- TOP
- 大阪ストラグル第3部
【第3部】第14話
9月だというのにまだまだ夏本番のような暑さの中、俺は開店を待ちながらコーラで喉を潤し、カオリちゃんはガリガリ君を口いっぱいに頬張っている。
「食べる?」
「いや、エエわ」
「なんで、食べりーよ」
「あっ、んじゃ一口」
「アイス嫌いなん?」
「嫌いちゃうよ、好きやで」
「何が好きなん?」
「いや、特にないかな」
「なんなんそれー。ウチはガリガリ君好き」
「そやろな(笑)」
なんともくだらない会話だけど、不思議とカオリちゃんのペースが心地よかった。
開店。
どんな台が設置されているのかも分からなかったが、俺とカオリちゃんはとりあえずパチスロコーナーのある右端のシマへ向かった。
そこに設置されていたのは…。
「リノか!! 後ろにはスーバニもあるやん」
「どっちがイイの?」
「コッチは連チャン系、そんでコッチはまったり系、どっち打つ? 俺はまったり系が…」
「連チャンする方!!」
「えっ、マジか!?」
「マジマジ。だって連チャンしいひんかったら楽しくないやろ?」
「そりゃそうやけど、なかなか怖い台やからな。うーん」
「まぁーエエやん、今日は。連チャンする方はリノっていうの? 教えて」
「よっしゃ、分かった!! 一丁やったろ!!」
俺はリノ自体、新装の時から好きだった。
補足すると、リノはノーマルタイプも存在するが、攻略法の餌食になってしまい、裏モノとして新生した一風変わった経歴を持つ台である。
そして一般的に流通していたのが、裏モノの方の小役落ちver.だ。
ゲーム性を簡単に説明をすると、BIG終了後から5Gの間に小役を揃えることができれば、ほぼBIGが連チャンするという仕様。とにかくこの5Gにすべてが詰まっているゲーム性なのだ。
さっき打ち始めた先客がすぐにBIGを引いたのを見て、この店はリセットしているんだなと確信した。オールリセットな訳がないから、ここは慎重に立ち回らないとイケない。俄然、ヤル気が出た。
先述した5G間を1枚掛けで消化することにより、チャンスゾーンを3倍の15Gに引き伸ばす攻略法があった。ホールによっては張り付かれることもあるが、雰囲気からしてこのホールは大丈夫そうだったので、試してみることにした。
ちなみに1枚掛けで打ったとしても小役確率はそこまで悪くはなかったので、かなり使える攻略法だった。
「カオリちゃん、1枚掛けで15G回すんやけど、中リールでコインを取りこぼすねん。だからちゃんと狙わないと、BIGが逃げていくからしっかり狙うんやで。ハサミ打ちでな」
「ちょっと何言ってるか分からんけど、とりあえず1枚掛けでコインを狙ってみる。あっ、コインなんかウチ見えへんわ…」
「ハサミ打ちでコインがテンパイしたら俺が押すから大丈夫」
「あっ、レモン揃った」
「うおっ! マジか!!」
「次ゲームで7を狙ってみ?」
「リセモ(※)かかってたらBIGが揃う」
※リセットモーニングの略
「えっ、ホンマに? うわっ!! ホンマや!! 7が揃った!!」
「やるなー」
なんとカオリちゃんは、いとも簡単に小役を引き当てBIGに繋げたのだ。もしや全リセか、と俺は空き台を片っ端から回したが、小役が引けずに不発。
結果的に全リセは確認できなかったが、状況としてはかなり美味しい店だということは分かった。が、しかし、4号機以前の台はBIG終了後、店員さんを呼んで鍵を1度回してリセットしてもらわないと、続けて遊戯できない仕様だった。
