【第1部】第7話
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「コラ兄ちゃん。グダグダやってる時間あれへんねん。はよ知ってること喋れや!! 殺すぞ」

なかなかの早業&恫喝。柿やん、ただのお調子モンってワケじゃないんやな…などと妙な関心をする俺。

のどを掴まれたパーマは苦しそうに声を絞り出した。

「は、離せや…お前、津野中の柿本…やろ」

「それがどうしたんじゃ、コラ!!」

「お前、大川からなんも聞いてへんのか? アイツ…黒田組の見習いで、攻略のアガリを任されてたんや」

その言葉を聞いて柿本はパーマの首から手を離した。

「黒田組やと? 見習い? アイツ、ヤクザに足つっこんでんのか」

「そうや。俺はアイツに打ち子を頼まれてただけで、それ以上のことは知らん。ホンマや。津野中の柿本となんか揉めたないわ…コレで勘弁してくれ」

呆然とした表情の柿本。

掴まれていた首をさすりながら、パーマは言い放つ。

「まぁ…助けたかったら組に乗り込むしかないんちゃうか」

どうやら大川を拉致ったのは組の関係者らしい。まさかそこまでヤバいとは…。同じ高校生か、そこらへんのチンピラ同士のイザコザなら俺の出る幕もあるかもしれないが、ヤクザが出てくるとなると「よっしゃ行こか」とは当然ならない。さて…。

