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- 大阪ストラグル第3部
【第3部】第18話
いい~とも~♪ いい~とも~♪
「おい、何してんねん」
「びっくりした!! 勝手に入ってくんなや、ヒロ!! 泥棒かと思ったやんけ!!」
「お前、今日も学校サボって、何してんか思うたら昼間っからテレビ観て」
「こんなん付けてるだけや。やることもないし金もないしな」
「ちょっとタカラに打ちに行かへんか?」
「アホ、金ない言うたやろ。バイクのオイル交換してプラグも変えたりしたからホンマに金欠やねんって。田中のオヤジのとこ、現場入れてや言うてるけど今は暇らしくてな」
「貸したるから」
「なんやねん、珍しい。あのケチで有名なヒロがどないしてん? そない打ちに行きたいんやったら1人で行って来いや」
「打ちに行きたいとかそういうことちゃうんやって。察しが悪いな、お前も。攻略法や」
「攻略法? なんの?」
「リノや。見つけたんや」
「ホンマかいな。どういうことやねん」
「昨日の夕方、暇やから1人で初めて入る京橋のホールに行ったんや。そしたら隣のチンピラみたいなやつがめっちゃ変な打ち方しとって、すぐBIG引きよんねん。すぐヤメて帰って行ったけど」
「おう、そんでそんで」
俺は今までリノに対して怪しんでいた部分もあったことから、ヒロの口から出てくる話に夢中になっていた。
「落ち着け、落ち着け。エエかタケシ。BIGを直撃で狙える方法を俺は完全にコピーしてん」
「それは分かったから、はよ手順教えろって」
「お前、めっちゃ興奮してるやん。鼻息うるさいねん」
「あほ、落ち着いて聞けるか、はよ!!」
「適当にコイン入れるやろ、4枚以上や。クレジットに枚数表示される状態にして、精算ボタンを押しながらレバーを叩いてボタン止めるねん。そしたら7狙えば揃うから」
「なんやそれ、そんな簡単な方法でできるんかいな?」
「攻略法なんか今までも単純やったやろ? それを試すか試さんかの違いや」
「ヒロ、お前なんか成長したな」
「1日でするかアホ!! で、どないすんねん、行くのか行かんのか?」
「行く!!」
「はやっ!!」
「いや、だってお前、聞いてる感じやとコイン4枚あったら攻略法できるやんけ。だからお前の横で俺が4枚もらって試したらエエんちゃうんか?」
「タケシ、お前めっちゃ頭エエな。そういうことに関してだけ」
「やかましいわっ!!」
「ほったら俺のバイク出すから行こや」
「よっしゃ!!」
俺らは鼻息荒くバイクに跨り、タカラホールへとハンドルを切った。
当時の俺は若さゆえ、その場の勢いだけで行動していた。しかし、世間を知らないというのは1番怖いもので、今まで攻略法を試して何度もホールから摘み出された経験があるのに、バレなければこっちのものだと懲りずにいた。
試したい好奇心とスリル、そして何より簡単に手に入るかもしれないコインのことしか頭になかったのである。
俺の家から10分ほど走り、いつものタカラホールへ到着した。ヒロはバイクを駐輪場に停め、俺は無言でバイクのタンデムシートから飛び降りる。
特に交わす言葉もなく、「よし、やるか」という決意みたいなものをお互いの目から読み取り、少し足速にホールの入口へ向かった。
重めの扉をグンと開けると、木の床から放つ甘酸っぱい匂いが鼻に突き刺さる。タバコの灰とワックスが入り混じった独特な異臭だ。だが俺にはこの異臭が妙に落ち着いた。
パチスロのシマはホールの片隅にあるだけで、比率でいうとパチンコ9、パチスロ1といったところだ。
そしてリノが12台。もう片方のシマには2.2号機のスーバニがあり、お客さんはパラパラと5、6人が打っているが、その中に顔見知りは1人もいない。ここの常連は夕方からふらりと来ることが多いので、昼間はいつもこんな感じだった。
俺とヒロはとりあえず、2台並びで空いているリノに腰を下ろした。
ヒロがシマの端にあるコイン貸し機で50枚のコインを借りてくる。俺はその50枚の中から適当にコインを鷲掴みにし、早速、ヒロから聞いた手順を試してみる。
コインを10枚ほど投入、精算ボタンを押しながら1回転させ、全リールを停止させる。そして次のプレイで7を狙う。
