに俺は担架に乗せられ、救急車に担ぎ込まれた。ヒロも同乗している。

救護隊員が、車内でことの成り行きをヒロに問いかけていたが、ヒロは何も答えずに痛みを堪えてうめき声をあげるだけで、その顔は赤黒く腫れ上がっていた。俺も顔に熱があるのを感じていた、殴られて腫れる前の熱さだ。

「これは喧嘩やな。君たちはどういう関係かな?」

「…ツレや」

何とかヒロは返事をしていた。救護隊員は俺とヒロが喧嘩をしたと思っている。これは好都合だ。俺が、やや申し訳なさそうな表情を作って、その先の話を引き受ける。

「えーと、こいつとは地元のツレで、しょうもないことをして喧嘩になっただけやから」

「それにしてはエラい派手にやったもんやな」

そう言いながらも、救護隊員は「んなワケあるか」という表情で、俺たちの処置を続けていた。





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アツいぜ
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