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- 打チ人知ラズ。(わし)
柏さん
ちょうど一年前、沖海3の甘を打っていた時に「愛しき女性」に出会った。
その人は、勝負所と見据えた際の魚群リーチで「渾身の拍手(かしわで)を打って"台"に祈りを捧げる」のが最大の特徴となっている。そして会心の拍手が決まった時に見せる笑顔には至上のステキさがある。
実はわしもマックス機での勝負リーチでは拍手を打つことがあるため、同じ想いを抱く者として好感度抜群なのだ。というわけで、拍手からのこじつけで、彼女を柏(かしわ)さんと仮称して皆さんに紹介したいと考えている。
余談ながら、"柏"という部分から、わしが大好きな柏木由紀さんを連想しているのでは? と訝る向きもあるやもしれないが、そういうことは断じてない。また、大阪では鶏肉のことを「かしわ」というが、顔がブロイラーに似ているワケでもない。
そんな柏さん、座席に腰を下ろせば両足が浮いてしまうほど小柄で可愛らしいお姉さん(わしから見ればという意味)なのだが、彼女には着席するなり真っ先に執り行なわねばならない儀式がある。
それは「魚群占い」。言うまでもないことだが、彼女にとって容易ならざる覚悟で向き合っているのだから、決して普通の魚群が出たぐらいで満足するはずもない。いや、してはいけないのだ。つまり、お目当ての金魚群が出るまでひたすらセンサーに手をかざし続けるわけだ。その気合たるや凄まじいものである。
わしが柏さんの存在を知ってからしばらくしてのことだが、隣り合って打つ機会に恵まれた。そこで初めて彼女の儀式を目の当たりにしたわけだが、手のかざし方があまりに激しく、「そんなに魚群を出しまくったら肝心な時に逃げちゃいますよ!?」と思わず声を掛けるほどのものであった。
しかし外野の心配など意に介する気色もなく、「10回以内に金の魚群が出たら良い台なのよ」とわしを戒め、センサーにかざしまくる手にさらに勢いが加わってしまった。大事な優秀台判別行為を邪魔されたことの苛立ちがこうさせてしまったのかもしれない。内心、わしは非礼を詫びた次第だ。
しかし柏さん的戦略は、次々に台を渡り歩いて優秀台を見つけていくなんていうヌルいものではない。10回以内に金魚群が出なければ魚群占いを再設定、そして10回以内に金魚群が出るまでひたすらそれを繰り返していく。果たして柏さんは、無理矢理かつ強引に"良い台"にしてからしか打たないのである。嗚呼、何たるタフネス。自分の信念に従い、手の甲をガラスに擦り付ける姿が微笑ましく思えるひと時だった。
このように実戦前からせわしい柏さんだが、自分の台ばかりか周囲の状況把握に余念がないため、実戦中も常にそわそわしていて落ち着きがない。また、小柄なせいもあるのだろうが、チェックの際の身の乗り出し方もパンパではない。それはこっそりなんていうレベルでは当然なく、いっそ椅子から飛び出してしまいそうなほどの勢いだ。左右両隣や斜め後ろの台をチェックしようとすれば、腰が力点になり、浮いている両足が作用点となって座席が少し回転してしまうほどである。パチンコを打っていて、同時に動く両足で人の気配を感じるなんてことは貴重な体験だったのかもしれない。何を言っているのかも思うかもしれないが、これは体験した者にしか分からない感慨があるのだ…。
そんな可愛らしい柏さんに好意を持ったわしは、なんだかんだで事ある度に理由を付けて話し掛けている。とはいえ、ほとんど面識がないのだから、普通に打っているのでは話題はない…はずである。しかし柏さんはしばしばツッコミ所満載の行動をやらかして私に話題を提供してくれるのだ。
面白いところでは、大当たりが遠くなってきたら(軽いハマリを喰らったら)現金残高のあるプリペイドカードをやたら抜き差ししまくる。この行動を不審に思いお伺いを立てみると、「この抜き差しで出てない人へのサービスが始まるのよ」と教えてくれた。なるほど。
(※柏さんの誤解です)
