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- 打チ人知ラズ。(わし)
この道しかない
マイホールでの顔見知りは多いのだが、会話をする間柄にまで発展するには、やはり何かのキッカケが必要だ。隣り合った青年の吹かすタバコの煙がわしの顔面を襲い続けた末にクレームを付けたことがキッカケになったり、はたまた、苦労の末(莫大な投資の末)待望の魚群が出たのにハズれてしまい、肩を落として嘆く老婆をなだめたことがキッカケになったこともあった。
前回紹介した「栄一」とは長く顔見知りではあったが、わしの中では「いっつもおるオッサン」というだけの存在だった。そんな栄一と話すキッカケになったのは、ある日、ホール脇のベンチで昼食の弁当を食べていた時に背後から突然「美味そうだな」と声をかけられたことに始まる。
この時、実は投資がいつ終わるか分からない大ハマリを喰らっていた。軍資金確保の観点から、情けない話であるが、一番安い200円(税抜)のコロッケ弁当しか買えずにいたわけだが、そこへ、投資への不安と大ハマリの苛立ちが相乗効果で感情の乱気流を生み出す中、栄一がカットインしてきたのだ。
この時は早く稼働に戻りたい一心で弁当を貪っていたのだが、空気を読めない栄一に対し、「やかましわ! 200円の弁当が美味いわけないやろっ」と内心では口汚く罵っていた。
しかしコロッケから栄一に視線を向けると、缶チューハイ(レモン味)片手のおっさんが、酔っ払い独特のとろけるような微笑みをわしに投げかけてきた。こんなやつに何を言っても始まらんわな…わしもつられてとろけるように脱力した。
しかしここで引き下がるような栄一ではない。何を思ったのか、「コロッケが2個付いていて豪華だな」などと、極めてどうでもいいおかずの解説をし始めたのだ。
しかしわしは大阪人なので、この手の安物話には一家言持っている。そこで、
「でもオッチャンな、このコロッケは単品売りで30円やからな、白飯と梅干しと容器代込で200円でも充分儲かってるハズやで? だいたいコロッケちっちゃいやんけ? せやから別に安ないで?」
などと、地丸出しで返してしまった。
余談ながら、栄一はわしが喰らいついている弁当が200円であることは知らない。そもそも「安い」とは一言も言っていないのだから当然なのだが。もしここでわしが値段を出して「嫌味でも言うとんのか?」と反論したならば、「なんだ、200円の弁当なんか食ってんのか!?」と思ったかもしれない。
しかし、わしは栄一に露骨な嫌味を言うでもなく、外形的にはコミュニケーション的なものが発生してしまったわけだ。だがここで会話が弾まないのはさすがの栄一だ。その返しを聞いたおっさんはすでに完全な酔っ払いであった。負けずに何かを言い返してきたが、返答に中身がないのでよくは覚えていない。ただただホールの悪口を言い立てていただけだった。つまるところ、栄一は残酷なまでに負けて昼間から自棄酒を煽っていたのだろう。酒でも呑まないとやってられなかったに違いない。
外形的には酔っ払いに軽く絡まれたというだけの話なのだが、わしの琴線に触れる一言に過剰に反応してしまったため、ハマリに費やすべき貴重な時間を失うハメになってしまった。いずれにせよ、この生産性のまったくない時間が、栄一と会話をするキッカケとなったのは事実である。これ以降たまに話をする関係に発展したが、ほぼ全てが極めてどうでもいい内容だったのは言うまでもない。
そんなある日、沖海3を打っていると、素面の栄一が近づいてきた。そしてわしの台の数日間の履歴を確認して「こんな台、もう出ねぇよ、ハハハ」などと言い残し去っていく。自分が出ない(出せない)から単なる嫌がらせ発言(栄一流のジョーク)なのだが、栄一が言うとあまり嫌な気分にならなかった。これが栄一の「徳」かもしれない。
するとわしも負けてはいられない。逆に打っている栄一に忍び寄り「この台、絶対ハマるで」と、これまた根拠のない発言を耳元で囁き、振り返りもせずに去っていくのが日常になっていった。目には目を…ではないが、最近これがお互いの挨拶代わりになっている。
おっさん同士で何をしてるんだか…と時にうんざりすることもあるが、いつのまにかお互いを気にする関係になってしまったわけだ。不思議なものである。
そんな栄一との雑談で印象深いのは、「俺は1940年の生まれだから1と9と4の3連単で7000倍が当たったことだね。言っとくけどBOXじゃないからな。ストレートだぞ。ハハハ」と、馬券の話になった時に放った一言だ。「いくら買ってたの?」と聞くと、「いやー100円なんだけどさー、まさかさあー、デタラメで買っただけなのに、俺の生まれた年もまんざらじゃないよな、ハハハ」と、ご満悦だった。
そんなこともあるのか…どうせマグレに決まっていると思いつつ、今後買う全レースで1→9→4の3連単を100円ずつ買い続けるのだろうと思った。デタラメで勝った縁起を担ぎ続けることが、この類の人種にとって「この道しかない」と信じるに足りる道だと思ったからだ。
くだらない話ばかりではあるが、思えばわしも色々と栄一と話し込んでいる。無意識ながらも栄一のことが好きなのかもしれない。こんなことは奴には言わないが、栄一には長生きしてほしいものだ。
さて、「この道しかない」といえば、安倍総理によって衆議院が解散された。前回も12月の選挙で大勝したからゲンを担いだのかもしれない。様々な憶測が各種報道で流れているが、場末のパチンコ打ちでは総理の本心を忖度のしようもない。当たり前だが。
9月末に招集された臨時国会におけるカジノ法案の行方に注目していることは以前書いた通りだが、内閣改造人事の影響から複数の新任閣僚に「政治とカネ」の問題が噴出した。この問題と他の重要法案との兼ね合いで、カジノ法案の審議時間が取れそうになくなった時点で「審議されず廃案」を覚悟した。
ところが、「解散に伴い廃案」という大どんでん返しが起こった。廃案の理由が解散とは、わしの思惑を大きく超えていった。総理の本心は知る由もないが、個人的にアベノミクス(経済運営)を争点にすると総理の思惑を超えたどんでん返しが待っているかもしれないとも思っている。
とにかく、わし自身の判断で清き一票を投じたい。政党毎、自身の選挙区候補者の主張を吟味しているところだ。