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- 大阪ストラグル第1部
【第1部】第15話
ヒロとなら玉砕だろうが何だろうが、どうにかなるような気がした。ヒロのFXにまたがりながら俺は言った。
「ヒロ、ほな乗れよ」
「乗れよってお前、それ俺のバイクや」
「久しぶりにお前のFX乗りたくなったんや」
「お前、めっちゃ飛ばすからケツ乗るの嫌やねんけど」
「はよー!!」
「わかったわかった」
病院ということもあり、場所を離れるまで静かに走らせた。病院を出て5分ぐらいしたところにある自販機で急にバイクを停めた。
ヒロは不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。
「なんか飲むんか?」
「いらんいらん。ちゃうやん。金子の家なんか知らんやんけ俺ら。どないしたもんか思ってな」
「ホンマやな」
勢いだけでバイクを走らせるも、感情を高ぶらせすぎた2人は肝心のことをスッカリ忘れていた。
「あっ!! 和美さん知ってるわ!! 地元同じや言うてたわ!!」
「あのセフレ姉ちゃんか」
「シバくぞお前!! そんなんちゃうわ!!」
「じゃー、ヤッてないんか? ん?」
ヒロはニヤニヤしながら俺のわき腹をつつく。
「筆下ろししてもろたんちゃうですか?」
「アホちゃうかお前」
「やっぱり年上やし上手いんか?」
「黙れ」
「教えてくれてもエエやんけ、ケチ」
「そんなアホなことは今どうでもエエねん」
「へいへい。ほったら、さっさとあの姉ちゃんのとこ行って金子の居場所聞こうや」
そう、そうすれば話は早い。
「んー、そうしたいんやけどな…」
「なんやねん生理中でイラついてんのか」
「黙れって」
「なんやねん、喧嘩中か?」
「ちゃうんや。金子とは絶対に関わるな、って念を押されてるんや」
俺は和美さんの懇願するかのような視線を思い出していた。
「なるほどな、困ったの~。金子の地元に乗り込んで悪そうなん捕まえて聞くか?」
「原始的やな~発想が……でもそれは俺も今思ってたとこや」
「ほな決定~」
こうして基本的な計画が立案された。金子の地元で暴れる。金子がお出ましする。金子を潰す。完璧や。
地元からバイクを走らせて30分が過ぎた頃、バイクの後ろに乗っていた俺はヒロにこう叫んだ。
「おい! そこのコンビニ入ってくれ」
俺の目の前にあるヒロのメットが小さく頷く。1号線沿いのコンビニでバイクを停めた。
ヘルメットを脱ぎ、サイドミラーを覗き込みながら乱れたヘアースタイルを手で必死に戻すヒロ。
「なんやタケシ、このまま突っ込むんちゃうんか?」
「お前はアホか?」
「なんやねん」
「金子の居場所も家も分からんねんぞ。とりあえずもうこの辺から八幡や。闇雲にバイク走らせてもガソリンと時間の無駄やろ」
「だからよ、作戦通りにその辺の悪そうなヤツに聞いて行こ」
「俺もそうやって考えてたんやけど、今日は平日やろ、プータローぐらいちゃうか、この時間おんのは」
「ちょうどエエやんけ。どうせ金子もその類いやろ」
俺らはコンビニの前でしばし待った。
「おい、タケシ。主婦とおっさんしか来ーへんのか? このコンビニ」
「ホンマやで!! なんやねんここ。イライラしてきたわ。場所変えようか」
「駅前の方に行こか」
「そうや!! なんでこんな国道沿いで待ってたんや、俺ら」
「お前が言うたんやないか!!」
「そうか、悪い悪い。ほな駅前に移動や。次は運転交代しよか?」
「いや、エエわ。タケシは飛ばすから」
「似たようなもんやんけ。あ~、メットだるいわ。あっつ~」
「あ~、もう帰ってクーラーの下で寝たいわホンマ」
文句を言いながらもバイクを走らせ、駅前の方へハンドルをきった。
「この辺でエエか」
小さなロータリーの脇にあるコンビニ前にバイクを停めた。すぐに1人のヤンキーがコンビニへ入っていった。派手なツンツン頭が目立つ。
「アレ…いこか」
俺はコンビニから出てきたツンツン頭に声をかけた。
「なぁ~なぁ~、そうそう、自分自分」
ツンツン頭はゆっくりとコチラを振り返った。
「なんや…?」
「ちょっと聞きたいことあるんやけど、金子って知ってる?」
「金子、あ~知ってるよ。それがどないしてん」
ダルそうな雰囲気でツンツン頭が答えた。突然、俺の横にいたヒロが大声を張り上げた。
「なんやお前! こっちは優しく聞いとんねん、喧嘩売ってんねやったらやったんぞコラ!!」
ツンツンも途端に険しい表情でヒロに食ってかかる。
「あ!? なんやねんお前コラ」
俺はツンツンの両肩をがしっと掴んでから、トーンダウンさせるように話した。
「自分もええから、とりあえず金子の居場所教えてくれへんか」
俺の手を振り払おうとしながら答えるツンツン。
「居場所? 知るか。あんなヤツと関わり合いたくもないからな。金子建設に行ってみろや。あそこは確か金子の身内がやってるとこやし」
「金子建設?」
「ほな、俺は行くぞ」
そう言い残し、八幡での第1ヤンキー・ツンツン頭は去っていった。俺はヒロのほうを振り返りながら言った。
「おいヒロ、喧嘩の売り方が雑やねん。まずはある程度話聞いてから…」
「どついた方が手っ取り早いやんけ。アイツの顔、なんかムカつくし」
「はっは! なんやねんそれ!! まぁエエわ。とりあえず運転変われ。次は俺や」
「事故んなよ!!」
「お前の100倍は俺の方がうまいから心配すんな」
俺はエンジンをかけ、発進させようとした。すると、ヒロが俺の体に後ろからガッチリと抱きつく。
「オイ!! キモいって!! 暑いねん!! 離れろやヒロ!!」
「お前マジで飛ばすから後ろに乗るんが怖いねん!! 行け早よ!! 覚悟はできてる」
「キモいわホンマ…。ほな行くぞ」
ヒロはキモかったが、俺は"フリ"通りにいきなりアクセルを全開にした。轟音が八幡の街に響き渡る。