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- 大阪ストラグル第3部
【第3部】第15話
俺はひょんなことからカオリちゃんとパチスロを打つことになり、カオリちゃんの地元である寝屋川の萱島駅までやってきた。
ビギナーズラックなのか、強運の持ち主なのか、3号機リノで連チャンを射止めたカオリちゃん。勝ったお金で焼肉をご馳走してもらうことになったが、俺はこのまま揉め事もなく、この街で無事に過ごせるのだろうか。
「カオリちゃん、焼肉屋ってどこなん?」
「この商店街を抜けたところにあるんよー。ちょうどこの時間は席も空いてるんちゃうかな」
「人気の店なん?」
「地元の人らに愛されてる感じかなー。おじいちゃんとおばあちゃんの2人でやってんねんけどね」
「へぇー、なんかエエやん。ん? アレちゃうん? あの赤い提灯の?」
「そうそう。あそこ」
カオリちゃんは我が家の如く暖簾をくぐり、店内へ入っていく。
「おばちゃーん、2人ね」
「はいはいー、そこ座りー」
店内に入るとテーブルが4つあり、先客は1組。俺らは入ってすぐ右側のテーブルへ腰を下ろした。
「なんか家族みたいやなー」
「だって、ウチが小さい時から来てるからね。ホンマのおじいちゃんとおばあちゃんの感覚やわ、ココは」
「へー」
「タケシくん、なんか嫌いなもんある?」
「ないない。なんでも食うで」
「ホンマ? ほったら適当に頼むね」
カオリちゃんは慣れた様子で、バラとハラミ、てっちゃんを2人前ずつ注文した。
俺はカオリちゃんと他愛のない会話をしながら焼肉に箸を伸ばし、口いっぱいに頬張る。
「めっちゃ美味いやん、バラもハラミも。ご飯おかわりしてエエ?」
「食べ食べ。ウチ、めっちゃ勝ったし♪」
カオリちゃんの言葉に甘えて、腹一杯食べた。
「いやー、めっちゃ旨かったわー。ご馳走さん、カオリちゃん」
「今度は奢ってもらうからエエねん。美味しかったやろ?」
「満点よ。マジ旨かったわ。今度、地元のツレも連れてきたろ」
「よかったー」
「まぁー、これもカオリちゃんがリノで連チャンさせてくれたお陰やな」
「任せといてー♪」
「あれ、そこ曲がったところにもホールあるやん?」
「あー、萱島ホールな。あそこは古すぎて入ったことないわ」
「ちょっと覗いてイイ?」
「えっー。まぁー、エエけど。打ったら負けるで、こんなとこ」
俺は昭和の雰囲気漂うホールに興味が湧き、店内へ足を踏み入れることにした。
「えっ!! パルサーあるやん!!」
「この古い台は何?」
「これはな、俺がパチスロにハマるキッカケになった台やで。パルサーXXっていう1.5号機やねん」
「何言ってるか分からんけど、そんな感動する台なんや、コレ」
「まさかこんなとこで再会するとは…。カオリちゃん、ごめん、ちょっとだけ打ってもイイ?」
「そうなると思ってたわ。エエよ。ウチはなんか古すぎて打てる気がしーひんから、そこの角にある喫茶店におるな」
「分かった。ちょっと打ったら行くわ」
偶然にも好奇心だけで立ち寄った古ぼけたホールに、パチスロというゲーム性を教えてくれた思い出深い機種があるとは思いもしなかった。
レバーを叩いた時に抽選され、見事当選していれば7が揃う、もしくはリーチ目が停止する、というパチスロの基本的なことを知った機種なのだ。
そしてリーチ目を覚えることにより、以前は適当に眺めていたリールも、1本1本を凝視するようになって、毎回ワクワクしながら打っていた。気がつけばパチスロにどっぷりとハマっていたのは言うまでもない。
1年以上ぶりの再会となったパルサーXXだったが、リーチ目は信じられないほど俺の脳裏にこびりついていた。
カウンター横にあるコイン貸し機で500円をコイン25枚に換えて、パルサーXXのシマへと戻る。
