四帖半 第1戦(前半)
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俺は激怒した。

ことの発端は、編集部の帰り道にモンキーターンで8万負けて人生の不条理さからくる偏頭痛を我慢しながら出社したその時に編集長が放った一言だった。

「あ、キミ、神7に選ばれたから。」

イワイ編集長が敏腕なのは当然知っていたが、まさか秋元氏とツーカーとは知らなんだので驚愕した。

一介の、しかも末端の、ヒゲ面のマンガ編集者をAKBのメディア担当にねじ込むとは。

はは~ん、もしや狂ったか。
日々の激務と自由すぎる部下たち、そして思うようにコトが運ばない戦国コレクション(モバゲー)。

これら諸々のストレスが強靭な精神力と天下取りの手相を持つイワイ編集長の心を蝕んで妄想が現実の境界線を侵食したのだな。そうに違いない。

ここは相手を刺激するとマズい。適当にやり過ごすのが最も適切な手段だぜ? と脳内会議にて決定した俺は「あは。わかりました」と答えた。

その適当すぎる返事が引き起こしたのは、俺がAKBに新メンバーとして加入することではなく、劣悪な条件の実戦企画に巻き込まれるという結果だった。

そんで。
よくよく話を聞いてみると神7の実戦人として選ばれているのは超速!!必勝本に在籍するしゃっくだという。

しゃっくという男は経済観念が完全に破壊しつくされた一種のサイコ野郎を主人格とし、他に23の人格を持った多重人格者なのだからやっていられない。

大体において周囲の人間の憐憫を糧に生きながらえる様は見るに堪えないものがあるし、それはかつての自分を見ているようで気分が悪い。

ここはひとつ理路整然と企画の不当性を主張し、何とか自分に火の粉が降りかからぬようにするべきだと考えた俺は「あの~やっぱヤメたいんですけど、なんか嫌な予感しかしないし…」と編集長に持ちかけた。ら。そしたら。

「ほほう。逃げるのか。」だと。

そして
「このチキン野郎。」だと。

俺は激怒した。

この、勇気と慈愛に満ち満ちた、黄金に輝く魂が見えないのかと。

「四帖半」というなかなかに昭和な、貧しい響きを持つ忌み名を与えられてなお、笑って済ませるほどの度量を持った俺でも聞き捨てならない言葉が「チキン野郎」であるからして即座に俺は返答した。「ああ、やってやんよ! やってやるともさ!」

やると決まったからには勝ちに行く。
日程をズラしたノリ打ちで実戦をしろという命令に従い、俺は雌伏の時間をイメトレに充てた。

GODの引き方。
赤7の引き方。
EGの伸ばし方。
店員のドル箱別積み要請に対するスマートな対応。
GG確定画面で食事休憩を取らぬようにするなどの周囲に対する細やかな心遣いの再確認。

人は言うかもしれない。そこまで自分に厳しくしなくても、と。

だがそうではない。
神を討ちに行こうなどという大それた計画には準備し過ぎるということはないのである。

ただし、設定差などの解析数値やモード示唆演出などが掲載された記事には一切目を通さないという男らしさも、もちろん俺は忘れない。

とにかく、そういった修練に明け暮れていたある日、先行して実戦を行ったしゃっくが編集部に帰って来るなり、こう言った。

「四帖半さん、僕勝ちました!」

そうか、でかした!
お前みたいにカワイイ後輩初めて見たよ。これで少しは俺の重すぎるプレッシャーも薄らごうというもの。聞けば29000円ほど勝ったという。

つまり俺が最悪10万負けの憂き目にあっても1人35500円負けになるワケだなと、算盤3級の実力をいかんなく発揮し計算していると、しゃっくは見たこともない禍々しい顔つきで「絶対に勝ってくださいねぇ」とくぐもった声を出したので、俺は少し恐怖した。

じっとコチラを窺うように見ている。もしかして人格が交代したのかもしれない。

「そりゃもちろん頑張るよ」

俺は自分の声が震えるのを自覚しながら言った。

すると目の前のしゃっくの顔をした何者かが続けて「あ~あ、先輩なら先輩らしく『勝った金は自分のにしなよ』とか言ってくれるのかと思ったんですけどねぇ」などと言う。

さらに「どーせなら出ノリにしてくれてもいいですよぉ?」なんて言いやがる。

「いやでも、ほら、ノリってのがルールだから」と俺が正論を口にすると「そんなの、どうとでもなるじゃないですか。あっわかった怖いんだ。1人で10万負けるのが怖いんだ。このチキン野郎」

俺は激怒した。

「よーし、わかった。出ノリにしてやるよこの野郎」

その言葉を聞いた郡山(俺が付けたしゃっくの中の別人格の名前。金に汚い謀略家。)は「えっ! マジですか! 先輩カッコうぃ~~」と邪悪な笑みで顔をほころばせるのだった。

帰宅した俺は、万枚出してお前の目の前に札束積んだるわ! と自室のベッドで枕に顔をうずめて叫んだ。

そしておもむろに過去のパチスロ7と必勝本のミリゴの記事を猛勉強し、怒りに身を震わせながら翌日の実戦に備え眠りについたのだった。

続く