が…揃わない。何度か試してはみたが揃わない。
「ヒロ!! お前なんか間違えてんちゃうか?」
「いや、京橋のホールではできたんやって」
「ホンマかお前、たまたまちゃうんけ?」
「いや、あれ、おかしいな」
2人でアレやコレやと試していると50枚のコインはあっという間になくなり、一旦、外へ出ることに。
クシャクシャになったショッポ(ショートホープ)をジーンズのポケットから取り出し、100円ライターで火をつけ、思いっきり煙を吸い込む。季節も夏休み前ということもあり、日差しはキツい。
「ヒロ、なんか間違えてないか? 忘れてるとかないんか?」
「それがホンマに分からへんねん俺も。いや、昨日はホンマにアレでできたんやけどな。今から京橋まで行くのどうや?」
「めんどいやろ。電車で行っても40分、バイクで飛ばしても1時間ぐらいかかるんやぞ。別にリノやったらどこでもエエやろ。手順を間違えてんやと思うけどな、俺は」
「間違えてないはずなんやけどな。てか、店員もなんかめっちゃチラチラ見にきよるから今日はヤメとくか」
「リノはこの辺やったらタカラしかないんやから、やろうぜ。ヒロ、頼むから思い出せ、昨日の成功したときの感じを」
「んー。あっ、精算ボタンを押しながら全リールを止めたとき、なんかコインが1枚払い出された気がするな。そのときは次のゲームで7を狙えば必ず揃ってた!! ような気がする…」
「なんやねん、お前それめっちゃ大事やん!! 多分、タイミングとか変えるんちゃうか。で、成功したときはコインが1枚ペロっと払い出されるみたいな」
「なんかそんな気もしてきたわ」
「とりあえずコーヒーでも飲んで落ち着こや。ヒロ」
「お前、俺のコイン使うてるんやから、コーヒーぐらい奢ってくれや!!」
「ええか。俺が今からポケットに手を突っ込む。そして全財産を曝け出すからよく見とけ。ほれ」
「10、20、100…130円しかないやん、タケシ!!」
「そうや、これが今の俺の全財産や。だからコーヒー買ったらショッポ買われへんくなるねん。1箱110円分は死んでも残しとかなアカン!! 分かるか、この気持ち!!」
「何を熱弁してんねん、分かった分かった。とりあえず100円だけ奢ったるから。まぁ、お前にはようさん奢ってもろてるからたまには、な」
「せやろ? 助け合いや!! それでこそ友やんけ」
「あれ? ヒロ、お前は飲まんの?」
「いや、別に俺はいらん」
「お前、めっちゃ優しいな今日!! 絶対に俺が攻略法を成功させたるからな!! 任せとけ!!」
「俺の金やけどな!!」
俺らは攻略法ができず、少し焦りもあったが、一旦、外へ出て談笑したことにより、気持ちがかなり落ち着いた。
冷静なままホールへ再度戻り、なんとなく違うリノの空き台へ腰を下ろした。
俺の横には見たことないヤツが打っていたが、特に気にすることなくヒロとまた再チャレンジしてみることに。
が、やはり何度やっても成功しない。2000円がなくなりかけたそのとき…
「オニイサン、コンニチワ、チョットソトデテ」
隣で打っていた中国人っぽい兄ちゃんに突然声をかけられた。予想だにしない片言に俺は正直、驚いた。
「は? なんやねん。なんで外に出なアカンねん」
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、スコシダケネ」
執拗に外へ出てくれと言ってくる。何が目的かこのときはさっぱり分からなかったし、絡まれているのかと思い、俺は強気に断っていた。
しかし、手を合わせながら、ゴメンナサイ、オネガイ、と本当にしつこく言ってくる。
「なんやねん、お前。訳分からんねん」
と、少し強く言い返すと、その向こうでリノを打っていた仲間であろう男、そして背中のシマで打っていたスーバニにいた1人の男も俺たちを囲むようにスッと寄ってきた。
ヤバい!!
そのとき、俺の中の危険察知能力が瞬時に最大限まで針が振り切れたのが分かった。ヒロも同様だ。これがチンピラやヤンキーなら「なんじゃコラ!!」とやり合えるのだが、相手は何を考えているか分からない中国人グループ。
怖さよりも死を覚悟する緊張感が一瞬で張り巡らされた。戦うとかそういう生易しいものではなく、いかにこの場から逃げ切るか、俺の頭の中で答えは1つしかなかった。