- TOP
- 大阪ストラグル第3部
【第3部】第21話
俺は家から電車で40分、最寄駅に降りてから20分も歩くS工業に通っていたのだが、今思い出しても面倒くさい通学路だった。
片町線(現…JR東西線・学研都市線)に揺られながらぼーっと座っていると、駅に停まるたびにヤンキー風の学生が増えていく。時代なのか、地域性なのかは知る由もないが、本当にヤンキーが多い地域だった。
かくいう俺もリーゼントパーマに短ラン、ボンタンと派手目な格好をしていたが、17歳にもなると次第に大人しくなっていった。何するわけでもなく、毎日、ぼーっと生き、時間だけが過ぎていく。
しかし、そのなかでも刺激になっていたのはバイク、バンド、パチスロ、パチンコだった。
「タケシ、今日、コスモスが新装なんやて?」
「そうやで」
「行くんか?」
「当たり前やろ」
「なんでまたそんな日に珍しく学校なんか行こうとしてんねん」
「あぁ、坂井にビデオを返してくれって言われててな、ずっと忘れてたし、朝も暇やったからビデオだけ返したろかなと思うて」
「なにそれ? エロいの?」
「ちゃうちゃう。バンドのやつや」
「誰なん?」
「お前に言うても知らんやろ」
「知ってるかもしらんやろ!」
「長渕と尾崎しか聞かんねんから知ってるわけないやろ、アホ」
「なんやねん? 気になるやろ、言うてくれや」
「ストリートスライダーズや」
「知らんな」
「だから言うても意味ないねん。なんやねんお前、朝からダルいな」
「駅着いたでタケシ。どないする」
「どないするって、俺は坂井にビデオ返すからとりあえず行くで」
「んー、ほな俺も行くかな…。このまま折り返して帰りたい気もするけど」
「まぁ、せっかくここまで来たんやから、たまには顔出しとこうや」
「そやな」
「まぁ、1限目から行ってもしゃーないし、うどんでも食ってこか、久しぶりに」
「エエやんけヒロ。行こや」
最寄駅の改札を出た目の前に立ち食いうどん屋があり、俺はここが好きで学校へ行くときは、かなりの確率で啜りに行っていた。
「おっちゃーん、うどん2つちょうだい」
「あいよー。なんや久しぶりやな、お前ら」
「うどん食いたくなってわざわざ来たわ」
「嘘つけ。ほらよ。かき揚げつけといたるわ」
「いっつもくれるやん」
「当たり前に思うなよ? お前らだけやぞ」
「ホンマかいな。ありがとありがと」
うどんを3分ほどで食べ、外に出る。
「ごっそさーん」
「タケシ、飯食うたら眠たーなってきたわ。俺、そこのベンチで寝とくから、行ってこいよ。今、ココから歩く気せーへんわ」
「帰れや、ほな」
「嫌や。なんかお前、1人で新装行きそうやし」
「どういうことやねん。お前も行ったらエエやんけ」
「ちゃうねん。バイクが昨日から調子悪くてな、直さなアカンねんけどやってへんねん。だから、タケシに乗っけてってもらおう思うて」
「ほな家おれよ。迎えに行ったるし」
「とりあえず今は1ミリも動きたくないから、寝とくわ」
「好きにしたらエエけど。ほなな」
俺はヒロを置いてのんびりダラダラとS工業へ向かった。目的は学校へ行く…ではなく、坂井にビデオを返すだけだ。
ガラガラガラ~
「おはよう」
1時限目の授業中に俺はダルい感じで教室に入っていく。
「久しぶりやなー」
「生きてたかー」
「眠そうやんけ」
色々な声が飛び交うなか、俺はすべてを無視して席にドカンと座った。先生も特に何も言わない。そういう学校だった。
そして、5分ほどで1時限目は終わり、俺は席を立った。
「坂井、コレ」
「おー、忘れてたわ」
「ほな俺は」
「嘘やろタケシ」