カオリちゃんもBIG終了後に店員を呼んでリセットを掛けてもらったが、なんとその後、店員が後ろに張り付いている。朝はサービスで目を瞑るが、さすがにそこは許されないようだ。俺は速攻でカオリちゃんの横に移動した。
「カオリちゃん、1枚掛けしたらアカンで。3枚掛けで回して」
「えっ、なんで?」
「アカンねん。ほら、後ろに店員おるやろ? 今、1枚掛けで打ったら速攻で首根っこ掴まれるから、3枚掛けにして」
「なんかよう分からんけど、分かった」
「えっ、またレモン揃ったけど」
「いや、凄いな…」
カオリちゃんはその後もBIGを連チャンさせていき、瞬く間に2000枚ほどのコインを獲得する。俺はその間、スーバニを打ちながらカオリちゃんを見守っていたが、なんとも末恐ろしいヒキを見せつけられていた。
しばらくすると、カオリちゃんが俺のところへやってきた。
「5G過ぎたんやけど、どうしたらイイ?」
「ヤメよか。そのまま打ってもエエけど、今出たコインが平気でなくなってまうし、もう十分やろ」
「うん。もう飽きたし、ヤメる」
「飽きたって!! そんな連チャンしといてよう言うわ」
「タケシ君はどうするん?」
「俺はチャラぐらいやけど、いつヤメてもエエよ。でも、もうヤメたいならヤメよか」
「うん」
俺とカオリちゃんは小1時間ほど打ってホールをあとにした。
「カオリちゃん、そこまでパチスロ好きとちゃうやろ?」
「うん。前は土星のやつを何回か打ったことあるねん。でも、7は狙えるからなんか楽しいなって。今日連チャンしてて、嬉しい気持ちにはなるけど、楽しいって感じはなかったかなー」
「それぐらいでイイよ。あんなんハマってもエエことないしな」
「なんでタケシ君はパチスロ好きなん?」
「なんでやろ…なんか俺の唯一の場所というか、活き活きできるんよね、ホールに入ると。それだけかな」
「ふーん。でも今日はウチの勝ちやな」
「完敗よ、完敗」
「どうする? めっちゃ勝てたし、お昼でも奢るよ」
「おっ、それは有り難いなー。どっかこの辺、美味い店あるん?」
「定食屋とか美味しいとこあるけど、なんか大勝ちしたしな。焼肉行こ!!」
「昼から!! エエやん、行こう!!」
俺はカオリちゃんの快勝祝いがてら焼肉をご馳走になることになった。
ホールを出て、あまり土地勘のない俺はカオリちゃんについて行くような形で駅前を歩いていると、開店前にもいた地元のヤツらが前から歩いてくる。
「タケシ君、相手にしたらアカンよ」
「喧嘩、売られへんかったらな」
と話をしているとヤツらが近寄ってきた。
「おっ、また会うたな」
「そりゃ地元やねんから会うやろ。またね」
「どこ行くん?」
「エエやんか、ほっといて」
「おい、そこのお前、あんまりこの辺で調子乗んなよ」
「調子乗るってなんやねん」
「はっ?」
「歩いてるだけやんけ」
「タケシ君、アカンって。なぁー、アンタらどっかいきーや。めんどいな」
「はいはい。ほな色男、またどこかでー」
「……」
「はぁー、戻ってアイツらシバいてこよかな」
「アカンってば。ほっときって。アイツらこの辺でイキってるグループやからややこしくなるし。とりあえず焼肉奢るから、ねっ」
「そやな。あんなんにイライラしててもしょうもないわな。行こか」
俺はグッと堪えた。カオリちゃんが何よりも心配しているというか、揉め事が好きじゃないのか、本気で困っているようだったので我慢することにしたが、次また喧嘩を売られたらさすがに我慢できない。
そこまで大人ではないし、まだまだ血気盛んな10代ゆえ、ナメられたまんま引き退る訳にはいかなかった。一刻も早くカオリちゃんの地元を離れたかったが、とりあえず焼肉には勝てないので、まだ少しこの場にいることとなる。