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- 大阪ストラグル第3部
【第3部】第7話
弁天町の駅を降り、昨日と同じ道を早足で歩いてホールへと向かう。センチュリー21のシマへ真っすぐに歩き、目ぼしい台を選んで着席。坂井も俺の隣の台を陣取った。打ち始めながら、坂井がニヤニヤして俺に話しかける。
「タケシ、もうエエやろ~カリカリすんなや」
一瞬、呆気に取られたが、すぐに気づいた。坂井は、俺がまだカッキンに対してイラついてる、というボケを繰り出してきたのだ。
「カリカリしてへんわ! チッ! ほんまアイツ…!!」と一応、俺もノッておく。もちろんとっくにカッキンへのイラつきなど消えている。坂井はコントにノッた俺の様子を見て、楽しそうに「まぁまぁ! スカッとするために出そうや」と笑いながら言った。
「ほんまや。クソ出しして焼肉でも行こうや」
センチュリー21、昨日出会ってすっかり魅了されたこの台を打って、勝って、美味い焼肉を食う――完璧なプランや。
「おっ、7テンや!」
坂井が興奮気味に、俺の肩を叩いた。ちらっと坂井の台の左リールを覗いてみる。
「坂井、左リール上段7はプラム付きちゃうかったら弱いんやで。それリンゴやからなー。中リールがスベってたらアツいわ」
坂井は、「はぁ?」と言葉に出さずに顔で作ってから、直後に「お前、俺より詳しくなってるやないか! 昨日1回打っただけやろ?」と爆笑していた。
「パルサーXXに比べたら簡単や、この台。ま、単純やからこそ気に入ったってのもあるけどな」
「あぁ~ハズれや」
坂井は肩を落とす。その時、俺の台が右上がりに7がテンパった。
「おっ! 右上がり7テン! 坂井、お先に~」
俺はBIGを揃えた。ファンファーレが鳴り、筐体上部のランプもピカピカと祝福してくれている。俺と坂井は出したりノマれたりを繰り返しながらセンチュリー21を堪能。タイミングよく、2人ともまとまった出玉を得た時点でどちらともなくボチボチやめるか、という流れになった。
コインを流してみると、2人合わせて1万ちょいほど勝っていた。焼肉を食うには十分だ。「ウハウハやな」と坂井が嬉しそうに俺に身体をぶつけてくる。換金所の方に向かおうとホールの出口を目指し歩き始めた時だった。
「コラァ!」「殺すぞ!!」という物騒極まりない声が聞こえてきた。どうやら、換金所のある駐車場の奥の方で揉めごとが起きているようだ。「何や何や?」と、俺が怒声の聞こえる方へと進もうとすると、呆れたような表情で坂井が止めた。
「ほっとこ、タケシ……って何でお前ワクワク顔やねん!」
「え? いや、気になるやん。見に行こうや」
「お前はホンマ…」
そんなことを言いながら、2人ともズンズンと現場へと進んでいく。視界の先に騒いでいる男たちが見えた。総勢で3人いるようだ。
ん?
近づいてみると、全員知っている顔だった。というのも、1人はカッキン、そして2人は昨日カッキンに絡んできたヤンキー2人組だったのだ。
何してんねん。というシンプルな言葉が頭に浮かび、そのまま口にした。
「何してんねん、お前ら」
ピタッと動きが止まり、ヤンキー2人組のうちの1人、ニキビくんが振り向いた。
「何やねん、アンタには関係ないやろ」
ニキビ君はハァハァと息を切らしている。どうやら、昨日会った俺だと気づいていないようだった。
全員の様子をサッと見まわすと、誰も怪我をしている様子はない。おそらく揉み合ったレベル、小競り合いレベルだったのだろう。カッキンは胸ぐらを掴まれたのか、服が少し乱れていた。カッキンは息を整え、一瞬俺の方を見た。だが、すぐに目を逸らして坂井の方に頭を下げる。
「あっ…坂井くん…。こんちわ…」
その言葉を聞いて、ニキビ君の脇腹をもう一人のヤンキーくんがつついた。小声で「おい、坂井さんて…」などと言い、その後2人とも遠慮がちに「ちわっす……」と坂井に頭を下げた。坂井は鷹揚に手をあげて、カッキン、ヤンキー2人組たちに対し、「おう」と応えた。
「おう。ちゃんねん! 何やソレ! 大物感出すなや!」
思わず全力で突っ込む俺。
「……で? 続きやるんか、喧嘩。やるんやったら正々堂々やれや。理由なんか知らんけどタイマンやれ。見といたる」
坂井は俺を無視して、2人組に詰め寄った。2人組は互いに顔を見合わせた。明らかに意気消沈している。さきほどの様子も併せて考えるに、坂井は地元では一定以上の恐怖感を持たれる存在なのだろう。
「も…もうイイです……」
そう言って、2人組はスゴスゴと帰って行った。
「さて、あ~腹へったな。移動しよか、タケシ」
「そやな、ほな焼肉行こか」
カッキンは黙ったまま立ちすくんでいる。足元には長い影が伸びていた。
「おいカッキン、焼肉屋行くぞ。お前も来い」
俺と坂井は駐車場の出口の方に歩き始めた。後ろの方から小さく「…うん」という声、そして追いかけてくる足音が聞こえた。