クジラッキーのあと
  1. TOP
  2. 打チ人知ラズ。(わし)
  3. クジラッキーのあと


マイホールで特定の台を連日追っていると、そのシマに集う常連たちもほとんど同じメンツとなるため、阿吽の呼吸で座る台が棲み分けられていく。もし彼らがパチプロであるならば、他とは違う何かがあるからその台を追っているのだろうし、一般プレイヤーであれば、「昨日勝ったから今日も出るかも!?」とか、「この台は相性が良いから」など、個人的な感情や思い入れのもとにそこへ行き着くのだろう。

ある時期、「まわるんぱちんこ大海3」を追っていた。しかしわしは単なる場末のパチンコ打ちだから、朝イチから参戦して特定の台を立て続けにキープするようなマネはしない。それこそ、このシマの住人達がそれぞれの縄張りを確保した後でのんびりと陣取るわけだから、基本的にトラブルとは無縁である。

ちなみに、最近の自分のスタイルはのんびりしたもので、仮にあっさりと1万円負けて終わるにしても、その段階で正午を迎えていればそれでいいと思っている。あとは適当に昼食用の弁当を買って帰れることができれば、とりあえず仕事をしたことにはなるし、昼飯にでかけたと思えば徒労感も減じられるというものだ。


ある日、いつものようにユルめの感覚で大海3のシマにやって来たのだが、少々困ってしまった。

わしの台選びの基準は、もちろん釘が前提としてあるが、そこに加え、「終日打つと思われる人物の隣は避けたい」というものがある。何せ展開次第ではわしも丸一日打つことになるのだから、終日隣り合うのが分かり切った状況へ自らを落とし込むというのは、どうも上手くない。ましてやガラガラのホールなのだから、そのあたりの気持ちは分かってもらえるのではないだろうか。

しかしこの日、遅出のわしのおメガネに叶った台は大海3のシマの住人である「菊枝さん」(仮名)の隣の台しかなかった。わしも生活がかかっているため、隣が空いてるからといって勝つ見込みのない台にまで座るわけにはいかない。選択肢のない状況であれば"相席"も仕方ないのだ。


お互い顔見知りであるため、わしは礼儀として軽く会釈をしてから打ち始めた。ちなみにこちらの菊枝さん、この辺りにお住まいのようだが、おそらく団塊世代より少し上くらいのご婦人(もちろん推測)である。そして、タバコ嫌いなのか、基本的にホール内ではマスク姿である。

しばらくの間、台の玉の流れに注意して打っていると、先程から折に触れて「あら、やだ!」とか「なんなの?」とか「もうダメかしら…」など、マスク越しに菊枝さんの独り言のような声が絶え間なく届けられる。これは台に文句を言っているようでもあり、拡大解釈すれば隣で打っているわしの方を向いているような気もするから、わしに対してボヤいているように聞こえなくもない。

そこで、意味のないタイミングで台のボタンを連打していた菊枝さんに「なにかあったんですか?」と声を掛けてみると、「泡も魚群もでないのよ」と沈んだ声を漏らしていた。見れば菊枝さんのデータランプは煌々と500回転台を示している。

さらに、「一昨日と昨日はこれ(わしの台を指さして)でひどい目に遭ったから、今日はこの台にしてみたんだけど、やっぱりダメだわ」と仰っておられる。この日の台選びは前述したような過程であるから、菊枝さんが追っていた台だとは知らなかった。もし知っていれば菊枝さんに譲ったのだが…。

そう言われてから自分が打っている台のデータを確認してみると、確かにここ2日間は2000回を超える総回転数に対して無残にも一桁台の大当たり回数のみが刻まれている。すなわち、この台を打った菊枝さんは大幅に負け越していることを察するに充分だった。しかし、よく考えたらこの日は菊枝さんの方が先着しているのだから、わしにはどうすることもできない。

そして間が悪いことに、連日、菊枝さんがお布施していたこの台は打ち出し早々から確変を引き、しかもその連チャンが伸びまくるという典型的な勝ちパターンに突入してるのだ。そんな好展開の中、隣でハマる菊枝さんに対して「見て見ぬフリ」を決め込んでいたわけだが、まさかそんな経緯が潜んでいたとは…。


ひと通りの事情が分かったので(とはいえどうもしようもないのだが…)、「なんでこっちに座らなかったの?」と聞いてみた。すると、「だって今日もひどい目に遭ったら嫌じゃない。私はいつもお買い物のついでに打っているだけで時間もそれほどないから…」と切なげである。