「いや、もうヤメようと思うてるし、おってもしゃーないからな。とりあえずダルいし帰るわ。ビデオが気になってたから持ってきただけやねん」
「なんか悪いな」
「あー、そうそう。今日、ウチの地元で新装あるで」
「なに入るん?」
「店のヤツに聞いたら一発台とは言うてたわ。一発台の新装は絶対に取りこぼしたくないからな」
「うわー、どうしよかな。俺、夕方から地元で女と遊ぶ約束してんねんな…」
「まぁ、俺はどっちでも構わんけど、来るなら連絡してや」
「悩むなー。うーん、とりあえず昼過ぎまでには考えとくわ」
「分かった。ほなまた」
タバコをふかしながらのんびりと駅へ戻ると、ベンチで寝ているヒロを発見。
「アイツ、ホンマに帰らんと寝てるやん…。オイ、オイ、ヒロ」
「んっ? おー、めっちゃ早かったな」
「お前、ホンマに寝てるやん」
「寝る言うたやろ。で、どないする今から」
「とりあえず地元戻ってバイク取りに行くわ。ほんで、くっさんのとこでも行こか、新装まで」
「そやな」
40分かけて地元へ戻り、適当に着替えてバイクに跨る。後ろにはヒロも乗っている。バイクで10分ほど飛ばし、地元のツレでもあり、溜まり場と化していた、くっさんの家へ到着。くっさんは定時制の学校に通っていたので、昼間はいつも家でウダウダやっている。当然、この日も家にいた。
俺らは家の目の前にバイクを停め、勝手に玄関からくっさんの部屋に入って行く。
「寝てるやん」
「いつもやろ」
俺らは部屋の主が寝ているのをよそに、そこらへんにあるお菓子を食べたり、漫画を読んだり、ギターを弾いたりしながら適当に…いや、好き放題に過ごしていた。
「はぁ…。お前らホンマ勝手にいつもいつも」
「おー、おはようくっさん」
「おはようちゃうわ。お前ら学校ヤメたんか?」
「もうそろそろその予定や」
「あー、眠た。ヒロ、そこのタバコ取ってくれや」
「ほれ。そうや、くっさん。鉄拳チンミの27巻どこにあるん? ずっと探してるんやけどあらへんねん」
「知らん。お前しかおらんねん、チンミ読むの」
「この間、全部揃ってたんやけどな、おかしいな」
「くっさん、お前は定時制どないするねん。1年でいきなりダブってまだ1年生やろ。このまま卒業しても5年やぞ、20歳になるまで通うんか?」
「ダブったんはお前らのせいやないか。いっつも家に来ては、夕方になったら学校休め休め言うて。俺も乗せられて休んでたらこの有様や」
「それはお前の意思の問題やろ?」
「そらそうやけど、学校か…どうなんやろな。ヤメても何するわけでもないしな、就職決まったらヤメんちゃうかな。分からん、なんも考えてない」
「てか、昼間働かんのか?」
「探してる。知り合いとか先輩とかにはなんかないか聞いてもろててな。でも、旋盤工場が決まりそうやねん」
「物作るん好きやな、ホンマに」
「エエやんけ。お前らこそどないすんねん」
「俺は今日、新装行くで」
「はぁ? 呑気やなホンマ」
「バイトはたまにしてるやんけ。打つ金いるし、ガソリン代も馬鹿ならんし」
「タケシ、お前はホンマその日暮らしが似合うな」
「くっさんも行くけ?」
「行くか。エエわ」
「そうか。とりあえず18時開店やから、16時近くまでおるわ」
「おまえが決めんなや。俺が出掛ける用事があったらどないすんねん」
「行ったらエエがな。鍵はポスト下の植木鉢のとこに置いとくし」
「いや、お前の家みたいに当たり前な顔すな」
「くっさん、27巻あったわ」
「黙れヒロ」
俺らは、多感期を無駄にダラダラと過ごす毎日だった。今思えばあの無駄な時間も今に活かされているかもしれない…いや、ないか(笑)。