もちろんこれだけでは終わらない。この抜き差しを繰り出しても台が当たってくれない場合、換金差額があるホールにも関わらず持ち玉を一旦流し、同じ台で現金投資を開始するという「二の矢」を繰り出すのだ。
わしはこの二の矢に関し、「どれだけ損な行為をしているか」を説明したことがあった。しかしわしの解説を聞いた柏さんは、理解したようでありつつも、"自分の信念は曲げられない"といった内容の返答をしてくれた。さらに返す刀で、「玉を流すと係員がマイクで出玉の確認をするでしょう? その時、打つ人が変わるから台をリセットしてるのよ」と、気分を一新して現金投資を始めるのだ。
(※無線でホルコンと実際の出玉を確認しているだけでリセットはされません。柏さんの勘違いです)
ただし打っているのが甘海だけに、再投資後500円で引き戻したりすることがある(大抵、やはり確率通りST&時短回数を引いた100回転前後で当たる場合が多い)。わしはある日、そんな時を見計らい、「さすがですねぇ~」と声を掛けた。
わしに視線を向けた柏さんは若干涙ぐんでいるようだったが、「玉で打ってた時はロクに泡も出なかったからずっと不安だったのよ。3連チャンの後にハマってしまうと深いから嫌な予感がしてたのよ。あ~やっぱり玉を流して良かったわ」と、素直に思いの丈を告白してくれるのだった。
(※柏さんなりの解釈です)
ちなみにこの玉を流して再び打つ行為(二の矢)は、柏さんが最も言葉を交わす鈴木その子似の常連客の真骨頂的な十八番でもある。まぁ何と言うか…2人共通の得意技でもあるため、これを繰り出してハマリを脱出した時などは、お互い手を取り合って喜びを分かち合っている。
ひとえに、妙な情報を共有している結果なのだろうが、実に微笑ましい光景で、こんな時が「パチンコは自分なりの楽しみ方で打つのが一番」だと思えてくる瞬間である。
だがそんな思いは伏せつつ、「なんでこのタイミングで現金に切り替えたんですか?」と、遂に核心に触れる問いを投げかけた。
するとそわそわ打っていた柏さんが急に真顔になり、少し考えてから、「そうね、いろいろ研究した成果よ。あなたもやってみなさい。あとで教えてあげるから」と、ハッキリ言い切って再び時短中の液晶画面に視線を戻した。
柏さんの言う研究の成果とは、恐らく「当たりやすい」という意味だと思われるが、「やってみなさい」と言われても困るのだ。ぶっちゃけ、賛同できる要素が何もないから頭を抱えるハメになってしまった。結局、なにも聞かなかった方が良かった気もする…。
ちなみに、以下の2つも研究の成果だと教えてくれた。
・スペシャル魚群タイム前のカウントダウン中に魚群占いをするとキング魚群が出やすくなる
(※真偽不明)
・ST5回転は必ずウリンモードで消化すること
(※意味不明)
とにかく、自分なりの打ち方で楽しみを見出すことは素晴らしい。しかもパチンコの演出を研究対象にする姿勢は素直に賞賛に値するだろう。柏さんもわしがあれこれ質問攻めにしたから、本当は秘密にしておきたかった研究成果を言ってしまったに違いない。罪なことをしてしまった。
そこでわしも、「これは僕なりの研究成果なんですケド」と前置きし、"海モードで連続予告が発生したらチャンス到来"など、敢えて本当のことを言って御礼返しをしていた。そうすることで少しでも柏さんのパチンコに対する誤った認識を正したかったのだ。また、パチ仲間として長く付き合えることに繋がると信じてのことだ。
ところが、柏さんが通っていた期間は、結果的にマイホールが渋くなる一方の時期と見事に一致していた。この間、柏さんは様々な研究成果を試していたようだが、結局は回転率の低い台のクオリティには敵わなかったらしい。ある時を境にパッタリ見かけなくなってしまったのだ。
やはり誰にでも言えることだが、一定以上回る台(負け過ぎない台)を打ち続けることがパチンコを長く打ち続けられる秘訣なのだろう。
さしあたって、もう柏さんに逢えない淋しさも手伝ってマイホールへ足が向かわなくなってしまった。わしの開拓の旅(ホール廻り)は、どこかで甘海を打っているかもしれない柏さんと再会を果たす旅でもあるのだ。