【第1部】第3話
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  3. 【第1部】第3話


「お前が無理矢理、誘うから負けたやんけ。いっつもそうや。なんや言うたらお前だけエエ思いしてるやんけ」

俺からの連絡が遅かったことで、俺だけが勝ったことを悟ったのだろう。要は負けたことに拗ねてんのか。そんなところやろうな、とは予想していたものの、そこは売り言葉に買い言葉。しかも気まずい沈黙の後だ。たとえどんな…それこそ何らかの正論を言われていたとしても、俺も喧嘩腰で返していただろう。

「はぁ〜? いっつも奢ったってるやんけ」

「いらんし」

今にも手が出そうな雰囲気のなか、くっさんだけは、「ヤメとけやお前ら」と呆れた様子で一蹴する。


飯を食い終え、会計の時に、不機嫌そうにヒロが千円札を投げつけ、さっさと先に店を出て行った。その瞬間、キレてしまった俺はヒロを追い掛け、「なんやねんお前その態度コラ」と襟首を掴む。ヒロも条件反射で俺の首を掴んできた。

「ヤンのかコラ!!」

もうあとは野となれ山となれ。中華屋の前で本気の殴り合いに発展した。くっさんも一応は止めるがもう止まらない。中華屋のオッサンが警察に電話をし、気付けば警官2名に抑えつけられていた。

ツレ同士の喧嘩と聞き、アホらしくなったのであろう警官は「ほら、握手しろやお前ら」と仲直りを促してきた。俺はそれを無視し、一人でバイクにまたがり轟音と共に去った。バイクで帰路につく間も「ムカつく…ムカつく…!」と怒りは全く収まらなかった。家に帰るのもバカらしくなった俺は、そのまま知り合いの女の家へ泊りに行くことにした。


次の日、俺はいつもの如く学校へは行かず、くっさんの家にいた。

「タケシ、昨日はすまんかったな」

「なんでくっさんが謝るねん」

「いや、ヒロと二人で勝手にスネてもうて」

「エエよ別に」

そんな会話を交わしていると、くっさんの部屋のドアが突然開いた。顔を出したのはヒロだ。俺の顔を見た瞬間、ヒロが吐き捨てる。

「チェッ、帰ろ」

部屋を開けてすぐに踵を返し玄関に向かうヒロに、くっさんは、「オイッ!!」と怒声を上げた。だが、ヒロはその言葉を完全に無視し、靴を履いて出ていくようだ。くっさんは力ずくで引き止めようと思ったのだろう、立ち上がるやいなや自室を出て玄関に走る。

俺はヒロに聞こえるような大声でくっさんに対して「ほっとけ!!」と怒鳴った。その瞬間、これでヒロとは切れたなと、苛立ちのなかに混在する切ない何かを感じ取った。部屋に戻ってきたくっさんも、不機嫌そうな表情で無言になってしまった。

気まずい空気に耐え切れなくなった俺は「帰るわ」と、くっさんの部屋を出た。行くあてなんてない。学校へ行く気なんてこれっぽっちもない。バイクにまたがり、とにかく適当に流した。


しばらくして到着した先は昨日のホールだ。昨日、俺がツレたちを初めてのパチスロに誘った店。乱闘騒ぎを起こしたものの新台にありつけ、結果として俺だけが快勝することになった店。ヒロとの喧嘩を経て、女の家に行き…と数時間程度の出来事のハズが、やけに昔のことのように感じた。

新装2日目なので12時開店。初日とは違い、パチスロは全台モーニングでもない。数台、仕込まれている台はあるのだが、昨日のこともあり、パチスロを打つ気にはなれなかった。1時間ほど並び、俺はパチンコを打つことにした。

なんとなく人の流れに身を任せ、辿り着いた先は一発台のシマ。目の前には、その存在は知っていたが打ったことのない「スーパーコンビ」がある。隣に座っている見ず知らずのオッサンが勝手に打ち方やゲーム性を教えてくれたが、俺はほとんど気のない返事で聞き流していた。そして、見よう見真似で銀玉を弾く。