そうか、悪いことをしたな…などとわしは思わない。なぜならこの発言の後半部分は明らかにデタラメで、菊枝さんは連日長時間勝負の昭和女であることを知っているからだ。しかしそこはオトナの対応でスルーしておくことにした。一瞬、そう言われてみれば、毎回大きな買い物袋を下げているような気もするな…とも思ったが、それはどうでもいいだろう。


ところで、パチンコを打っていて、玉が出ている者が出ていない者に話すと、時と場合によっては全てが嫌味に聞こえてしまうものである。まさに今がその時で、わしは「ああ、昨日はこれを打っておられたんですか。なんかアッサリ出て申し訳ないですねぇ…」と小さくなって恐縮するしかなかった。

すると菊枝さん、「いやだ、別にいいのよ。私はお買い物のついでだから、あなたはあなたでがんばってくれたらいいのよ」と、どこぞの貴婦人のような余裕を湛えていたため、チキンなわしは胸を撫で下ろした。


それから数時間後、わしは順調に出玉を伸ばしていたが、菊枝さんは500回台で単発、700回台で突確後に即単発、そして現在、600回転台の嫌な展開のまっ只中にいた。この間、菊枝さんは自らの投資額を随時キッチリと教えてくれている。そこに悪気は全くないのだろうが、わしと菊枝さんの出玉差は広がるばかりで、どことなく気まずい雰囲気が漂いつつあった。

そんな重苦しい雰囲気の中、どこかで「クジラッキー」の鳴き声が聞こえてきた。辺りを確認するとその出現に歓喜している様子はなく、よく見れば菊枝さんこそが張本人であったのだ(回転直後にクジラッキーが出た)。これにはわしも嬉しくなり、思わず「良かったですねぇ~! 粘った甲斐がありましたね」と菊枝さんに祝辞を述べていた。

しかし菊枝さんは液晶をじっと見つめたまま無言である。まぁここまでの経緯を考えると単純に喜べないのかもしれない。シカトも仕方ないだろうと思いつつ、菊枝さんの台の液晶を見守っていると…7×8のリーチから颯爽と魚群が流れてきた。

するとここでやっと、「あ~良かった、7で当たるわ」と菊枝さんは7当たりを確信して安堵したようで、わしも当然そのように感じ、同様にほっとしたのである。ほどなくマリンちゃんに導かれて6図柄付近からスローになり、本命の7が止まるタイミングでわしも菊枝さんも大きく頷いた。


だが…。

7は止まらずにマリンちゃんは8図柄を呼び寄せているではないか! 安堵の表情を湛えていた先ほどの表情から一変して、菊枝さんは鬼の形相で「戻る! 戻る!! 戻れぇ~~」とボタンを連打している。わしも「戻るはずです」と推移を見守ったが、8図柄が大当たりラインを超えた時点で"ピキーン"とパールフラッシュが発生して突確出目が表示されてしまう。ここからの2段階もあるので期待したが、結局何も起こらずに突確大当たりが確定してしまった。

わしは『ウソだろっ? 人をぬか喜びさせるだけさせておいてこれはひどすぎるだろっ!?』と感じたが、茫然自失状態に陥っている菊枝さんには言えなかった。そんな言葉は、いまの菊枝さんには何の慰めにもならない。わしは菊枝さんの気持ちを考えると「あれはないよね、こんなの初めて見ました」ということ以上の言葉を絞り出すことができなかった。そもそもプレミアムのクジラッキーが出て突確当たりというのは大当たりには違いないし、出玉はないものの確変は確変なので全く問題はないことなのだ。

菊枝さんはハ~と深い溜息をつき、「ダメな時はこんなもんだよね。さっさとお買い物から帰れば良かったわ」とボヤくのが精一杯のようだった。そしてこの後の展開についてだが…この突確の直後に単発を引いて即終了してしまっている。さすがにここで戦意を喪失したようで、菊枝さんは力なくホールを後にした。

一方でわしは会心の勝利を収めたのだが、今回はなんとなく後味の悪さの残す実戦になってしまった。



追記
だんまりを決め込むゆきりんのことが気になって仕方ない。そこで情報のカオス空間で玉石混淆の玉の方の情報を得ようと励んでいたら、騒動後初となる劇場ライブにて謎の号泣をしたとの情報があった。これは動画で本人と確認できるから玉情報だろう。

断っておくが、わしはゆきりんを責めたいわけではない。さらに大きく羽ばたいてほしいと思っているにすぎないのだ。ただし、だんまりを決め込むのはあまり得策ではない気がする。結局、あの涙はなんだったのだろうか…と、痛くもない腹を探られ、余計なボロが出てしまうかもしれない。ここはスパッと釈明会見でも開いて騒動を消息させてほしいところだ。

時には負けっぷりを良くすることも大切だ。それがオンナを上げる好結果をもたらすだろう。