余談だが、当時はまだ100円からコインが借りられた時代だった。
適当な台に腰を下ろし、レバーを叩く。左リールと中リールにBAR付きの7を狙うと、上段にBARがテンパイ、中段に7がテンパイした。
2確ではない目なのだが、なんとなく右リールにBARを狙ってみると1コマスベって、中段にBARが停止した。
「ちょ!! えっ? BIG目やん!? なに? 入ってたのか?」
俺より前に打っていた人がリーチ目に気付かずにヤメていったのだろう。当時は、さほど珍しいことでもなかった。
7を揃えると、ジリリリリ~♪と15枚の払い出し音が鳴り響く。ファンファーレなどはなく、コインの払い出し音だけがホールに響き渡る。
その時、隣の台に年配のおばさんが腰を下ろし、雑な手つきで淡々と打ち始めた。俺は時折、横目でチラリとおばさんの台の出目を確認する。
リーチ目が出たら教えてあげよう、なんなら揃えてあげようとさえ思いながら、チラチラと見ていると、おばさんはタン、タン、タン、とゆっくりではあるが、7を揃えた。
(え? いま見てたけど、さっきの目はハズレ目やったやろ? あれリーチ目なんか?)
俺はリーチ目だけは覚えている自信があった。しかし、7を揃える1G前の出目は明らかにハズレ目だったのだ。いや待て、もしかして俺の知らないマニアックな出目だったのかもしれない。
上には上がいるもんだな、と俺は自信満々で打っていた自分が少し恥ずかしくなった。こんな普通のおばさんが俺よりもリーチ目に詳しいことに、動揺を隠しきれずにいた。それから自分の台よりも、おばさんの台が気になって仕方がなかった。
すると、おばさんはまた、タン、タン、タン、ジリリリリ~♪と7を揃える。
いや待ってくれ。さっきの目がリーチ目なハズがない。それでもおばさんの打ち方を見ていれば偶然ではなく、間違いなくボーナスを確信し、7を揃えに行っているのだ。
隣のおばさんは、もしかしてこの界隈で有名なパチプロなのかもしれない、と俺はドキドキしていた。リーチ目のことを知りたい、俺の知らない何か法則性があるのかもしれない。そう思うと、居ても立っても居られず、思いきって声をかけることにした。
「おばちゃん、リーチ目にめっちゃ詳しいな」
「え? なに?」
「いや、リーチ目」
「知らん、そんなん」
「えっ? いや、ほら、7を狙って揃えてるから。俺の知らんリーチ目とか知ってるんかなって」
「は? こんなん、ココを見てたらエエねん」
少し呆れた様子で頭上にあるパトランプを指差す。
「ん?」
「これが回れば当たりやから簡単やろ。アンタ、パチスロ初めてか?」
「いや、え? えっー!!」
そう。なんとこのホールのパルサーXXは完全告知マシンと化していたのだ。
パトランプといえば、まだアラジンのパニック(集中)でしか使われていなかったので、まさかこんな使い方があるとは知らなかった。
せっかくのリーチ目マシンも、これでは風情も何もあったもんじゃない、と呆れて席を立った。
「あっ!! カオリちゃん待たしてるの忘れてた!! ヤバっ!!」
俺は急いでコインを換金し、カオリちゃんが待っている喫茶店へ駆け込んだ。
「ごめん!! 当たってもうてて…」
「1000円も打たん言うてたのに、めっちゃ待ったやんか」
カオリちゃんは少し機嫌が悪くなっている様子だったので、俺はとにかく必死で謝った。
「嘘やんかー。怒ってへんし、もっと待つと思うてたわ」
そう言うと、満面の笑みでカオリちゃんは笑い飛ばした。
「ちょ、めっちゃ焦ったやんか。焼肉までご馳走になってる身としては…」
「でも、あと30分しても来ーへんかったら帰ろうとは思ってたよー」
「あぶな…」
俺は今までこのパターンで何度かフラれた経験があるだけに、本気で反省していたのだが、カオリちゃんの寛大さに益々、引き込まれていくことになる。