「大川、あのアホ…なにしてんねんアイツ!!」

柿本はイラつきと心配がごっちゃになったような口調で吐き捨てた。パーマは一刻も早くこの場を離れたい、という顔つきで、「俺はもうエエか」と訊いてきた。

「あぁ、悪かったな」

パーマの方を見もせずに、柿本は言った。大川がヤクザと関わっていたことに対し怒りが納まらないようだ。

「アイツ! ホンマに…あのアホ!」

その怒り方を見ていると、柿本と大川は親友と呼べるような関係なのかもしれへんな、と俺はふと思った。

「タケシ…どう思う?」

「どう…って? 殺されはせんやろうから、2、3日待ってみたらどうや」

俺はわざと、のんびりとした動きで煙草に火をつけながら言った。しかし柿本の焦りは止まらなかった。

「アホ!! いてもたってもおれんわ、そんなもん!! 人数集めて行くか!?」

「はぁ〜? 事務所に殴り込むんか? 漫画やあるまいし、それこそ殺されるわ」

「ほったら、どないしたらエエねん!!」

「落ち着けって」

「落ち着けるか!」

「めんどくさいな、お前…。ん〜…こんなん一番嫌いなんやけどな…柿やん、とりあえず付いてきてくれや」

一吸いしかしてない煙草を弾き捨て、バイクの方へと歩く。

「どこ行くねん!?」

「エエから」

俺は大きくため息を吐きながらバイクにまたがった。


コスモスホールから40分ほどで着いたのは大阪市内某繁華街の裏路地にある小汚い雑居ビルだった。

柿本は不信感丸出しの顔つきだ。

「おいタケシ、なんやねんここ」

「俺の叔父さんがおるとこや」

「お前の叔父さん? 何で? 何のため?」

やっぱり柿本は絶望的なまでに察しが悪い。

「いちいちうるさいねん、柿やん。もう黙ってついてこいや」

柿本は腑に落ちないといった様子でブツクサ言いながらで俺の後についてきた。階段を登る足音が響く。


目的の部屋の前に到着した俺は、躊躇なく呼び鈴を鳴らした。さすがの柿本も不穏な空気を感じたのか、一瞬にして足元が震えだした。

「タケシ、もしかして…」

「うん? そうやで」

ピンポーン、柿本くんスルドイ! 大正解。ここはいわゆるヤクザの事務所ってヤツである。

見るからに悪そうな兄ちゃんがドアを開けた。俺の顔を見るとニカッと笑顔を作る。

「おう、タケシくん。今、オジキ出掛けとるで。どないしたん? 入るか?」

「そうするわ」

「おっ? タケシくんのツレか?」

問われた柿本はしどろもどろになって答えた。

「あっ、ハ…ハイ? すいません」

ヤクザの事務所に通されて、ビビらない高校生はいないだろう。柿本もご多分に漏れず、俺の服をつまむような感じで、不安そうについてきた。


中に入ると、3人ほどのヤクザがソファーに腰を掛けている。20帖ほどの広さだろうか、テレビなどでも見たことのある、ベタな応接室風だ。

「しかし、タケシくん久しぶりやな。ヤクザ嫌いやのに」

ドアを開けてくれた男がソファーに深く背中を預けながら話しかけてきた。

「小さい頃からヤクザばっかり見てたら嫌いになるわ…一馬くんかて別に例外ちゃうで?」

俺が一馬くんと呼んだ男は、ここ、山本組の若頭で、俺は小学生ぐらいの頃からよく遊んでもらっていた。年齢は10歳ほど上で、血は繋がっていないが親戚の兄ちゃんのような存在である。

そして、先ほど一馬くんが外出中だと言った「オジキ」と呼んでいる人物が、俺の叔父で、いわゆるヤクザの組長である。俺が物心ついた頃にはとっくにヤクザ一筋、そんな厄介な身内だった。そんなワケで、ガキの頃から周囲にヤクザがいるのが俺には当たり前の光景だった。

今、横で震えている柿本のような反応こそが普通やねんな…俺はそんなことをぼんやりと思った。


しばし、俺は一馬くんと談笑をしていたが、そんなことをしにわざわざココに来たのではないことを思い出した。

「あーそうそう一馬くん、えーと…コイツは地元のツレで柿本。ちょっとコイツのツレが揉めてて…」

一馬くんはスッと真顔になり、単刀直入に尋ねてきた。

「ココへ来るっちゅうことは相手も俺らと同業種かいな」

「みたいやわ。多分、ハッタリやろうけど。でも、もしその筋やったら…後からもっとややこしくなる思うて、おっちゃんには話だけでも通しとこうかなって…それで来たんやけど、戻ってきそうにないね」

「電話したろか?」

「エエよ、そこまでせんでも…帰ろか、柿やん」

「えっ!? あっ、そ、そうやな」

無駄足になってしまうが仕方がない。血縁者にヤクザがいる時の強みを活かそうかと思ったが、責任者がいないのでは細かい話をしてもしょうがない。振り出しにもどってしまうが、何か他の方法を…と考えを巡らせていると、一馬くんが俺の顔を覗き込んだ。

「まぁまぁ、折角来たんやからそのオモロそうな話、俺でよかったら聞かせてや」

俺は思い出した。一馬くんは厄介ごとが大好きなのだ。

「一馬くんイケイケやし、ややこしくしそうでなんか嫌やな〜」と笑いながら俺は答えた。一馬くんはわざと威張るように胸をそらす。

「コラコラ。これでもこの組では頼りになる兄貴的存在なんやぞ。オイ、浩二、下でなんか飲み物でも買うてきたってくれや。タケシくん何がエエ?」

コレや。俺から何か聞き出したいときは、一馬くんは先手を打って飲み物だのメシだのを奢ってくれるのだ。そして、その戦法に俺がまんまと乗っかる、という流れまでが俺と一馬くんとのお約束でもある。

「奢ってくれんの? 太っ腹〜♪俺はコーヒーとからあげくんレッド」

「現金なやっちゃな〜。で、君はなんや?」

「ぼ、僕はコーヒーだけでエエです」

急に振られた柿本だったが、ちゃっかりコーヒーは要求する。その感じに、俺は少し笑ってしまった。浩二と呼ばれた大柄のイカツい男は、「ほな行ってきま〜す」と、口笛を吹きながら買い出しへ出掛けた。

一馬くんは箱から煙草を一本抜くと、火も着けずに指で挟んだまま、煙草をヒョコヒョコと揺らす。

「で、早よ話してや」

退屈をつぶしてくれるんやろうな、という期待に満ちた表情は、まるでガキみたいだった。





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アツいぜ
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