爆発物事案
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※2016年9月18日公開分です。


今回は、機種などの質問ではないのだが…


【力丸さんの質問】
以前爆弾騒ぎの話をしていましたが、今度はその詳細をお聞かせ下さい。


【回答】
随分前に話の概要だけ書いたのだが、これについての詳細を書いて欲しいという意見を継続的に頂いているので、今回とうとう重い腰を上げてみようと思う。

あれは地下鉄サリン事件(1995)という凶悪なテロ事件が起こったすぐ後のことである…。



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平日の19時頃。事務所で雑務に追われていた俺の携帯が静かに着信を知らせている。電話に出てみると、相手はホールで仕事をしているはずの主任だった。

「用事があるなら直接言いに来れば良いのにわざわざなんだよ…」と呑気に構えていると、主任の言葉が脳に到達した瞬間に判断力の限界を超えたのか、一気に混乱が生じた。

「え? ば、えっ!? 爆弾?」

「そうなんですよ。爆弾を投げ込まれたらしいんです」

俺は一つ大きく息を吐き、主任の言葉を整理しようとした。主任が言うには、ショップから電話がかかってきて、ショップというのはいわゆる『金ショップ』とか『交換所』と言われるところだが、そこに爆弾が投げ込まれたというのだ。

ここはひとまず冷静な対処が必要だ。無闇に対象物に近づくのは最良の策ではない。爆発物でないにしても、危険物である可能性は否定できない。そう告げようとしたところ、朗らかな主任の声が軽妙にスピーカーから響いてきた。

「どうせガセだと思うので、今からそれを爆弾かどうか見て来ますね!」

「待て待て! おいっ!」

どうやら俺の言葉は届かなかったようだ。電話からはプープープーという耳障りで無機質な機械音が短く繰り返されている。

「チッ…あのバカ野郎!」

俺は慌てて2階の事務所から顔を出し、今まさにショップに向かおうとしている主任を見つけた。

「おーい!」

最初の言葉は彼に届かなかったため、続けざまに必死に大声で叫び続けた。

「主任!! ショップには近付くな! 今すぐ戻ってこい!」

主任がキョロキョロあたりを見回し、ようやく俺に気付き、そして足が止まった。

もし本物の爆弾だったら命にかかわることだ。そもそもサリン事件の記憶が色濃く残っている時期である。それに影響された模倣犯的なものかもしれないし、本物のテロの可能性だってゼロではないだろう。


俺は急いでホールの入り口に移動し、ショップの店員と主任を呼んで話を聞くことにした。

「どうしたの? 何があったの?」

年配のショップ店員は声を震わせながら話し始めた。

「なんか…中年の男の人が来て、いきなり『爆弾を仕掛けたからな!』って大声で怒鳴りながら窓口に何か押し込んできて…。私、それ聞いてもう慌てちゃって。中がちょっと見えたんだけど、何か筒っぽいものに時計と配線みたいのが付いているし…。それで、慌てて店を飛び出して主任さんに相談したの」

突然のことでよっぽどびっくりされたのだろう、その女性は話し終えてホッとしたからか、ペタンと道路にへたりこんでしまった。

俺は店舗と通りを挟んで向こう側にあるショップを見ながら、女性店員に「鍵はかけたの?」と尋ねてみると、どうやらオートロックになっているため鍵は自動的にかかるということだった。それならばあとはあそこに人を近づけないことだな…。


俺はショップ店員を落ち着かせようと優しく告げた。

「とりあえず、何かあったらまずいから、安全が確保できるまでショップには戻らない方が良いよ。それと、ホールのカウンタースタッフにも言っておくけど、もし店から景品を持ってショップに向かう人がいたら、今は交換できないと言ってくれないかな? 時間が読めないからできれば後日の交換をお願いしますと」

女性は二度ほど頷くと、気分が落ち着いたのか立ち上がってすぐに対応を始めた。

次に主任に指示を出す。

「いいか、お前も絶対にショップには近付くなよ。それから店の正面入り口は封鎖して、お客様の出入りは裏口に限定するようにしてくれ」

主任はその言葉を聞くとすぐに店内へ向かった。

俺も次の行動に移らなければならない。まず所轄へ連絡し、心を落ち着かせ、ショップ店員から聞いたことをそのまま話した。すると担当官から「なるべくその場から離れて待機していて欲しい」とのことだった。やはりサリン事件の影響か、警察の対応にも緊張がこもっていた。


数分後には1台のパトカーが到着。早いな〜と思っていると、1台また1台と次々にパトカーが集まって来る。けたたましいサイレンと赤灯の妖しい明滅で、辺りの緊張感は否応なく高まっていった。

そして警察車輌はさらに増え続け、30分程経過した頃にはパトカーは数十台という規模に膨れ上がっており、ドラマや映画で見る刑事モノのようなシーンが展開されていく。野次馬の数も増えていき、辺りは異様な雰囲気に包まれている。


しばらくすると、背広を来た男がこちらへ向かってくるのが見える。俺の目の前まで来ると仁王立ちし、カッと睨みを利かせて話しかけてきた。見た目は警察官かヤクザか…というか、いかにも『堅気ではない』目つきと風貌である。俺すらも一瞬たじろいでしまったほどだ。

「ここの責任者はあんたか? それで…」

そういうと、今度は俺の隣にいたショップ店員の女性を睨み付ける。

「このショップの責任者はあんただね?」

男の俺でもひるむのだから、この女性は相当に委縮したに違いない。被害者なのに気の毒なことである。すると…

「状況を説明しろっ!」

誇張ではなく、こう言い放ったのだ。本庁のお偉いさんかなんかか知らないが…何という態度だろう? とはいえ、今はこの状況の解消が最優先だ。俺は気持ちを落ち着け、彼女が一通り状況を説明するのを横で聞いていた。


彼女の話が終わると、スーツの男は「分かった」という一言だけ残し、道路の真ん中へと走って行ってしまった。するとそこへ数人のスーツ姿の男たちが駆け寄って行く。

その様子は、ちょっとばかり古いが『踊る大走査線』を見ているようだった。
(つづく)


アツいぜ
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