すると、数百円で一発の玉がクルーンへ飛び込んだ。オッサンは大興奮している。「兄ちゃん、手前の穴に落ちたら12500円や」と、鼻息荒く俺の台を凝視している。この店は5千発定量なのだった。

定量制は、1度大当たりを引けば、事実上は永遠に出玉が出てくる仕組みのパチンコ台に対し、店側が一定量の出玉で打ち止めとするラインを設定する制度である。店によっては一万発や8千発定量にしているところもあった。

クルーンで揺らめく銀玉は、手前の大当たり穴にストンと落ちた。あとはスーパービンゴのBGMでもある、静かな湖畔を聞きながら右打ちをするだけだ。だが、そんな呑気なメロディが俺の耳には空しく響いた――。


数日後。

「ワンワンワン!!」

玄関先から聴こえる飼い犬(名前・クマ)の鳴き声で目が覚める。時計に目をやると8時30分だ。

昨晩はツレと朝まで遊んでいたので、実質、2時間ほどしか寝ていない。とりあえず起き抜けにタバコを吸い、頭をくしゃくしゃ掻きむしりながら玄関へ向かう。

「クマ、どうした…んっ? 誰かおんのか?」

俺は咄嗟に警察の気配を感じ、扉を開けようとしていた手を止めた。息を殺し、鍵穴からそーっと覗いてみる。誰もいない。昨晩、国道1号線沿にあるコンビニの駐車場で、ちょっとしたイザコザがあった(要は喧嘩だ)ので、少し敏感になっていたようだ。

張り詰めた空気は消え去り、玄関先でクマと少しジャレてから台所へ向かった。案の定、テーブルの上には質素ではあるが、オカンの手料理がラップにかけられ並べられている。俺の家は共働きで、常に家には親がいない状況だった。1週間近く顔を合わせないこともザラにある。それでも、俺が家にいる時には、オカンがきっちりとメシを作り置きをしてくれていた。手を合わせ、ありがたく頂く。

陽射しもほとんど入らぬ静まりかえった台所で、一人食後の一服をしていると…、ドンドンドンドン!! 凄まじい勢いで玄関の扉を叩く音が響いた。クマも吠え続けている。さっきの気配は間違っていなかった。警察だ。俺はその場から微動だにせず、ひたすらヤツらが帰ることを祈った。


数秒後、扉を叩く音は止んだ。1分…2分…経ったが、ここで安心して扉を開けると「ハイどーも」とばかりに待ち構えられている可能性もある。俺はひたすらに息を殺した……。

さすがに諦めたか、と確信できるほどの時間が経過した。だが、次またいつ警察が来るかもしれない家にいても落ち着くワケがない。かといって、ヒロとの喧嘩以降、行く回数の減ったくっさんの家を襲撃する気分でもなかった。


俺は仕方なく学校へ顔を出すことにした。電車で30分、最寄り駅から歩いて20分。とにかく遠い。そして。学校に到着すると、

「オッ、タケシ久しぶりやん」

「どないしたんや今日は」

「タケシあの店、来週新装やで」

入学して以降、行くべき日数の3分の1ほどしか登校していなかったものの、知らぬ間に仲良くなったアホ面たちがわいのわいのやってくる。


しばらくの間、アホな会話を繰り広げた後に、俺はトイレへ向かおうと廊下へ出た。すると、隣の教室、機械科の三池が近付いてきた。俺は電気科だったので、三池とは顔見知りという程度。何やら神妙な面持ちだ。

「タケシ、今日、学校終わったら付き合ってくれへんか?」

「何やねん」

「T工業のヤツらと今朝、揉めてな。ちょっとやり合うことになってん。で、今、派手なヤツに声掛け回ってんねや」

「お前まだそんな中坊みたいなことやってんのか? エエわ、俺」

「頼むわ。5人ほどしか集まってないねん」





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アツいぜ
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