【第1部】第11話
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夏の日差しが容赦なくうなじを焼いていた。にじみ出る汗を無視して日陰となっている店内に入る。

「おばちゃん、ガリガリ君のソーダないん?」

「売り切れやねん。今日、暑いからなー」

「マジで! ほなこれでエエわ」

「はいよ、500万円ー」

「おもんないねん。50円おいとくで」

俺は他のアイスの袋を即座に開けながら、いまいましい気持ちで自分のバイクを睨み付けた。

「暑い…暑い…こんなクソ暑い日に、あのクソバイクが…」

その時、背後から近づいてくる排気音とともに、いかにもアホそうな声が聞こえくる。

「おい、タケシー!」

振り向くと、そこにはバイクにまたがった柿本がいた。

「なんや柿やんか、何してんねん」

「それはこっちのセリフや! 汗だくでアイスなんか食うて。どこ向かってんねん。てか、バイクは?」

「バッテリー上がっとんねん、あのボケ!」

「どこ行くん? 乗るか?」

「小遣い稼ぎや。タカラまで頼むわ」

俺は迷わず柿本の後ろにまたがる。

「相変わらず好きやのー。夏休みなんやからバイトぐらいせーよ」

「プータローのお前に言われたないわ。ほれ、はよ行ってくれ」

「乗せんとこかな、もう」

「すまんすまん。嘘や」

「まぁーエエわ。ほな行くで!」

柿本はバイクを走らせ、目的地であるタカラホールへ向かった。5分ほどで到着する。


俺は吹き出る汗をぬぐいながらバイクから降りた。

「サンキューな柿やん」

「かまへんよ。…そうや! 今日の夜、大川、金子のとこに話つけに行く…っていうか、詫びいれに行くみたいやで」

俺は自分の顔が一瞬曇ったのを自覚した。

「…そうなんや」

「またなんかあったらタケシにも連絡するわー。ほな、勝ったら奢れよ」

どこまでも能天気に柿本は言う。

「任せとけ。ほななー」

俺はホールの入口に向かった。店に入る直前、後ろを振り返ると、柿本は俺を戦場に送り出すように手を振っていた。アホだ。


冷房を心地よく全身で感じながら、俺は独り言を繰り出していた。

「もう連絡なんかしてこんでエエっちゅうねん、ホンマ。…さて、何打とかなー…パチンコもしっぶいのー」

パチスロのシマをブラついていると、「兄ちゃん、久しぶりやのー」と、ベンハーを打っていた顔見知りのオッさんに声を掛けられる。

「こんなとこまで打ちに来るんかいな? オッちゃん」

「コスモスが最近、全然アカンくてな。それにあの店、スーパーセブンしかないやろ? それより俺はこっちのベンハーのが好きなんや」

1990年、パチスロは2号機時代である。ウインクル、スーパーセブン、ベンハーの3機種が全国のホールでは主流となっていた。

「どっか良さそうな台ないん?」

俺は世間話ついでに情報収集を行う。するとおっちゃんは待ってましたとばかりに自分が座っている台の隣を指さした。

「ワシの隣、コレや! コレ打ち」

「ホンマかいな。まぁー、エエわ」

俺は半信半疑で腰を下ろした。


「おぉっー! いきなりベルきたわ!」

「フルーツ入ったらエエな」

3号機で廃止となったゲーム性だが、2号機にはフルーツと呼ばれる小役の集中機能が搭載されていた。で、このベンハーはベルが小役の集中突入の鍵となっていたのだが、ベル揃いの次ゲームでリール右にあるインジケーターが点灯すると見事、小役の集中突入となる。

「タバコでも吸いながら空回しして待つか」

俺はベンハーを打つ時、ベルの次ゲームはいつも空回しをしていた。リールが自動停止する瞬間、インジケーターが点灯。それと同時にパンパン! と鳴り響く高音がたまらなく刺激的だったのだ。

パンパンパン!

「よっしゃ! フルーツゲット!」

「千円か兄ちゃん、羽振りエエのー」

しばし、俺はオッちゃんとベンハーを堪能した。最近は余計なことに巻き込まれ、気持ちもむしゃくしゃしていたので本当にパチスロが楽しかった。


気付けば閉店の時間になっていた。俺は一万円ほど勝ち、ぶらぶらと夜風にあたりながら帰ろうとしたその時、柿元と、その横にはマナミが連れ立ってホールの前にいることに気がついた。

「あれ? 何してんの自分ら?」

俺の問いに柿本が神妙な表情で答える。

「お前を迎えに来たんや」

「はっ?」

嫌な予感がした。

「大川が…大川が金子のとこに詫びをいれに行く約束をブッチして逃げたんや」

「えっ!?」

予感的中。大川は逃げた。さらなる嫌な予感を感じていたのに、俺は柿本に話の続きを聞くことを止められなかった。

「…で、何なん? なんで俺を探してたん?」

柿本は心配そうにマナミを見た。声をかけられるまで伏し目がちだったマナミは、意を決したように顔を上げる。

「タケシくん……うちの家に金子が来たん。お母さんが居留守使ってくれたから、とりあえず何もなかったんやけど…家もバレてしもて行くとこないねん……」

「で? はっ?」

俺は自分でも冷たいかな、と思うぐらいの反応をマナミに返した。その様子を見た柿本が言いづらそうに口を開く。

「タケシ…お前のさ、彼女の家に…マナミちゃん、匿ったってくれへんけ」

「なんでやねん! もう俺に関わるなよ、お前ら!」

俺は金子の恐ろしさを想像しただけで完全に拒絶していた。しかし柿本は食い下がる。

「マナミちゃん、危ないやろ」

「知らんがな! あとな、和美さんは彼女ちゃうし、そんなん俺から頼める仲やないねん」

柿本は俯き、しばらく黙っていた。そして、再び顔を上げて、俺の目を見ながら言った。

「そうか…わかった。なんか考えるわ。悪かったな、タケシ」

柿本はマナミを促し、自分のバイクのケツに乗せて走り去った。俺はその後ろ姿を見るともなしに見続けていた。





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アツいぜ
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