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- 大阪ストラグル第3部
【第3部】第16話
「タケシ、タケシってオイ!! お前、聞いてんのか?」
「あー、え? なにが?」
「なにがって!! 俺の地元が明日、新装初日やから一緒にどうや、って話や」
「新装!? 行く行く!!」
「なんやお前、えらい元気ないやないか。朝から珍しく学校に来たと思えばボッーとしてからに」
「いやいや、千代の富士、今場所は調子悪いなと思って」
「嘘つけ!! お前の大好きな近鉄は我らの先輩、野茂の活躍でオモロい試合ばっかりや言うて、この間までご機嫌やったやんけ。ははーん、さては女やな」
「は? ちゃうわアホ!!」
「おっ、分かりやすっ。女でもできたんか? この間の俺が連れてきたあの子とよろしくやってんか?」
「よろしくっちゅうか、一緒にパチスロ打って焼肉奢ってもろただけやけどな」
「奢ってもろたって? カーッ、たまらんな色男」
「あの子、ビギナーズなんちゃらか知らんけど、えらい出してな。ご祝儀みたいなもんや」
「おい、坂井!!」
「うるさいのが来たで」
「なんやねん、ヒロ。デカい声出すなや」
「お前、この間の子と連絡つかんくなったんやけど、知らんか?」
「知らんわ、そんなん!! お前、彼女おるねんから大概にしとけって」
「と、友達になりたいだけやんけ!!」
「なんやねん、友達って…」
「ヒロ、明日は坂井の地元の店が新装なんやて。行くか?」
「行かへん。明日はデートや」
「あっそ。一応、誘ったからな。あとからお前らだけ勝ちやがって、はナシやぞ」
「奢ってくれたら言わん」
「なんでやねん!!」
次の日。
新装初日は変わらず18時オープン。俺は暇を持て余していたので、少し早めに坂井の地元に向かって、坂井のオカンが経営している古びた喫茶店でアイスコーヒーを飲んでいた。
「今日は1人なんか? あの子どうしたん?」
「いや、知らんねん。待ち合わせは15時とかやから」
「そう。アンタえらい早くに来て。まだお昼やで」
「家におっても暇やし、弁天町とかあんまり知らんからブラブラしようかと思うて」
「なんもあれへんけどな。まぁ、ゆっくりしていき」
相変わらず美人なオカンやけど、口調がどうしてもオバハン丸出し。それも相まって俺は坂井のオカンと話をするのが楽しかった。
コーヒー1杯と適当な会話を堪能した俺は、待ち合わせの時間まで2時間ほどあるので街をぶらつくことにした。
「ご馳走さーん。おばちゃん、また来るわー」
「はいはいー」
カランコロンカラン♪
店を出て駅前の周辺を1人でぶらついていると、一軒のホールを見つける。悩むまでもなく、そのまま店内へ入り込んでパチスロのシマへ一直線で向かう。
すると、そこには「アラジン」と「ビッグパルサー」が8台ずつ並んでいた。
アラジンは昔5000枚ほど出してからあまり打っておらず、逆にビッグパルサーは少し前にモーニング漁りで毎日打ちまくっていたが、久しぶりに打ちたかった。
どっちを打とうか迷ったが、俺は山佐の2.2号機「ビッグパルサー」を打つことにした。

当時はまだコントロール方式(スベリでボーナスを察知)ばかりだったが、山佐は1号機のパルサーシリーズからテーブル方式(リーチ目でボーナスを察知)を採用していたので、リーチ目好きの俺にはどストレートに好みの台だった。
とはいえ、モーニング狙いでしか打ち込んでいないので、こうしてヒラ打ちをするのは、ほぼ初めてだったりもする。
とりあえず、シマの端っこに1台だけあるコイン貸機に1000円を入れ、カップに入ったコイン50枚を持って適当な台に腰を下ろした。
1人で淡々と9つの絵柄を一打一打、眺めながらのんびり回していると…
「おっ、今、中リールのBARがスベったよな? いや、完全にスベったぞこれ!!」
左リール上・下段にBAR絵柄が停止。俗に言う、ダブルBARだ。そこから中リール中段にBARがズルリとスベってテンパイした。
当時はこのパターンをBIG2確と記憶していたが、今となってはどうだったかうろ覚えだ。
「右リールにBARを…」
ズルり。
「おーっ!! 枠下までBARが!! 美しすぎる!!」
難なくBIGを揃えて上機嫌になる。
ちなみに、この店のルールはBIGが2連チャンしたら交換しなければならないのだが、店員の匙加減1つなようで適当な感じだった。
とりあえず続行していると、数ゲーム後…
「アカン…こんな目までも拝めるのか、今日は」
左リール下段7、中リール上段7、右リール下段7の大山型が停止したのだが、この目が美しいのではない。よく見るとオレンジ絵柄が大V字に形成されてるのだ。
「オレンジのV字はいつみても素敵目やなー」
そして、BIGが2連チャンしたあと店員がリセットしに鍵穴をクルっとしたところで、
「お兄ちゃん交換な」
と、告げられてしまう。いや、そんなに早い当たりでもなかったような気もするが、まぁしゃーないな、と俺はカウンターでコインを流し文鎮(特殊景品)をもらった。
とりあえず、換金しに行くのも面倒なので、最近導入されたばかりの羽根モノ台「道路工事1」を打つことにした。

この台は、現場のオジさん役物がドリルのようなモノでガタガタガタと躍動する、とてもキューティーな台だ。俺は少し前の新装で地元に入ったので1度だけ打ったことがあった。
「なんか釘は悪くなさそうやな。あとは役モノのクセと傾き次第やけど、とりあえず打ってみるか」
100円玉を小箱の左側に積み、チビチビと100円玉を入れながら打つこと数百円。上部にあるチャンスゾーン経由ではなく、羽根が拾った玉がそのままVへ入賞した。イレギュラーな当たりを引き当てたのだ。
この当たりはパンクすることなく、なんとか完走。俺は持ち玉で坂井との待ち合わせ時間までひたすら粘り倒すことにした。
減っては当たりを繰り返して、小箱いっぱいに玉を増やしたところで時間がきてしまう。まぁ、換金したところで3000円もないぐらいだが、十分に楽しめた。
俺はビッグパルサーのコイン分と道路工事1の玉を換金し、1万円ほど勝ったお金をポケットへぶち込み、坂井の待つホールへ向かった。
と、その時、ポケベルから見覚えのある番号が着信する。
「これ、カオリちゃんか。どうしよ、電話かけてる時間もないし、とりあえずあとでエエか」
俺は特段用もないだろうと勝手に解釈し、公衆電話には立ち寄らなかったのだが…。
(C)YAMASA