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- 打チ人知ラズ。(わし)
落とし穴
先日、マイホールにしては高回転率の甘海を打った。しかしサッパリ当たりが付いて来ず、複数回に及ぶ持ち玉壊滅と現金投資のおかわりを繰り返し悪戦苦闘。挙句、残り時間から逆算した追加投資の限界を超えてしまい、無念の早上がりを決断するに至る。
そこで翌日、「昨日回した分の確率が収束してくれること」及び、「釘が据え置きであること」を期待し、開店とほぼ同時に入場。難なく狙い台を確保…のはずが、思いもよらず上皿にタバコが置かれていた。
見ず知らずの者の所業ではない。何のことはない、前日に長時間わしの隣で打っていた矩子(もちろんこれは仮名で、わしから見ればお姉さんに属する40代後半の近所の主婦だと思われる)がその持ち主であった。
ほぼ開店と同時に入場したにも関わらず、なぜみすみす狙い台を奪われるという失態を犯したのか? 実は入場口が複数あって、矩子の方が狙い台に近い場所から入場していたのだ。
しかし矩子は朝イチではあまり見かけないから、まさかライバルと化すとは夢にも思っていなかった。もちろん、チンタラ歩いていたわしの緩慢さも責めを負うべきではあるのだが…。いずれにせよ、わしは強烈な結界を張るタバコを呆然と見つめるばかりだ。
矩子は狙い台に戻るなり着ていたジャンパーを背もたれにかけ、本格的に終日勝負に挑もうと意気込んでいる。
もちろんわしがこの程度の入場で十分だと判断したのにも理由がある。甘海のシマに朝イチでやってくるのはわしと矩子、そして、そこがあたかも専用台であるかのように同じ台をキープし続ける女性客、その3人のみだからだ。この日も同じ面子であり、これまで狙い台が被るなどということはついぞなかった。
ちなみに、勝者である矩子とは数年来の顔見知りであるのだが、話をしたことはない。しかし嫌いな存在というわけでもないので、基本的にわしにとっては無害の女性である。
いずれにせよ、どこのホールでも「早い者勝ち」が台取りの大原則なので、ノーマークの矩子に競り負けたわしは黙って引き下がるしかない。敗北者のわしは、日常の和を重視するパチンコ打ちだから、事を荒立てることはせずに他の台を選ぶことにした。まあ当たり前の話ではあるのだが。
…とはいえ、前日の因縁があるため、正直言えばこの競り負けは極めて悔しい。あまりに気持ちの整理がつかないため、矩子がここに至るまでの思考を想像してみることにした。
矩子の真骨頂は『渡り鳥』的な立ち回りにある。普段の立ち回りを観察していると、自分が出ると読んだ台には熟練の素早さで躊躇いもなく移っていくのである。
そんな彼女であるが、わしが昨日打ち込んだ台の大当たりが少なかったということは百も承知だ。なんせ前日は隣合って打っていたのだ。
よって、「昨日は大量に玉を飲んでいるから今日は出る」と確信めいた思いに駆られ朝イチから参戦したに違いない。
…
…
…
うむ。彼女の今朝の台選びの理屈がすっかり納得できてしまった。この状況を目の当たりにすれば、ここに原因を求めるのは我ながらすっきりするのだが、それでもやはり、こうなることを予感するまでの切迫感はわしにはなかった。
とにかく、自身のお眼鏡にかなった台を原則に則ってキープした立ち回りは素直に賞賛に値する。ただし余計だったのは、わしと狙い台が同じであったこと、さらに余計に余計過ぎたのが、その台が前日良く回ったということだ。
そもそも矩子が回転率を全く意識していないのは渡り鳥的な立ち回りからも明らか。たまたま隣合った時に観察していても、『出ると読んでいる』からだろうが、回らない台を打ち続けるのも厭わないのである。
まぁ色々と書いたが、簡単に言うと、『この日唯一の高回転率台のアテを失って悔しい』ということなのだが、いつまでも呆然と立ち尽くしていても仕方ない。ひとまずホール全体を見廻ってみることしした。
約5分後、収穫なしで甘海のシマに舞い戻ってみると、矩子はすでに大当たりを引き当てている。流石は渡り鳥の彗眼…と敬服したのと同時に、矩子が早々に台を離れるというかすかな希望が消えてしまった。
わしは観念し、適当に選んだ甘海を打つことにしたのだが、適当に選んだだけのことはあり、この台のうだつの上がらなさに辟易するばかりである。わしは誰からも害鳥扱いされる都会のカラスのような存在かもしれないが、それにしてもこの低回転率…酷いものだ。
一方、丹頂鶴のように人々を魅了してやまない渡り鳥・矩子の大当たりは単発で終わってしまった。そしてその出玉で次に繋げることはできなかったようで早々と再投資に移行している。
いつまでもここにいても展望はなさそうだ。そう思うと、最近お気に入りのギンガムチェック見たさ、そして愛しの柏木由紀さん見たさでバラの儀式へ移動したい衝動に駆られる。
矩子のような「お姉さん」で躓いた時、柏木由紀さんのような「若い女の子」に癒やされたくなるのは、若さを失った者の本能として当然の感情であろう。わしだって、そこら辺の主婦より若いアイドルの方が良いに決っている。矩子に攫われた台の釘チェックができなかったのが心残りだが、打っていた甘海を一応キープしてバラの儀式のシマへ様子を窺いに向かった。
この時点でわしの頭の中はすでに「ゆきりん」で埋め尽くされていたため、移動の途中で新入りと思われる所見の女子店員とすれ違った際、どこからどう見てもゆきりんとは違うタイプだったが、不覚にも「ゆきりんに見えてしまう」という幻覚に惑わされてしまう。
このザマでは、もう病気の域に達しているのではなかろうか…。深呼吸を2度3度繰り返し、昂ぶった気持ちを落ち着かせるまでに時間を要してしまった。今日はなんだか調子が狂うなぁ。
なんとか正気を取り戻してバラのシマに急行したが、釘を一瞥しただけで甘海より渋い調整なことが明白だったため、とんぼ返りで甘海のシマへ舞い戻ることになった…ん? ん!?!?!?!
なんたる!
渡り鳥・矩子はすでに別の台に移っているではないか! 華麗に過ぎるのではないか!? わしはあんぐりと脱力してしまった。しかも、渡り鳥が飛び立った台にはすでに別の客が座っている。
なんということだ…。
確かに時間をロスしてしまったが、まだ開店から1時間も経過していないではないか! 渡り鳥の移り気というか、天性の勘というか、まあそれを何と形容しても良いのだが、「1時間すら打たないヌルい感覚で人の狙い台を奪ってんじゃねぇ!」という感情の沸騰を止めることは不可能だった。
わしは完全に戦意を喪失、呆然自失。当然ながら矩子にはなんの落ち度もないのだが、どうも心の整理がつかない。そのままとぼとぼと帰路へつくに至る。他に優秀台がなかったことだけは付け加えておこうか。
余談ながら、帰宅後改めて自身の台取りに対する心構えを反省した。そして、矩子が「飛ぶ鳥跡を濁さず」を実践し、朝イチで確保した台を容赦なく切り捨てる引き際の見事さに感じ入ったのだった。
追記
先場所32度目の優勝を果たした白鵬の実績に対してイマイチ世間の評価が低いような気がしている。確かに、先輩横綱だった朝青龍以外は強力なライバル不在で一人横綱の時代も長かったから、当然の結果だと思われているのかもしれない。大鵬親方を超える33度目の優勝を果たした暁に世間の評価がどのように変わってくるのだろうか…。
とりあえず、当面のライバルとして西の横綱・鶴竜の奮起に期待している。なんだかんだ言っても、わしは鶴竜贔屓だ。朴訥な人柄は好感度抜群だし、並(平均的な)の横綱クラスの実力は大いに認めている。ただ、同じ時代に大横綱がいるがために彼の存在が霞んでしまう。それも人柄なのだろうが、損な役回りが多い鶴竜を愛してやまないのだ。